「コジ・ファン・トゥッテ」は、モーツァルトが作曲したオペラで、「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」と並ぶ「ダ・ポンテ三部作」の中のひとつです。2組のカップルがいて、変装した男たちが互いの恋の相手を誘惑、女の貞節を試すという不道徳な内容だったため、評価が低いオペラでしたが、20世紀以降、きちんと評価されている作品です。
コジ・ファン・トゥッテ、オペラ:人物相関図
コジ・ファン・トゥッテ、オペラ:登場人物
フィオルディリージ | ソプラノ | |
ドラベッラ | メゾソプラノ | |
デスピーナ | 女中 | ソプラノ |
グリエルモ | フィオルディリージの恋人・士官 | バリトン |
フェルランド | ドラベッラの恋人・士官 | テノール |
ドン・アルフォンソ | 老いた哲学者 | バス |
- 原題:Così fan tutte
- 言語:イタリア語
- 作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
- 台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ
- 初演:1790年1月26日 ウィーン ブルク劇場
- 上演時間:2時間35分(第1幕80分 第2幕75分)
コジ・ファン・トゥッテ、オペラ:簡単なあらすじ
グリエルモとフェルランドが恋人の素晴らしさを語る中、哲学者は「女は貞操観念がない」と言い放つ。哲学者と彼らは、恋人が浮気をするかどうか賭けをする。
フィオルディリージとドラベッラは恋人を愛している。彼らは兵士として出て行ったふりをして、別の人物になりすまし戻ってくる。二人は恋人を交換し、姉妹を誘惑する。しかし、彼女たちはその誘いに乗らない。哲学者は、この恋愛ゲームを成功させるために、姉妹のメイドであるデスピーナを参加させる。
デスピーナの協力で、姉妹は彼らのプロポーズを受け入れる。グリエルモとフェルランドは兵士として戻ってくる。恋人たちは元の関係に戻る。
コジ・ファン・トゥッテ、オペラ:解説
定番の組み合わせ
ソプラノ×テノール
メゾ・ソプラノ×バリトン
元々の恋人よりも、入れ替わった後のほうが「声の組み合わせ」としては、ぴったりくるようになっています。
コジ・ファン・トゥッテ、オペラ:第1幕のあらすじ
第1場
ナポリのカフェ
18世紀末のナポリ。カフェで、青年士官のグリエルモ(姉の婚約者)、フェルランド(妹の婚約者)、老いた哲学者(ドン・アルフォンソ)が雑談している。
僕のドラベッラは、美しく誠実な女性さ。
「三重唱」La mia Dorabella capace non è
僕のフィオルディリージだって、裏切ることはないよ。
哲学者
私は白髪があるし、恋なんて無縁だよ。そろそろこの話題はやめよう。
あなたが言い出したのですよ。彼女たちは不実かもしれないって!
哲学者
まあまあ落ち着いて。君たちの恋人たちは本当に貞節があるのかね?
もちろんだとも。
哲学者
女の貞節なんて、不死鳥くらい信じられないものだよ。
「三重唱」E’ la fede delle femmine
僕たちの恋人は、不死鳥だよ。教養があり、品がいい。何より僕たちと愛を誓い合っているのだから。
哲学者
もし君たちの恋人が他のご婦人たちと変わらない(貞節ではない)と、私が証明できたらどうしてくれる?賭けをしようか?
賭けましょう。もっと金額が高くてもかまいません。
哲学者
この賭けについて、君たちの恋人に目配せや遠回しな言葉で教えないで下さいよ。それに、私の指示通りに動いて下さい。
いいですとも!!僕たちは賭けに勝ちますよ。
美しいセレナーデを彼女に贈ってあげたいな。
「三重唱」Una bella serenata
賭けに勝ったお金で、彼女たちに素敵なパーティーを用意しよう。
哲学者
私も招待してくださいね。
第2場
海辺の庭園
フィオルディリージとドラベッラが手元にある、それぞれの恋人(グリエルモ、フェルランド)の小さな肖像画に見とれている。
見てよ。彼って魅力的。こんなに素敵な人ってこの世にいないわ。
「二重唱」Ah, guarda, sorella
私の彼だって!私たちの結婚はそう遠くないわよ。彼らがなかなか来ないわ。もうすぐ会えるはずなのに…あのひとは、彼らのお友達よ。
ふたりを訪ねてきた哲学者。
哲学者
どうも…言いたいことがありますが、あなた方と彼らが気の毒で。
「言いたいけれど勇気がない」Vorrei dir, e cor non ho
何か悪いことでも?
