ウェーバーの魔弾の射手は、ドイツ・ロマン派を代表するオペラです。この作品によって、アリア中心のイタリアオペラが主流だった時代に、ロマン派のドイツオペラを確立しました。「魔弾の射手」は、ドイツ・ボヘミアの森が舞台、ドイツ民謡の旋律を取り入れたりと、ドイツの文化や世界観が詰まったオペラになっています。
魔弾の射手、オペラ:人物相関図
魔弾の射手、オペラ:登場人物
マックス | 猟師 | テノール |
アガーテ | 森林保護管の娘 | ソプラノ |
カスパール | 猟師 | バス |
エンヒェン | アガーテのいとこ | ソプラノ |
クーノー | 森林保護管・アガーテの父 | バス |
オットカール侯爵 | 領主 | バリトン |
隠者 | 森の修行者 | バス |
キリアン | 農夫 | バリトン |
ザミエル | 悪魔 | 台詞のみ |
- 原題:Der Freischütz
- 言語:ドイツ語
- 作曲:カール・マリア・フォン・ウェーバー
- 台本:ヨハン・フリードリヒ・キーント
- 原作:ヨハン・アウグスト・アペル、フリードリヒ・ラウン「怪談集」
- 初演:1821年6月18日 ベルリン王立劇場
- 上演時間:2時間20分(第1幕45分 第2幕50分 第3幕45分)
魔弾の射手、オペラ:簡単なあらすじ
マックスは凄腕の猟師だったが、その腕前は落ちていた。アガーテと結婚するためには、明日の狩猟大会でよい腕前を披露しなければならない。そんな彼にカスパールは、必ず当たる弾があり、谷に行けば手に入ることを教えてくれた。悩んだ末、マックスは魔弾を手に入れるため、谷へ行く。
マックスは魔弾を使い、射撃の名手となる。オットカール侯爵が指定した獲物は白い鳩だ。マックスは鳩を撃つ。鳩が逃げると同時にアガーテとカスパールが倒れる。カスパールは死んでしまう。
オットカール侯爵はマックスに不思議な事件について問いただす。その結果、マックスが魔弾を使ったことが明らかになる。オットカール侯爵はマックスを領地から追放するよう命じる。隠者の仲介で、1年後、マックスとアガーテの結婚が許される。
魔弾の射手、オペラ:第1幕のあらすじ
序曲
ボヘミアの森の中、酒場の前
射撃試合が行われている。対戦は、猟師のマックスと農夫。騒がしい音楽と酒を片手に試合を見ている人々がいる。
まぐれ当たりだ!(なぜ俺は実力を出せないのか?)
農夫
猟師が農夫に負けるとは、とんだ下手くそだな。
農夫とマックスはけんかになり、周りが止めに入る。森林保護管(マックスの恋人、アガーテの父)と猟師たちが現れる。
森林保護管(アガーテの父)
何の騒ぎだ?
農夫
私が射撃で猟師に勝ってしまって…
なぜか一発も命中しません。
森林保護管(アガーテの父)
お前は猟師の中で一番の腕なのに、4週間も手柄なしじゃないか。
お前は神に呪われているのさ。どうだい、魔物と契約してみないか?
森林保護管(アガーテの父)
カスパール、やめなさい。マックス、お前を息子のように思っている。だが、明日の射撃大会は、森林保護管の世襲権利をかけたものだ。もし失敗すれば、お前に娘をやれなくなるぞ。
農民
なぜ世襲権利をかけた射撃大会が行われるようになったのですか?
森林保護管(アガーテの父)
我が家のご先祖様の話だ。森で鹿に鎖でつながれた人間が見つかった。昔は密猟者への罰として行われていた。
侯爵様は「人間を傷つけずに鹿を射止めれば、射止めた人物に世襲の森林保護管の権利を与える」とした。ご先祖様は成功し、一発で鹿を仕留めた。
だが、悪意のある者が「鹿をうまく仕留めたのは、魔弾を使ったからだ」と言い出した。
農夫
魔弾の噂なら聞いたことがある。6発は撃ち手の思い通りに命中して、7発目は悪魔がどこに飛ぶか決めるそうだ。
森林保護管(アガーテの父)
よからぬ噂が出たので、侯爵様は「世襲の代が変わるたびに、射撃試合をすること。一発で獲物を仕留めれば、男が選んだ娘と結婚出来る。」とした。さあ、マックス、明日はしっかりやるんだぞ。
明日が来るのが恐ろしい。
森林保護管(アガーテの父)
悲しみか、喜びか?それはお前の腕次第だ。
(意味ありげに)大胆になれば、幸せになれるさ。
森林保護管と猟師のカスパールは酒場を去る。マックスは酒場前の喧噪から離れて座っている。マックスの後ろには、不気味な男(悪魔ザミエル)が立っている。
もうこの苦しみには耐えられない。全ての希望を奪う恐怖だ。
森を越え、野を越え、心は軽く歩いていた。目にするものすべてをしとめることができた。狩りから戻ると、アガーテの愛ある視線に喜びを覚えたのだ。
「森を越え、野を越え」Durch die Wälder, durch die Auen
猟師のカスパールが戻ってきて、マックスに声をかける。
落ち込むな。もっと強い酒を飲め。
飲まないよ。
この地上の悲しみの谷間には、苦しみしかないだろう。バッカス(酒の神)の腹は信じることができる。さあ、一緒に歌おう。
「地上の悲しみの谷間には」Hier im ird’schen Jammertal
カルパールとマックスのやりとりを、不気味な男(悪魔ザミエル)が見ている。
アガーテがお前を関わるなと言っていたのだ。帰ろう。
待て。俺はいい話をもっている。自然界の神による無害な力さ。俺の銃で、あの鳥を撃ってみろ。
あたりは暗く、鳥は遙か遠くを飛んでいる。
あれを討つのは無理だ。
マックスが遠くの空を飛ぶ鳥を撃つと命中する。
どうしてこんなことが?理由を言わないと、ぶっ飛ばすぞ。
銃ではなく、弾のおかげだ.。あれは最後の弾だが、12時に狼谷に取りに行けばいいだけさ。友達だから、俺も一緒に行ってやるよ。
あんな恐ろしい場所にはいけない。
根性なしだな。アガーテを失うだろうよ。
アガーテのために!
