後宮からの誘拐(後宮からの逃走)はモーツァルトによって作曲された全3幕のオペラです。初演ではモーツァルトが指揮しました。
後宮からの誘拐、オペラ:人物相関図
後宮からの誘拐、オペラ:登場人物
ベルモンテ | スペインの貴族 | テノール |
コンスタンツェ | ベルモンテの恋人 | ソプラノ |
オスミン | 宮殿の番人 | バス |
ペドリロ | ベルモンテの従者 | テノール |
ブロンデ | コンスタンツェの侍女 | ソプラノ |
セリム・パシャ | トルコの太守 | 台詞のみ |
クラース | 船頭 | 台詞のみ |
- 原題:Die Entführung aus dem Serail
- 言語:ドイツ語
- 作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
- 台本:クリストフ・フリードリヒ・ブレッツナーの台本「ベルモンテとコンスタンツェ、または後宮からの誘拐」を、ゴットリープ・シュテファニーが改作
- 初演:1782年7月16日 ウィーン ブルク劇場
- 上演時間:2時間10分(第1幕40分 第2幕65分 第3幕35分)
後宮からの誘拐、オペラ:簡単なあらすじ
オペラ前の出来事
スペインの貴族ベルモンテと婚約者コンスタンツェ、従者ペドリロと侍女ブロンデは、海難事故により離れ離れになった。コンスタンツェ、ペドリロ、ブロンデは、セリムに奴隷として買い取られた。ベルモンテは3人の行方を捜している。
オペラ
ベルモンテは3人に会うため、宮殿の前にいた。ベルモンテは従者ペドリロと再会し、逃亡計画を話す。脱出計画は失敗する。セリムは過去にベルモンテの父と確執があったが、彼らに慈悲を与えた。セリムの計らいで、4人は宮殿を後にする。
後宮からの誘拐、オペラ:第1幕のあらすじ
序曲
宮殿の前にある広場
海辺にある、セリムの宮殿の前にある広場。ベルモンテが現る。
ここで君に会えるはず。コンスタンツェ。だが、どうやって宮殿に入ろうか?
「ここで君に会えるはず」Hier soll ich dich dann sehen
老人の番人オスミンが木に梯子をかけて、イチジクを取っている。
忠実で誠実な恋人を見つけたら、たくさんキスをしてあげなさい。彼女の人生をすべて甘い物にするのだぞ。
「恋人ができたら」Wer ein Liebchen hat gefunden
この老人なら何か知っているだろう。ここはセリムの宮殿か?
(歌の続き)彼は彼女の貞節を守るために、彼女を閉じ込めるだろう。友よ、気をつけろ。若い旦那が可愛い愚か者を手招きする。そして、貞節よ、さようならだ。
もう歌は結構だ。ここはセリムの宮殿か?
なんだ?偉そうに。
セリムのもとで働くベドリロと話をしたい。
くそ野郎のことか?
オスミンは去ろうとする。
宮殿のまわりをうろついて、若い女を盗むつもりか?
なんて無礼な口の利き方をするんだ。
去れ。鞭で叩いてもいいんだぞ。
ベルモンテが去る。ベドリロがやってくる。
オスミン。セリムは戻られたか?
知らないよ。
いつも僕に喧嘩腰だが、僕があなたに何かしたか?仲よくしよう。
お前のような風来坊のすることは、女に見とれるだけ。悪魔にかけてお前が嫌いだ。昼も夜もお前を狙っているぞ。覚悟しておけ。
「風来坊のすることは」Solche hergelaufne Laffen
オスミンが宮殿に入る。ベルモンテが戻ってきて、ペドリロと再会する。
幸運の女神に感謝だ。僕の手紙が届いたのですね。
コンスタンツェは生きているのか?
生きています。僕たちの船が海賊に襲われて、ひどい目にあいました。幸運にもセリムが僕たちを買い取ってくれたのです。セリムはコンスタンツェ様を気に入っています。セリムは徳のある人で、無理強いはしません。ブロンデは老人にいじめられています。
先ほどの老人か?
