ファルスタッフ 第3幕
夜の公園に現れた、フェントン。ナンネッタへの愛を歌うのが「喜びの歌は唇から」です。この歌には、ルネサンスの詩人ボッカッチョの「デカメロン」の第2日目・第7話からから引用された言葉が入っています。
「喜びの歌は唇から」Dal labbro il canto estasiato vola【歌詞と対訳】
Dal labbro il canto estasiato vola
pei silenzi notturni, e va lontano
e alfin ritrova un altro labbro umano
che gli risponde colla sua parola.
Allor la nota che non è più sola
vibra di gioia in un accordo arcano,
e innamorando l’aer antelucano
con altra voce al suo fonte rivola.
Quivi ripiglia suon, ma la sua cura
tende sempre ad unir chi lo disuna.
Così baciai la disiata bocca!
Bocca baciata non perde ventura…
唇から恍惚の歌が飛び出す
夜の静寂を抜けて、遠くへ行く
そして、ついに別の人間の唇を見つけ
それ(その唇)は彼の言葉に答える
もはやひとりではないことを教えて
喜びに満ちた和音で共鳴する
夜明け前の大気に恋をして
別の声と混ざり合っていく
彼は再び音を出すけれど、それは
隔てた者をまた結びつけようとする
こうして熱い唇はキスをするんだ
キスされた口は幸運を失うことはない
Anzi rinnova come fa la luna.
月と同じように、新しくなるわ
Ma il canto muor
nel bacio che lo tocca.
でも、歌は死ぬ
触れたキスの中で
No signore!
いいえ、そうしませんよ!
【解説】ルネサンスの詩人ボッカッチョの「デカメロン」から
ルネサンスの詩人ボッカッチョの「デカメロン」から引用された言葉が入っています。
Bocca baciata non perde ventura…
キスされた口は幸運を失うことはない
Anzi rinnova come fa la luna.
月と同じように、新しくなるわ
デカメロンの第2日目・第7話からです。7話の内容は、美人の女性がガルボの国王に嫁ぐ途中で、4年間であちこちの国に行き(男性と関係を持ち)、父親の元に戻ります。当初の予定通り、処女としてガルボの国王に嫁ぐという話。
Di ciò fece il re del Garbo gran festa, e mandato onorevolmente per lei, lietamente la ricevette; ed essa, che con otto uomini forse diecemilia volte giaciuta era, allato a lui si coricò per pulcella, e fecegliele credere che cosí fosse, e reina con lui lietamente poi piú tempo visse.E per ciò si disse: «Bocca basciata non perde ventura, anzi rinnuova come fa la luna».
ガルボの国王は盛大に祝い、彼女のために名誉ある召喚状を送り、喜んで迎え入れた。8人の男と1万回も寝ていた彼女は、処女のように彼のそばに横になり、自分がそうだと信じさせた。彼女は長い間、彼と一緒に幸せに暮らした。そして、私たちは言います「犯された口は幸運を逃がさず、それどころか、それは月のように自分自身を更新する」と。
フェントンとナンネッタが「早く一線を越えたいね」と言っているところに、お母さんのフォード夫人(アリーチェ)がやってきて「今はそれどころじゃないでしょ」という感じです。