二人を見ていた悪魔が消え去る。
誰にも言うな。12時に来いよ。
マックスは酒場を去る。
黙ってろ。あいつに誰も忠告するなよ。地獄の網がお前を捕らえている。深い奈落からは誰も救えない。
魔弾の射手、オペラ:第2幕のあらすじ
第1場
アガーテの部屋
森林保護管の娘、アガーテといとこのエンヒェンは、ご先祖様の肖像画を壁にかけ直している。肖像画が落ちてきて、アガーテは、頭に軽い怪我をしていた。
ご先祖様…森林保護管の世襲が始まった、最初の人(鹿を一発で仕留めた)
いたずら者ね、ちゃんと壁にかかっていなさいよ。
「二重唱」Schelm! halt fest
ご先祖様を大切にしないと。
エンヒェンは、明るい性格のようで気楽に振る舞い、アガーテはマックスのことを心配している。
肖像画が落ちてきて不気味だけど、気にしないのよ。生きている人間が強いのだから!
すらしたとした若者がやってくる。恥ずかしがるそぶりで、ちらりと見る。視線を交わしても問題ないでしょう?
「エンヒェンのアリア」Kommt ein schlanker
「エンヒェンのアリア」Kommt ein schlanker|魔弾の射手
そういえばあなた、森の隠者に、清めの白バラをもらったじゃない?詳しい話を聞いていないわ。
清めの白バラは、私によからぬことが起こるから、と渡されたものなの。警告通りになったわ。絵が落ちてきて、頭を怪我するなんて。このバラは、私にとって大切よ。大事にしないと。
エンヘェンは、「もう、寝ましょうよ。」と言って部屋を出て行くが、アガーテは、部屋で一人待っている。
なんて素敵な夜空。マックスはまだかしら。でも、遠くの森は不気味だわ。黒い雲が立ちこめている。
「アガーテの祈り」Wie nahte mir der Schlummer
「アガーテの祈り」Wie nahte mir der Schlummer|魔弾の射手
愛するマックスを心配し、何か悪い予感を感じているアガーテ。彼女が家の窓から見ている、不気味な森の様子が歌われています。
マックスが慌ただしく、アガーテの部屋に入ってくる。
アガーテ。ごめん。ちょっと寄っただけなんだ。今日は、獲物が捕れたよ。ほら、この羽をみてみろ。あれ?その怪我は、どうしたんだい?
なんでもないのよ。
ご先祖様の肖像画が落ちてきたのよ。7時頃に窓のそばであなたを待っていたから
(不思議だ。7時だって?俺が獲物を撃った時間だ。)これから、狼谷に置いてきた獲物を取りに戻るよ。他の者に盗まれるからね。
狼谷?あんな恐ろしいところに?
「三重唱」Dort in der Schreckensschlucht?
怖くないさ。夜の森は慣れている。
彼女が怖がっているわ。行かないで。
心配だけど、あなたに任せるしかないわ。私の忠告を忘れないで。
アガーテの忠告…カスパールに関わるな
マックスは、部屋から慌ただしく、去る。
第2場
狼谷、森の深い谷
不気味な森の中。
精霊たち
月のミルクが草に落ちた。ウーフィ、ウーフィ。
「精霊たちの合唱」Milch des Mondes fiel aufs Kraut! Uhui! Uhui!