哲学者
あなたたちの婚約者は、戦地に行くことになったのですよ。気の毒な彼らは、あなたたちに会う勇気がないのです。君たち、入ってきなさい。
庭園の影から、姉妹の婚約者が軍服姿で現れる。
この足をあなたの前に向かわせるのがつらい。愛する君を置いていかなければならない。なんてむごい運命だ。
「五重唱」Sento, oddio, che questo piede
僕はつらくて言葉が出ないよ。
姉妹たち
悲しすぎるわ!いっそ残される私の胸に剣を突き立てて下さい。
姉妹は嘆き悲しむ。男たちは哲学者にこっそり話す。
(どうだ?僕たち、うまくやっているだろ?)
哲学者
(まだ途中ですぞ。)
あなたたちのつぶらな瞳が運命を支配するのだ。野蛮な運命であろうとも、愛が防いでくれるだろう。
哲学者
(二人ともしっかり演じているな。)
出発の太鼓の音だ。もう行かなくては。
姉妹たち
ああ、私たちはもう死んでしまいそうよ!!
海岸に船が到着する。大勢の兵士たちが現れて、彼らを見送る群衆もその場に集まってくる。
毎日手紙を書いてちょうだいね。
「五重唱」Di scrivermi ogni giorno
もちろんだとも、さようなら。さようなら!!
姉妹と婚約者は別れを言い合う。船に乗り込み、次第に遠ざかっていく。集まっていた群衆は去る。
ああ、船が遠くなっていくわ!風よ、穏やかになってちょうだい。
「三重唱・風よ穏やかになれ」Soave sia il vento
なんてつらい別れなの。航海が無事でありますように。
哲学者
あなた方の恋人であり、私の友である彼らを守りたまえ。
「三重唱」Soave sia il vento|コジ・ファン・トゥッテ
小さくなる船を見て、姉妹は去る。ひとり残った哲学者。
哲学者
うまくいったぞ。女を信じる若者ふたりが別の場所で私を待っている。行かなくては。
第3場
姉妹宅の部屋
テーブルと椅子のある、上品な部屋。女中のデスピーナが忙しそうにやって来る。
女中なんてやってられない。朝から晩まで他人のために働いて、自分のためには何も出来ない。このココアをかき混ぜて30分よ。美味しそうなのに、私は香りだけ。味見してしまえ。美味しい!!やだ、人が来たわ。なんだ、お嬢様か。
お嬢様。朝食をどうぞ。
デスピーナが飲み物を渡そうとするが、姉妹はそれどころではない。
ああ!剣はどこかしら?
毒はどこにあるの?
この心の苦しみ、悲しみが私を死なせてしまう。もし生きながらえるなら、ため息は尽きることがないわ。
「この心の苦しみ」Smanie implacabili Che m’agitat
お嬢様方。落ち着いて下さい。一体何があったというのです?
このナポリから私たちの恋人が去ってしまったのよ。
(笑って)そんなことですの?
戦死してしまうかもしれないわ。
別に問題ないですよ。男はふたりだけじゃないんです。世の中に男はたくさんいますよ。
なんてことを言うの!彼を失ったら、死んでしまうわ。
ご立派ですけど、愛のために死んだ女なんていませんよ。男を失っても、補ってくれる男が出てくるものです。
素敵な人を手に入れたのに、他の男性を愛せるとでも?