彼はセリムのお気に入りで、悪党です。僕は庭師として有能なので、女性たちと話ができるんです。オスミンはそれが気に入らないみたいです。
お前は彼女と話せるのか?彼女はまだ私を愛しているだろうか?
あなたが彼女を疑うなんて。あなたはコンスタンツェ様をよくご存じでしょう。ですが、どうやって逃げ出したらいいものか。
準備はできている。港の近くに船を用意してある。
成功させましょう。もうすぐセリムが戻ってきます。あなたを建築士として彼に紹介します。私は彼を出迎えに行きます。
ペドリロがセリムを迎えに行く。
コンスタンツェ、再び会える。私の愛する心は不安で燃えている。
「コンスタンツェ、再び会える」Konstanze! dich wieder zu sehen
隠れて下さい。セリムが来ます。
ベルモンテが隠れる。セリムとコンスタンツェを乗せた船が到着する。兵が演奏とともに出迎える。
兵士たち
偉大なるセリムに歌を捧げよう。
「合唱」Singt dem grossen Bassa Lieder
セリム
コンスタンツェ、悲しそうだね。
私は恋をしていて、幸せでした。愛する人に心を捧げてしました。ですが、離れ離れになったのです。
お許しください。あなたは素晴らしい方です。私は死ぬまであなたに仕えて、奴隷となります。ですが、私の心を求めないで下さい。
「私は恋をしていました」Ach, ich liebte, War so glücklich
セリム
無礼な。お前は私の手の中だ。
あなたは善良な人です。だから、私の心の内をお伝えしたのです。
セリム
これが最後だ。明日には返事を聞かせてもらう。
コンスタンツェが去る。ペドリロとベルモンテがセリムに会いに来る。
この若者はイタリアで建築の仕事をしておりました。あなたの国の豊かさを知り、こちらで働きたいそうです。
あなたのお役に立ちたいです。
セリム
お前の仕事ぶりを見たい。明日にお前を呼ぶ。
セリムが去る。ベルモンテとペドリロは宮殿に入ろうとする。オスミンが止める。
どこに行こうとする?
セリムが彼を雇った。
お前たちはうさんくさい。
オスミンは門の前に立って二人を入れないようにする。
去れ!去れ!早くいなくなれ。
「三重唱」Marsch! Marsch! Marsch! trollt euch fort!
ベルモンテとペドリロ
私たちは中に入るんだ。
彼らはオスミンを押しのけて、宮殿に入る。
後宮からの誘拐、オペラ:第2幕のあらすじ
宮殿の中、オスミンの家の前
宮殿の中にある庭園、オスミンの家の前。ブロンデとオスミンが言い争っている。
優しくおだて上手なら、女の心を掴めるかもしれないわ。でも、怒鳴ったり、命令したら愛は逃げていく。
「優しくおだて上手で」Durch Zärtlichkeit und Schmeicheln
ここはトルコだ。お前はセリムからいただいた俺の奴隷だ。
ヨーロッパでは、女はちゃんと考えを持つのよ。
俺は行く。忠告するが、悪党のペドリロを避けるんだぞ。
「二重唱」Ich gehe, doch rathe ich dir
行きなさいよ。私に命令しないで。
オスミンが出ていく。コンスタンツェが庭に来る。
運命が私たちを引き離してから、私の心にどのような変化が起こったのかしら。
「私の心に変化が」Welcher Wechsel herrscht in meiner Seele
希望を持って下さい。ベルモンテ様がもうすぐ現れて、ここから連れ出してくれるでしょう。セリムが来ました。私は去ります。今、私が去らなくても、セリムは私に去るように言うでしょうから。
ブロンデが離れる。セリムが来る。
セリム
コンスタンツェ、明日には私を愛してくれるか?