カスパールがひとりで声を上げ、ある人物を呼び出している。悪魔ザミエルが現れる。
新しい捧げ物があります。猟師仲間を連れてきます。彼の願いは、魔弾。
悪魔ザミエル
魔弾。6発命中。7発目は、いかさまだ。
7発目は、マックスの花嫁に当てて欲しい。
悪魔ザミエル
7発目が当たるのは、お前か、マックスだ。
カスパールと悪魔ザミエルの密談が終わる。マックスがやってくる。マックスは、森の不気味な様子にたじろいでいる。亡き母の亡霊がマックスを止めようとするが、悪魔ザミエルがアガーテの亡霊を見せて、狼谷を降りていく。
カスパールが、不気味な炎の中に、魔弾の材料を入れて、祈りを捧げる。マックスはそばで見ている。7発の魔弾を作って、カスパールは卒倒する。悪魔ザミエルが現れ、マックスの腕をつかむ。マックスが十字をきると、悪魔ザミエルは消えた。
魔弾の射手、オペラ:第3幕のあらすじ
第1場
間奏曲
森の中、射撃大会
昨夜作った魔弾の7発は、マックスが4発、カスパールが3発と分けていた。マックスはすでに3発使い、残り1発、カスパールも残り1発になっていた。
カスパール、お前の魔弾を俺にくれよ。
すぐにカスパールは1発を撃ち終える。
俺は魔弾を使い切った。
(マックスは侯爵の前であの弾を使うようだ。あいつがもっている、最後の1発は悪魔の弾。綺麗な花嫁に当たればいい。)
第2場
アガーテの部屋
アガーテは花嫁衣裳を着ている。
たとえ雲が太陽を覆っても、空に太陽は存在するのよ。すべてのことに神の意志があり、愛で見守っていているでしょう。
「雲が太陽を覆っても」Und ob die Wolke sie verhülle
エンヒェンが現れる。
不思議な夢を見たの。私は白い鳩となっていて、木の枝に止まっていた。マックスが白い鳩に狙いを定めて、撃ち落とした。白い鳩は消えて、私が血まみれになってしまった。
エンヒェンは明るく振る舞って、アガーテの気を紛らわせようとする。
昔亡くなった伯母が夢を見たの。部屋の扉が開き、怪物が出てきたそうよ。自分のベッドに近づいてくるから、騒いだり祈ったり。恐ろしくて人を呼んだら、灯りを持ってきたの。怪物の正体は、番犬だったのよ。
「昔亡くなった伯母が」Einst träumte meiner sel’gen Base
私は、花嫁の花冠をもらってくるわ。
エンヒェンは、出て行く。
花嫁の付き添いたち
私たちはあなたに、すみれ色のシルクでできた乙女の花輪を捧げます。
「合唱」Wir winden dir den Jungfernkranz
エンヒェンが花冠の入った箱を持って戻ってくる。
ここに来るまでの途中、またご先祖様の肖像画が、壁から落ちていたのよ。足を引っかけてこけそうになったわ。
アガーテが花冠が入った箱を開けると、叫び声を上げる。箱の中には死者の冠が入っていた。
なぜ?売った人が間違えたのね。花冠をどうしようかな。
森の隠者にもらった、清めの白バラで花冠を作りましょう。これはお導きかもしれない。バラをもらったとき、これで花嫁の花冠を作りなさい、と言われたの。
第3場
森の中、射撃大会
侯爵の狩りのテントの中で宴会が開かれている。
猟師たち
この世で狩りほど楽しいものはない。山を駆けて、獲物を追う。これこそ、王の喜び、男の欲望だな。体を動かし働いて、食事を楽しもう。
「狩人の合唱」Was gleicht wohl auf Erden dem Jägervergnügen
侯爵
(アガーテの父に)お前の婿を気に入ったぞ。すばらしい射撃の腕前だ。マックス、1発であの木に止まっている白い鳩を撃ってくれ。
マックスが白い鳩に狙いを定める。
撃たないで。その白い鳩は私よ。
突然アガーテが現れて、白い鳩のいる木に走り寄る。白い鳩は別の木に移った。その別の木からカスパールが現れる。発砲音と共に、白い鳩は飛び去った。アガーテが、叫び声を上げて倒れる。
人々
おお、見よ。マックスは自分の花嫁を撃ったのか?同時に狩人が木から落ちたぞ。
人々がふたりに駆け寄っていく。アガーテが目覚める。カスパールは血まみれ。
ここはどこ?
彼女には森の隠者がついていた。俺は破滅だ。
カスパールが死ぬ。近くには悪魔がいる。
侯爵
その遺体は、狼谷に捨てるように。マックス、今回の出来事はどういうことだ?
今日使った弾は魔弾でした。彼と一緒に作ったものです。
侯爵
私の領地からでていけ。この地に二度と戻ってくるな。天国と地獄は離れていなければならない。
森の隠者が現れる。
森の隠者
誰が彼にそんな厳しいことを言うのか?
侯爵
あなたが聖人と呼ばれている人か。
森の隠者
たった一度の過ちで追放は酷である。一年の猶予の後、二人の結婚を認めてはどうだろうか?また、恋人たちの心を試すような射撃試合はやめなさい。
未来が俺の心を証明してくれます。
侯爵は森の隠者の判断を受け入れた。人々は侯爵を讃え、神に感謝する。