他の男たちだって、彼らと同じものを持っていますよ。男なんて、全部同じです。こんな話やめましょう。彼らは生きているのですから。さあ、今を楽しみましょう。戦地で彼らは女たちとお楽しみ中ですよ。
私たちが楽しむですって?
汚れのない、彼らの心を侮辱しないで。
男たち、兵士たちに真心を期待するですって?(笑って)そんなことを言わないで下さい。男なんて、みんな同じ。柳や風の方が、男よりしっかりしていますわ。男は気まぐれに愛したかと思えば、女を捨てて、愛なんて何もなかったようにする。野蛮人の男には、同じ方法でやり返すしかないのです。こちらも勝手気ままに愛してやるくらいで充分です。
「男に、兵士に誠実を期待するなんて」In uomini, in soldati Sperare fedeltà?
3人が部屋から立ち去る。空っぽの部屋に、哲学者。
哲学者
私の計画はうまくいっている。男たちは変装して、もうすぐここに来る。だが、賢いデスピーナが計画を邪魔するかも。彼女にお金を渡して、こちら側の味方になってもらおう。
デスピーナの部屋の扉をノックする。
何です?
哲学者
もうけ話を持ちかけよう。まずはこの金貨をあげるよ。
お嬢様たちが恋人を失ったのを知っているだろう。お前が、彼女たちが新しい男を好きになるように仕向けてくれないかな。成功したら、お礼はするよ。
そういう申し出は嫌じゃないわ。でも引き受ける前に、これは聞いておかないと。その男たちは、若い?美男?金持ち?
哲学者
すべての女性に愛されるようないい男たちだよ。今、ここにいるんだ。会ってみるかね?
変装した婚約者たちが部屋に入ってくる。
哲学者
可愛いデスピーナに彼らを紹介しよう。
「六重唱」Alla bella Despinetta
お目にかかれて光栄です。
あなたの手引きで、僕たちの恋を叶えて下さいね。
(笑いをこらえて)変な服に、変なひげ。あなたたちは、トルコ人?ルーマニア人?
哲学者
デスピーナ。彼らをどう思う?
すごく変わっているわ。
哲学者は、変装した婚約者たちにささやく。
哲学者
(君たちの変装がデスピーナにばれなかったようだ。この計画はうまくいくだろう。)
デスピーナ。それでは上手くやってくれ。よろしくな。
哲学者は部屋の影に隠れる。姉妹たちが部屋に入ってきて、変装した男たち(婚約者ら)を見つける。
なんで変な人がうちにいるの?出て行ってもらいなさい。
デスピーナと男たちがひざまずく。
お許し下さい。あなたたちの美しさに惹かれて、僕たちはひざまずいているのです。
突然現れ、私たちを口説くなんて、馬鹿にしているわ。
男たちは熱心にアプローチして、姉妹は激怒。
変装した婚約者たち
(彼女たちは怒っている。賭けは僕らの勝ちだな。)
哲学者とデスピーナ
(あら、この怒り方はちょっと怪しいわね。)
姉妹たち
(婚約者たちに顔向けできないわ。許して。)
素知らぬ顔をして、哲学者が会話に入ってくる。
哲学者
なんの騒ぎです。
ご覧になって。私たちの家に知らない男性たちがいるのです。
哲学者
なんと彼らは私の友ですぞ。こんな偶然があるなんて。
友よ!僕たちは彼女たちの魅力に参っているのです。美しいお嬢さん方、どうか僕たちの気持ちを受け入れて下さい。
困るわ。お姉さん、どうしましょう。
デスピーナはこっそり部屋から出ていく。
あなたたたち、出て行きなさい!
風や嵐が起きても動かない岩のように、私たちの心は強いのよ。強固さのお手本を尊びなさい。厚かましい方よ。望みは持たないで。
「岩のように動かず」Come Scoglio immoto resta
「岩のように動かず」Come scoglio|コジ・ファン・トゥッテ
次に出てくる「愛に満ちた息吹は」Un’aura amorosaとペアになるようなアリア。
姉妹は立ち去ろうとする。止めようとする、変装した婚約者ら。
ああ、行かないでくれ。
哲学者
お嬢さん。邪険にしないで。少しくらい優しくしてやってくれ。彼らは私の友なのだ。
優しくですって?
