「ラ・ボエーム」は、「椿姫」や「カルメン」と並んで、人気の高いオペラのひとつです。「椿姫」や「カルメン」と比べると、一般認知度は低めですが、オペラファンには人気の作品。上演回数が多く、実際に劇場で見ることの出来るチャンスが多いので、初心者でも押さえておくとよいオペラです。
ラ・ボエーム、オペラ:人物相関図
ラ・ボエーム、オペラ:登場人物
ロドルフォ | 詩人 | テノール |
ミミ | お針子 | ソプラノ |
ムゼッタ | マルチェッロの恋人 | ソプラノ |
マルチェッロ | 画家 | バリトン |
コッリーネ | 哲学者 | バス |
ショナール | 音楽家 | バリトン |
ベノワ | 家主 | バス |
アルチンドーロ | ムゼッタのパトロン | バス |
- 原題:La Bohème
- 言語:イタリア語
- 作曲:ジャコモ・プッチーニ
- 台本:ルイージ・イッリカ ジュゼッペ・ジャコーザ
- 原作:アンリ・ミュルジュ「ボヘミアンたちの生活情景」
- 初演:1896年2月1日 トリノ レージョ劇場
- 上演時間:1時間50分(第1幕30分 第2幕20分 第3幕30分 第4幕30分)
ラ・ボエーム、オペラ:簡単なあらすじ
パリの屋根裏部屋で、4人のボヘミアンが貧しいながらも気ままな生活を送っている。その中の一人、詩人のロドルフォが部屋に残っていると、ミミが彼の火を借りに来る。二人は恋に落ちる。
なんて冷たい手なんだ。
どうか私を知ってください。私は詩人です。貧しさの中で、愛の詩や夢を見ます。空想と幻想は紳士のものです。
私の名前はミミです。本名はルチアです。なぜか、みんなはミミと呼びます。
私は家でも店でもシルクの布に花の刺繍をしています。好きなものは愛と夢について語るもの。詩が好きです。
二人は付き合い始めるが、彼らはお金がない。ミミの病気は悪化し、ロドルフォの経済状況では彼女を助けることができず、二人は別れてしまう。
ミミはパトロンと暮らしていたが、病気が悪化し、一人で町を彷徨っていた。ムゼッタの助けを借りて、屋根裏部屋に戻る。そんな彼女にルドルフォが再会する。ミミの死。
ラ・ボエーム、オペラ:第1幕のあらすじ
パリの屋根裏部屋
1830年頃のパリ。冬の日。詩人のロドルフォは、窓の外を見つめ、画家のマルチェッロは、絵を描いている。
寒くて、絵を描くことなんて出来やしない。おい、お前何してんだよ。
灰色の空にたくさんの煙が上がるのを眺めているのさ。それに、おんぼろ暖炉が働かないな、と考えている。
「灰色の空に煙が上がり」Nei cieli bigi guardo fumar
暖炉は報酬(薪)をもらってないんだから、動かないさ。いっそ、いすを壊して薪にしてしまおうか?
アイデアを燃やすのさ。俺の原稿を燃やしてしまおう!
二人はやけくそになり、暖炉に火をつけ、ロドルフォの原稿を入れて暖をとる。友人の哲学者が、部屋に入ってくる。
哲学者
おや、暖炉に火が!
黙って、俺の原稿による炎を見ろよ。
哲学者
でも、これじゃ長く続かないな。
ああ、もう消えてしまった。
友人の音楽家が、食料や薪を持った店員たちと一緒に帰ってくる。テーブルには金貨と銀貨をばらまく。
薪、酒、食べ物!金貨に、銀貨!
音楽家
フランス銀行が君たちのせいで破産するぞ!さて、俺が金貨と銀貨をたんまり手に入れた顛末をお話ししよう。
「フランス銀行は君たちのせいで」La Banca di Francia
暖炉に薪をいれないとな。
火打石を探さないと。
音楽家
俺はイギリス人に音楽家として雇われた。
哲学者
(食卓に食事を並べながら)これはうまそうな肉だ。
甘いものまである!
