アンドレア・シェニエ 第3幕
ジェラールはマッダレーナに恋するあまり、彼女の思い人である詩人のアンドレア・シェニエを告発する文書を書きます。嫉妬や自己嫌悪など複雑な心情が垣間見える歌で、聞き応えのある「祖国の敵」です。
「祖国の敵」Nemico della Patria【歌詞と対訳】
Nemico della Patria?!
È vecchia fiaba che beatamente
ancor la beve il popolo.
Nato a Costantinopoli? Straniero!
Studiò a Saint Cyr? Soldato!
Traditore! Di Dumouriez un complice!
E poeta? Sovvertitor di cuori
e di costumi!
祖国の敵?!
使い古されたおとぎ話だが、
それでも人々は受け入れるのだ
コンスタンティノープル生まれ?外国人だ!
サン・シール(士官学校)で学ぶ?兵士だ!
裏切り者!デュムーリエの共犯者だ!
詩人?心(と品行)の破壊者だ。
そして品行の!
Un dì m’era di gioia
passar fra gli odi e le vendette,
puro, innocente e forte.
Gigante mi credea…
Son sempre un servo!
Ho mutato padrone.
Un servo obbediente di violenta passione!
Ah, peggio! Uccido e tremo,
e mentre uccido io piango!
Io della Redentrice figlio,
pel primo ho udito il grido suo
pel mondo ed ho al suo il mio grido unito
Or smarrita ho la fede
nel sognato destino?
Com’era irradiato di gloria
il mio cammino!
あの頃は幸せだった
憎しみと復讐の間を行き来して
純粋で無邪気で、強かった
自分は巨人だと信じていた
私はまだ下僕のままである!
主人を変えただけの
暴力的な情熱に従順なしもべだ!
ああ、最悪だ!殺しては震え
殺しながら、涙を涙す!
革命の息子となって
その叫びを最初に聞いた
世界のために、自分の叫びを結びつけた
自分の信念を失ってしまったのか
私の夢見た運命の中で?
いかに栄光に満ちていたことか
私の道は!
La coscienza nei cuor
ridestar delle genti,
raccogliere le lagrime
dei vinti e sofferenti,
fare del mondo un Pantheon,
gli uomini in dii mutare
e in un sol bacio,
e in un sol bacio e abbraccio
tutte le genti amar! etc.
Or io rinnego il santo grido!
Io d’odio ho colmo il core,
e chi così m’ha reso, fiera ironia
è l’amor!
心の中の良心を
人々に目覚めさせる
(負けた者の)涙を集める
負けて苦しんでいる者の
世界を神殿にして
人々を神に変えるのだと
一度のくちづけで
一度のくちづけと抱擁で
すべての者が愛し合うと。
私は聖なる叫びを否定する!
私の心は憎しみで満たされている
何が私をそうさせたのか、皮肉にも
愛だ!
【解説】悪人になりきれない、ジェラールの葛藤
Saint Cyr…サン・シール(士官学校)
現在でもある、フランスの陸軍士官学校。
Dumouriez…デュムーリエ
フランス軍の将軍。政府の方針を無視してオランダに侵攻するが、オランダとオーストリアの連合軍に敗北。勝手な行動をしたためジャコバン派から批判を受ける。政府を裏切り、王権回復を試みるが失敗。亡命先のイギリスで余生を過ごす。
シェニエに対して告発状を書いてはいますが、フランス革命前の希望に満ちていた自分と、革命後の理想とは違う実態に苦悩してます。このアリアがあることで、ジェラールの内面に踏み込めると思います。