あなたの青い瞳の美しさが、僕の心を傷つけたのです。愛の薬以外に癒やせないのですよ。
美しい瞳よ。僕に愛の光を送って下さい。どうぞ僕らを見て下さい。触って下さい。強くて頼もしい男ですよ。偶然にも、僕らは美しい足と美しい顔を持っているのですから。
「愛らしい瞳よ」Non siate ritrosi
姉妹は去る。
部屋に残ったのは、哲学者と変装した婚約者たち。婚約者たちは笑いが止まらない。
哲学者
笑ってるな?
「三重唱」E voi ridete?
賭けは僕たちの勝ちだな。いくら払ってくれますか?
支払いは半分でもいいですよ。
哲学者
明日の朝になるまで、私の言う通り行動して下さいよ。庭で待っててくれ。
それで、今日は食事なし?
何が必要なの?戦いが終わったとき、夕食はもっとおいしくなるさ。
愛しい人の息吹は、僕たちの心に安らぎを与える。愛に養われた心には、食べ物は必要ないさ。
「愛に満ちた息吹は」Un’aura amorosa
「愛に満ちた息吹は」Un’aura amorosa|コジ・ファン・トゥッテ
ここで真面目に歌えば歌うほど、後のドタバタぶりが面白い。
婚約者たちは愉快そうに去って行く。残った哲学者がひとり、ぼやいている。遅れてデスピーナがやって来る。
哲学者
(この世に貞節な女は滅多にいないのに、ここにふたりもいるとは。)デスピーナ、来てくれたのか。お前のご主人たちは何をしている?
お嬢様方ですか?庭に出て、遠く離れた恋人について嘆いていますよ。
哲学者
どうしたら、お嬢さん方が彼らに口説かれるかな?
私にまかせて。デスピーナが策を練れば、すべてうまくいくのよ。
あのふたりを私にもとに連れてきて。私の部屋で、彼らに指示を出します。私の言う通りにしたら、明日の朝には彼らは愛を勝ち得て、私はお金を勝ち得るわ。
第4場
芝生のある庭園
姉妹たちが庭で嘆いている。
姉妹たち
ああ、一瞬にして私たちの運命は変わってしまった。私たちの心は苦しみでいっぱいよ。愛しい人に会えないなんて。
姉妹たちがいる庭に、変装した婚約者たちと哲学者がやって来る。
変装した婚約者たち
あなたたちに愛されないなら、この毒を飲んで死んでしまおう!!
哲学者
早まるな。望みはある。
彼らは毒を飲み、姉妹たちをじっと見つめる。
変装した婚約者たち
この悲劇を見て下さい。あなたたちへの愛です。
芝生に倒れる。
誰か!誰か助けて。デスピーナ。
急いでやってくる、デスピーナ。
まあ、大変。この人たち死にそうだわ。見捨てるのは、気の毒ですよ。お嬢様方、手を握ってあげて下さい。私は哲学者と一緒に、医者を呼びに行きます。
哲学者とデスピーナ、医者を呼びに行く。
変装した婚約者たち
(面白い芝居だな!)
姉妹たち
どうしましょう。大変なことが起こってしまったわ。(でも、彼らってちょっと素敵だわ。近づいてみましょう。)
変装した婚約者たち
(なんだかんだで、近づいてきた。同情が恋に変わってしまうかも?!)
姉妹たちが男たちの熱があるか?脈があるか?と触っていると、哲学者と医者に変装したデスピーナが戻ってきた。
哲学者
お嬢さん方。医者が来ました。
医者に変装したデスピーナ
Salvete,amabiles Buona puellae!(こんにちは。素敵なお嬢さん。ラテン語)
え?何を言っているの?
