アイーダ 第1幕
エジプトの捕虜となり、奴隷として暮らしているアイーダ。実は、エチオピア王女であることを隠している。エジプトの軍人ラダメスとの秘密の恋が、ささやかな喜び。
ところが、エチオピアがエジプトに侵入してきたため、戦争が勃発。ラダメスがエジプト軍の司令官に選ばれ、「勝ちて帰れ」とエジプト人たちの歓声で見送らる。アイーダも奴隷として「勝ちて帰れ」と言い送り出した。父とラダメスの戦いであり、心配は尽きない。
父(エチオピアの国王)…アイーダはエチオピアの王女であることを隠している
ラダメス…秘密の恋のため、関係を隠している
父もラダメスも心配だが、どちらに対しても公で心配することが出来ない。その中で歌われるのが、「勝ちて帰れ」です。
「勝ちて帰れ」Ritorna vincitor! 歌詞と対訳
Ritorna vincitor!… E dal mio labbro
uscì l’empia parola! Vincitor
del padre mio… di lui che impugna l’armi
per me… per ridonarmi
una patria, una reggia, e il nome illustr
che qui celar m’è forza. Vincitor
de’ miei fratelli… ond’io lo vegga, tinto
Del sangue amato, trionfar nel plauso
dell’Egize coorti! E dietro il carro,
un Re… mio padre… di catene avvinto!
勝利して帰れ!…私の口から
恐ろしい言葉が出てしまった!勝利とは、
父を倒すこと。…父は武器を取り、
私のために…私に(故郷を)取り戻させようとしている。
故郷、宮殿、輝かしい名という
ここで私は隠しているものを。勝利せよとは
私の同胞を倒すこと…私は彼を見るのでしょう。
私の同胞たちの血で染まり、エジプト人の歓声を
受けて凱旋している姿を!彼の戦車の後ろには、
王、私の父が…鎖に繋がれている!
L’insana parola,
o Numi, sperdete!
Al seno d’un padre
la figlia rendete;
struggete le squadre
dei nostri oppressor! Ah!
sventurata che dissi?… e l’amor mio?
愚かな言葉を
おお神々よ、散らしてください!
父の胸に
娘をお返しください
軍隊を奮起させてください。
私たちを侵略する
不幸な女、何と言ったの?
Dunque scordar poss’io
questo fervido amore che, oppressa e schiava,
come raggio di sol qui mi beava?
Imprecherò la morte
a Radamès… a lui ch’amo pur tanto?
Ah! non fu in terra mai
da più crudeli angosce un core affranto.
忘れることができるというの?
この燃える愛を、虐げられた奴隷の身を
一筋の光のように祝福してくれたように
死を願おうだなんて
ラダメスの …これほど愛する人の死を?
ああ!これ以上はなかったほどの
残酷な苦悩で苦しめられている。
I sacri nomi di padre, d’amante
né profferir poss’io, né ricordar;
per l’un… per l’altro… confusa, tremante,
io piangere vorrei, vorrei pregar.
Ma la mia prece in bestemmia si muta…
delitto è il pianto a me, colpa il sospir…
in notte cupa la mente è perduta,
e nell’ansia crudel vorrei morir.
父よ、恋人よという神聖な言葉さえ
口にすることも、思うこともできない
一人のために…もう一人のために…混乱し、震え、
泣きたい、祈りたい。
けれど、私の祈りは神への冒涜になり…
涙は私には罪、ため息は罪になる
憂鬱な夜は心が迷い、
残酷な不安の中で、死にたくなる。
Numi, pietà del mio soffrir!
Speme non v’ha pel mio dolor.
Amor fatal, tremendo amor,
spezzami il cor, fammi morir!
Numi, pietà del mio soffrir!
神々よ、私の苦しみを憐れみください!
私の苦悩には希望がありません
死に至る愛が、恐ろしい愛が、
私の心を打ち砕き 私に死をもたらすのです!
神々よ、私の苦しみに憐れみを!
【解説】アイーダは、輝かしい名前(本当の名前)を隠している
「勝ちて帰れ」では、アイーダは、輝かしい名を隠して、エジプトで奴隷として暮らしていることがわかります。確かに、本当の名前では、エチオピアの王女であることを隠すことが出来ないでしょう。
e il nome illustr che qui celar m’è forza. ここでは隠しておかねばならない輝かしい名前
最後には、二人の恋の行く末を予感させる言葉が入っています。
Amor fatal, tremendo amor, spezzami il cor, fammi morir!
死に至る愛が、恐ろしい愛が、私の心を打ち砕き 私に死をもたらすのです!
神に祈りながら、致命的な結果をもたらしそうな愛に不安を感じているようです。