音楽家
イギリス人が言うには「オウムが死ぬまで演奏してくれ」だと。3日弾き続けたとき、俺はひらめいた。女中を誘惑してオウムに毒を盛らせたのさ。
テーブルクロスがないな。
新聞を敷けばいいさ。
音楽家
俺の話を聞けよ!こら!食料をすぐに食べようとするな!備蓄に回せ!クリスマスイブだぞ!街に繰り出して、外で食事だ!!
ドアをノックする音。家主の男が家賃の催促に来た。
家主
3か月分の家賃を支払え。
もちろんですよ。金はありますから。ずいぶんお若く見えますね。ある晩、若い女性といるところを見た人がいるそうですよ。
お若いですね!
家主
いやまあ、私は若いころは真面目だったからね。ちょっと羽目を外しているんだよ。女はふっくらしたのがいいね。細いのはいかんよ。うちの奥さんみたいに。
奥さんがありながら、女遊びを!
ひどいぞ。清らかな我が部屋から、汚れた者は追い出さないと。
家主
いや、まあ聞いて!
家賃は払ったことにしてくれ。
4人で家主を追い出す。
じゃあ、街に繰り出そう!
俺は残るよ。新聞記事を仕上げないと。5分で行く。
下で待ってる。遅かったら、俺たちの合唱を聞くことになるぞ。
3人は家を出て行く。階段を転げ落ちたり、騒々しく出かけていく様子が、家の中にまで聞こえてくる。
部屋にロドルフォがひとりになる。ノックをする音。女性の声。
ろうそくの火が消えたので、お願いできませんか?
具合が悪そうですね。
…息が。階段を上がってきたので。(ふらつく)
倒れそうになったミミを、ロドルフォが支える。気を失った様子で、ミミは部屋の中の長いすへ。ミミの手から、ろうそく立てと鍵が落ちる。
(どうしよう。)
水を振りかけると、ミミが目覚める。
(かわいい子だな。)
少しよくなりました。あの、火をいただけますか?
ロドルフォが落ちていたろうそく立てを拾い、火をつけて渡す。ミミは部屋から出て行こうとする。
(出て行き、戻ってくる)部屋の鍵を落としたみたいで…
ドアの近くでは、炎が消えてしまいますよ。
ミミのろうそくの火が消える。ロドルフォが、ミミのろうそくに火をつけようと近づくが、彼の火も消えてしまう。部屋は暗くなる。
一緒に鍵を探してくださいませんか?
ふたりは、床の上を手探りで鍵を探す。
あっ!
鍵を見つけるが、ポケットに隠す。
見つかったのですか?
ロドルフォはミミの方へ近づく。暗闇の中で鍵を探しているふりをしつつ、ロドルフォはミミの手を握る。
なんて冷たい手なんだ。僕を知ってください。僕は詩人。貧しさの中で、愛の詩や夢を見るのです。空想や幻想は、紳士が見るもの。心の贅沢ですよ。
「冷たい手を」Che gelida manina
「冷たい手を」Che gelida manina|ラ・ボエーム
私の名は、ミミ。本当の名前はルチアです。なぜか、みんなはミミと呼びますけど。
家や店で絹の布に、花を刺繍をしています。私の好きものは、愛や夢について語るものです。詩というものが、好きなのです。
「私の名はミミ」Sì, mi chiamano Mimì
「私の名はミミ」Sì, mi chiamano Mimì|ラ・ボエーム
二人が見つめ合っていると、外にいる3人が声を上げている。
ロドルフォ!のろま!遅いぞ。何やってんだ。
ロドルフォは、窓から体を乗り出して、返事をする。
今、ひとりじゃないんだ。先に行ってくれ!
3人は出かけていく。ロドルフォとミミは、窓辺で見つめ合う。
愛しい乙女よ。月の光に照らされた美しい顔よ。あなたの中に、僕が夢見たものを見ることができる。
友達と出かけるのでしょう?もしあなたとご一緒できたら?
なんだって?ここにいた方がいいよ。外は寒いし。
あなたのそばにいるわ。街から帰ってきた後も。
ふたりは街に出かけていく。
ラ・ボエーム、オペラ:第2幕のあらすじ
カルチェ・ラタンのカフェ・モミュス
夜。パリの通りを人々が行き交う。ロドルフォとミミは、店で女性用の帽子を買った後、街を歩く。
きれいなネックレス!