医者に変装したデスピーナ
どんな言語でも話せます。ギリシャ語、アラビア語など。
今はともかく、あの者たちを診て下さい。
医者に変装したデスピーナ
さあ、治療をしましょう。この磁石で毒を出します。彼らの頭を抱えて下さい。
準備は出来ています。さあ、どうぞ。
デスピーナが治療をしているふり。
変装した婚約者たち
ここはどこだ?あなたが救ってくれたのですね。
妹の婚約者が姉を、姉の婚約者が妹を、それぞれ抱きしめて、手にキスする。
変装した婚約者たち
どうか、私にキスをして下さい。
医者に変装したデスピーナ
彼らにキスをしてあげたら。
姉妹たち
まあ、なんて図々しい。私たちの貞節をバカにしているの?
変装した婚約者たち
(彼女たちは怒っている。でも、この怒りが愛に変わったら?)
哲学者とデスピーナ
(わかっている。この怒りは愛に変わる。)
コジ・ファン・トゥッテ、オペラ:第2幕のあらすじ
第1場
姉妹宅の部屋
姉妹たちとデスピーナが雑談中。
あなた方は変です。女でしょ。恋愛は適当にするものですよ。貞淑にするときは、貞淑にして、いい男がいれば、チャンスを逃さない!男を信じている女が受ける災いを避けましょうよ。
なんて娘なの!あなたはそうしなさい!
私はすでにそうしていますよ。あの外国人の男たちは、美男だし、お金持ち。何も問題ないです。
噂になったら困るし、キスを求める男なんて厚かましいわ。
私のところの来ていると噂を流せばいいのです。それに、キスを求めたのは、毒で朦朧となったせいですわ。
女も15になれば、世の中のことを知らないといけません。すべての男に気を持たせて、女王のように振る舞うのです。そうやって、自分に従わせるのですよ。
「女も15になれば」Una donna a quindici anni
(上出来だわ。うまくいきそう。)
デスピーナは部屋を出て行く。
あの娘は頭がおかしいわ。どうかしているのよ。
そうかしら。あの娘の言うことは、もっともだわ。少しくらいは、遊んでもいいじゃない。
私はやめておくわ。面倒になったら嫌だもの。
大丈夫よ。気をつければ。私は黒髪の人を。明るそうな人だもの。
「二重唱・黒髪の方にするわ」Prenderò quel brunettino
それでは、私は金髪のほうに。少し気晴らしをするだけよ。
「二重唱」Prenderò quel brunettino|コジ・ファン・トゥッテ
姉妹が部屋を出ようとしたところに、哲学者。
哲学者
ちょうどよかった。あなた方を庭園にお誘いするところでした。さあ、行きましょう。
哲学者と姉妹たちが部屋を出て行く。
第2場
海辺の庭園
花で飾られた小舟に乗った、婚約者たちが歌う。
変装した婚約者ら
優しい風よ。僕の思いを愛しい人に届けておくれ。
「優しい風よ」Secondate, aurette amiche
哲学者と姉妹たちが庭園に来る。すでにデスピーナもいる。
(変装した婚約者たちに)私の指示通りにしゃべって下さいね。
なんだか妙に緊張するな。
哲学者
(姉妹たちに)彼らに優しくしてあげなさい。
さあ、お話になって。
僕には無理だ。お前が言ってくれ。
僕も言えそうにない。
哲学者
じれったいな!私が君たちをくっつけよう。
手をこちらに出しなさい。男たちの言葉を代弁するとだな。「あなた方を怒らせたことを後悔しています。できる限りのことをしたいと思っています。」
「四重唱」La mano a me date
変装した婚約者たち
できる限りのことをしたいと思っています。
仕方がないわね。私がお嬢様方の言葉を代弁します。「済んでしまったことです。過去は忘れましょう。私の手を取って下さいな。」
哲学者が、姉と妹の婚約者をペアにして、デスピーナが、妹と姉の婚約者を近づける。
デスピーナと哲学者
手を尽くした。ここまでやって、お嬢様方が彼らを好きにならなければ、どうしようもない。
デスピーナと哲学者は去る。妹と姉の婚約者は腕を組み、姉と妹の婚約者はよそよそしい。それぞれ散歩に出かける。まずは、妹×姉の婚約者カップル。
ああ、痛い。心が痛くてたまらない。愛が僕を苦しめる。愛の証として、ハートのネックレスを受け取ってくれませんか。
私の心を誘惑しないで下さい。(まあ、高価な品物!)あなたの贈り物を受け取りますわ。
ああ、嬉しい。このハートをあなたに贈りましょう。そして、あなたの心を受け取りたいのです。(可哀相な僕の友人。彼女はお前を裏切った。)ちょっと横を向いてごらん。
妹がつけていたネックレスを外して、自分のハートのネックレスに付け替える。
妹と姉の婚約者
こちらの方がしっくりくる。新しい喜びと新しい幸せ。
ふたりは腕を組んで立ち去る。次に、姉と妹の婚約者カップル。
私を誘惑しないで、どこかに行って下さい。
あなたが優しい目で僕を見てくれるまで離れません。
なるほど、あなたの美しい心は、僕の涙に耐えられないだろう。すでに、僕を愛し始めているのだから。それなのに、あなたは逃げ出していくのか。
「よくわかる、美しい魂は」Ah, lo veggio, quell’anima bella
妹の婚約者が立ち去る。
あの人が行ってしまう。いいえ、これでいいのよ。なぜ、私の最愛の人は遠くにいるのかしら。
許して恋人よ。私の心の過ちを。私の勇気と貞節が、過ちを隠し続けるでしょう。
「お願い、許して恋人よ」Per pietà, ben mio, perdona
婚約者たちがふたりで話している。
これで賭けに勝ったな。お前の彼女は貞節だ!立派な女性だよ。それで、僕の恋人はどうだった?
言いにくいが、君の恋人は…君の肖像画が入ったネックレスを僕にくれたよ。
なんだって、彼女の心臓を取り出してやる。
価値のない女のために、身を滅ぼすつもりか!(彼女に馬鹿なまねをするなよ。)
女たちよ。君らはよく男たちをもてあそぶ。僕は女が好きだし、本当に魅力的だ。だが、君らは多くの男にこういう仕打ちをする。男たちが騒ぐにはそれなりの理由がある。
「女たちよ」Donne mie, la fate a tanti
グリエルモが立ち去り、フェルランドがひとり。
心がめちゃくちゃだ。哲学者の言う通り、女は浮気者だった。不実な心に裏切らてしまった。でも、この魂には彼女への愛があるのだ。
「不実な心に裏切られて」Tradito, schernito Dal perfido cor
庭にグリエルモと哲学者が来る。
哲学者
まあ、落ち着きなさい。
彼女たちが、僕みたいな魅力的な男を放っておけるわけがないだろ。お前と僕を比べると、僕の方が少し魅力的なのさ。さあ、掛け金の半分を僕にくれ。
哲学者
喜んで支払おう。だが、明日までは私の言う通りにしてもらいますよ。
第3場
姉妹宅の部屋
妹とデスピーナは雑談中。
口説き上手なのよ、あの人は。
よかったじゃないですか。女はチャンスを掴み取るものですよ。
遅れて、姉が部屋に入ってくる。
あなたたちのせいで酷い目にあったわ。最悪なことに、私の心には婚約者だけでなく、あの男への愛もあるのよ!
お姉さん。あの男を受け入れるのもありよ。
恋は泥棒、蛇のようにずるいものなの。恋は安らぎを与え、不安を与えるの。成り行きに任せれば、甘さを味わえて、逆らえば、苦しむことになる。成り行きに身を任せてみては?
「恋は泥棒」È amore un ladroncello
妹とデスピーナは部屋を出て行く。ひとり残った姉。
二度とあの男には会わないわ。
外から部屋を覗く、姉の婚約者。
(よかった。彼女は貞節だ。)
そうだ。ここには婚約者たちの軍服があったはず。デスピーナにそれを出してもらおう。デスピーナ。軍服を持ってきて。
わかりました。(なぜかしら?)