僕には金持ちの叔父がいるんだ。いずれもっと素敵なネックレスを買ってあげるよ。
ふたりは、男3人とカフェで合流する。
彼女はミミ。花作りのお嬢さんさ。
男たちはミミを歓迎する。
ロドルフォからプレゼントに何をもらったんだい?
ピンク色のボンネット(帽子)です。彼は私の欲しいものをすぐにわかってくれたわ。詩人だから、愛を読む力があるのね。
カフェに、華やかな美人ムゼッタと金持ちそうな老紳士が入ってくる。マルチェッロは女に気がついて、不機嫌になる。
あいつだ!
ルル。おいで!
老紳士
頼むから、その呼び方は、二人だけの時にしてくれ。
ムゼッタと老紳士は、ミミたちの近くのテーブルに座る。
哲学者
うわべだけの男に見えるな。
貞淑な女を連れてな。
彼女はとても身なりがいいわよ。
天使は裸になるよ。
みんな知っているようだけど、彼女は、誰なの?
俺が答えるよ。彼女はムゼッタ。小悪魔さ。俺の心はボロボロだ。
ムゼッタは、カフェの中で気ままに振る舞って、老紳士をはらはらさせている。
(マルチェッロ!こっちを見なさいよ。私が、彼の心をまだ掴んでいるのか、試してやるわ。)
(マルチェッロに向かって)まだドキドキしているんでしょ。思い出しては苦しんでいる。でもね、私は好きなようにやりたいのよ!
「ムゼッタのワルツ」Quando men vo soletta per la via
「ムゼッタのワルツ・私が歩いている時は」Quando men vo soletta per la via|ラ・ボエーム
老紳士は、自分に言われていると思って、動転している。
私は彼女の気持ちがわかるわ。マルチェッロを愛しているのね。
マルチェッロは、かつてムゼッタを愛していたのさ。でも、あの女はもっといい生活をしたくて、マルチェッロを捨てたんだ。
(マルチェッロは私を見て、動揺しているわね。もうこの老人とは別れよう。)足が痛い!
(やっぱり彼女が好きだ。彼女の思い出は死んでなかった。)
足が痛い!
店の中で、スカートを上げて足を見せる。
どうしても痛いの!靴を買いに行ってちょうだい。
老紳士
わかったから、スカートは降ろして。
老紳士に靴を買いに行かせる。マルチェッロとムゼッタは抱き合う。みんなの食事の会計を、老紳士に払わせるようにしてから、みんなで街に出て行く。靴を買って戻ってきた、老紳士は、請求書を見てびっくりする。
ラ・ボエーム、オペラ:第3幕のあらすじ
アンフェール門の前
2月、雪の日の朝。門の近くには、マルチェッロとムゼッタが働く居酒屋がある。ミミが、マルチェッロに会いにやってきた。居酒屋からマルチェッロが出てくる。
ミミ、さあ、入って。ここじゃ寒いだろ。
ロドルフォがいるなら入らない。マルチェッロ。助けて。私も彼も愛し合っているけれど、彼の嫉妬に苦しめられているの。
私が何をしても不機嫌になるのよ。夜に寝たふりをすると、彼の気配を感じて、私の夢を探っているのを感じるわ。いったいどうしたらいいの?夜明けに彼は「もう終わりだ」と出て行ってしまった。
「二重唱」O buon Marcello, aiuto!
君たちみたいになったら、普通は一緒に暮らさないよ。あ!!店の中でロドルフォが、俺を探している。店の外に出てくるぞ。
彼には会えない。
それなら家に帰って。ここで騒ぎを起こさないでくれ。
ミミは身を隠す。ロドルフォが店から出てくる。
マルチェッロ、ここなら誰にも聞かれないな。俺はミミと別れることにしたんだ。彼女といるとうんざりだし、何よりも浮気者でさ。
お前、本心を言っていないだろ?
そうさ。彼女はひどい病気なんだ。僕には何もできない。
かわいそうな、ミミ。
(私、死ぬの?)
激しい咳とミミの泣き声がふたりに聞こえる。
どうして、ミミ。聞いてしまったのか。
店からムゼッタの笑い声が聞こえてくる。
ムゼッタが他の男と楽しんでいるみたいだ!