デスピーナが呼び出され、出て行く。
妹と一緒に軍服を着て、戦場に行くのよ。妹は姉の婚約者の服を着て、私は、妹の婚約者の服がちょうどいいわね。
デスピーナが軍服を持って戻ってくる。
馬を用意するように。
(おかしくなったの?)
デスピーナが去り、姉がひとりになったところで、変装した妹の婚約者が。
もうすぐ誠実な婚約者に抱きしめられるのよ。軍服を着ていくから、私と分からないかもしれない。でも、私と分かれば、喜ぶはずよ。
「二重唱」Fra gli amplessi in pochi istanti
待って下さい。僕を置いていくのですか。あなたの剣で僕を死なせて下さい。あなたの心を下さい、無理なら僕の死を。
酷い人。もう無理だわ。あなたを受け入れます。
ふたりは去っていく。ふたりが去るのを見た、姉の婚約者は怒る。
なんて酷い光景を見たんだ。彼女が僕を裏切った!!
哲学者
静かにしなさい。
ふたりの元に戻ってきた、妹の婚約者。
落ち着けよ。お前と僕を比べると、僕の方が少し魅力的なのさ。
哲学者
それでは、君たちは女なしで暮らしていくのかい?無理なら、彼女たちを受け入れることだよ。あるがままを受け入れるのだ。幸せになれる哲学を教えよう。
男は女を非難するが、私は許す。一日に1000回も愛が変わろうとも。私にはそれが心の必然であるように思えるのだ。さあ、一緒に言うのだ。女はみんなこうしたもの。(コジ・ファン・トゥッテ)
「男は女を非難するが」Tutti accusan le donne
哲学者、婚約者ら
女はみんなこうしたもの。(コジ・ファン・トゥッテ)
デスピーナが3人のもとへ。
お嬢様方が、皆さんと結婚することを決めました。求めていたものが手に入りますね。デスピーナが味方をすれば、すべてうまくいくのです。
哲学者、姉妹の婚約者ら
ああ、大満足だとも。
第4場
姉妹宅の大広間
華やかに飾られた広間に召使いや楽団が大勢いる。二組の恋人たちが結婚式を挙げている。公証人に変装した、デスピーナ。
公証人に変装
皆さん。準備は整いました。署名するだけです。
姉妹が署名したところで、軍隊が帰ってきた歌が聞こえてくる。結婚契約書を哲学者が手に取る。
兵士たちの歌声
軍隊生活は楽しいぞ。進軍ラッパの音とともに、海へ陸へ!
哲学者
大変だ。軍が帰ってきたぞ。君たちの婚約者が戻るぞ。
私たちの婚約者が!隠れて!逃げてちょうだい。
もし、君たちの婚約者に出くわしたら?
その場にいた召使いや楽団らが出て行く。姉妹の婚約者は別室に隠れるふりをして、部屋を出て行く。
一体どうしたらいいの?
変装をやめて、軍服姿の婚約者たちが広間に現れる。
貞節な花嫁に会いに戻ってきました。命令が撤回されたのです。
なぜ、あなたたち姉妹は顔色が悪いのですか?
隣の部屋に、なぜ公証人がいるのです?
公証人に変装
公証人ではないですよ。私は仮装したデスピーナです。
哲学者が、結婚契約書を落として、男たちに合図。
これは結婚契約書?なんてことだ。君たちの署名がある。裏切りだ!
婚約者たちは別室で変装して、部屋に戻ってくる。
あなたに挨拶しますよ。お嬢様。
まあ!
私が贈ったハートのネックレスの代わりにもらった、あなたのネックレスをお返ししますよ。
そんな!
私は騙されたってことね!
哲学者
皆さんに言いたいことがある。彼らを目覚めさせるために、あなたたちを騙したのだ。さあ、手を取り合いなさい。
全員
起こったことは理性で片付けよう。そうすれば、どんな混乱の中でも冷静でいられるだろう。