マルチェッロは居酒屋の中に戻っていく。
さようなら。作り物の花を刺繍する日々に戻るわ。ピンク色のボンネットは、愛の形見にあなたが持っていてね。
「あなたの愛の呼ぶ声に」D’onde lieta uscì al tuo grido d’amore
「あなたの愛の呼ぶ声に」D’onde lieta uscì al tuo grido d’amore|ラ・ボエーム
それじゃあ、僕たちは終わってしまうんだな。
さようなら、甘い目覚めよ。
「四重唱」Addio, dolce svegliare
さようなら、甘い人生。
あの男と何してたんだ!
一緒に踊って何が悪いのよ!気に入らないなら、別れるわ!
二組の恋人が別れを決める。
ラ・ボエーム、オペラ:第4幕のあらすじ
パリの屋根裏部屋
ルドルフォとマルチェッロは、昔の生活に戻っている。
ムゼッタを見たよ。豪勢なパトロンを得ているようだよ。
俺はミミを見た。着飾って馬車に乗っていたよ。
お互いに「それはよかったな」と言いつつ、本心ではないことをわかっている。
ミミは戻ってこない。なんて短い青春。
あれこれ描きたいと思っても、ムゼッタを描いてしまう。
哲学者と音楽家が部屋に帰ってきた。4人で楽しそうに、食事をしたり踊ったり。
ムゼッタが動揺した様子で入ってくる。
ミミが階段にいるの。これ以上彼女は動けないわ。
男たちの協力でミミをベッドまで運ぶ。
ロドルフォ。あなたと一緒にいてもいい?
ああ、いつまでも。
ムゼッタは彼らにこっそり話す。
「ミミがパトロンから逃げ出した」と人から聞いて、彼女を探したの。彼女が道をさまよっているところを見つけたわ。彼女に「もう長くないから、ロドルフォのところに連れて行って」と頼まれたのよ。
楽になってきたわ。ここは素敵ね。私を一人にしないで。
もちろんだ。
この家には何があるの?ワインやコーヒーは?
何もない。
とても寒いの、手が冷たい。マフ(円筒状の手を入れる防寒具)があったらいいのに。
僕の手で暖めるよ。
ムゼッタはマルチェッロに自分のイヤリングを渡す。
あなたはこれで医者を呼ぶように。私は自宅にマフを取りに行く。
なんて最高なんだ。俺のムゼッタ。
ムゼッタとマルチェッロは一緒に出て行く。
哲学者
古びた外套よ、聞いてくれ。私は地上に残るが、お前は神聖な山を登るのだ。権力者にも負けず、詩人や哲学者を温めてきた。幸せな日々は終わりだ。さようなら。
「古びた外套よ」Vecchia zimarra, senti
哲学者は自分の外套を売りに出かけて、音楽家も席をはずす。部屋には、ロドルフォとミミだけ。
みんないなくなったのね。寝たふりをしていたの。あなたと二人になりたかったから。
ロドルフォは、ピンク色のボンネット(帽子)をミミに渡す。
私のボンネットね。初めて出会ったときのことを覚えているかしら。あなた、すぐに鍵を見つけてくれていたのよね。
運命を助けたのさ。
ミミの体調が悪くなる中、皆が戻ってくる。ムゼッタがミミに、マフ(手の防寒具)を手渡す。
綺麗で柔らかいマフなの。ロドルフォ、あなたがくれたの?
そうよ。
ありがとう。ロドルフォ、泣いているの?私は大丈夫なのに。手が温かい。眠りましょう。
ミミは眠り、みんなが黙り込む。
…医者は?
もうすぐだ。
神よ、かわいそうな彼女にお恵みを。
音楽家
(マルチェッロに小声で)彼女は亡くなっている。
ロドルフォは、ミミの顔に屋根部屋の窓から明かりが差していることに気がつく。光を遮るものを探す。マルチェッロはベッドに近づき、ミミの死を確認。
哲学者が戻ってきて、テーブルの上にお金を置く。
哲学者
ムゼッタ。これをミミのために。
ロドルフォが、様子のおかしい音楽家とマルチェッロに気がつく。
ふたりして、どうして僕の様子を伺うんだ?
マルチェッロは耐えきれずにロドルフォを抱きしめる。
しっかりするんだ。
…ミミ、ミミ!!
ロドルフォはミミに駆け寄り、号泣。ムゼッタもベッドの側に駆ける。