あらゆる種類の苦痛が私を待っていようとも、私は痛みに耐えます。最後には死が私を開放してくれるでしょう。
「あらゆる苦痛があろうとも」Martern aller Arten
「あらゆる苦痛があろうとも」Martern aller Arten|後宮からの誘拐
コンスタンツェが去る。
セリム
彼女の強さはどこから来るのか。
セリムが去る。ブロンデが来る。
セリムとコンスタンツェ様がいないわ。まさか恋人になっているの?そんなことはないわ。彼女はベルモンテ様を愛している。
ペドリロがやってくる。
僕の可愛いブロンデ。よい知らせを持ってきた。ベルモンテ様がここに来てくれたよ。彼は港に船を用意している。
コンスタンツェ様に伝えるわ!
待ってくれ。君に伝えておく。真夜中にベルモンテ様がコンスタンツェ様の窓辺に行く。僕が君の窓辺に行く。そうやって逃げるんだ。
でも、オスミンは?
あの老人のための眠り薬だ。これを飲み物に入れてね、わかるだろ?
なんという喜びと楽しみが待っている。
「なんという喜びと楽しみが」Welche Wonne, welche Lust
ブロンデが喜んで出ていく。
勇気をもって戦おう。
「勇気をもって戦おう」Frisch zum Kampfe!
オスミンが来る。
おい、お前。陽気だな。
これから酒を飲むのさ。マホメットが君たちに酒を飲むのを禁止したんだよな。法律がなけりゃ、俺と酒を飲めたのにな。酒はここにあるぞ。うまそうだろ?
どうしよう?
万歳、バッカス。
「二重唱」Vivat, Bachus!
飲もうか?アラーの神様が見ていたら。
飲め、飲め!
オスミンが酒を飲む。ふたりは陽気に酔っぱらうが、オスミンが次第に眠そうになる。
酒は素晴らしいな。私たちの預言者だって、私を許して下さる。
眠そうなオスミンをペドリロが、オスミンの家に連れて行く。ベドリロはすぐに戻る。
おやすみ、老人。あいつが早く酔っぱらいすぎたから、真夜中に目覚めてしまうかもしれない。
ベルモンテとコンスタンツェが再会する。ペドリロとブロンデが横で見ている。
喜びの涙が流れるとき、愛は最愛の人に微笑みかける。
「喜びの涙が流れる時」Wenn der Freude Thränen fliessen
ベルモンテ、私の愛しい人。苦しい日々に耐えて、やっとあなたに会えた。
「四重唱」Ach Belmonte! ach mein Leben!
コンスタンツェ、私の愛しい人。だが、どんなに嬉しくても、密かな不安を感じてしまう。噂によると、君がセリムを愛していると聞いた。
ブロンデ。オスミンが何かしなかったかい?
男二人が女性たちの貞節を疑いだす。コンスタンツェは泣いて、ブロンデはペドリロをひっぱたく。男たちが反省する。4人で愛を歌う。
後宮からの誘拐、オペラ:第3幕のあらすじ
第1場
宮殿前の広場
真夜中。セリムの宮殿、オスミンの家。後ろには海が見える。ペドリロと船頭のクラースが梯子をもって現れる。
もうひとつ船から梯子を持って来てくれ。僕たちがスペインにたどり着けたら、ベルモンテ様がお前に謝礼を支払うだろう。
船頭クラース
ありがたい。梯子を持ってきます。
クラースが船に戻って、二台目の梯子を持ってくる。
船のいかりを上げて準備しておいてくれ。みんなですぐ行く。
クラースが船に戻る。
ペドリロ!準備はできたか?
できました。見回りに行ってきます。兵士に気を付けて下さい。
ペドリロが見回りに行く。
お前の力が頼りだ。愛よ!
「お前の力が頼りだ」Ich baue ganz auf deine Stärke
ペドリロが戻ってくる。
みんな寝ていました。もうすぐ12時です。隠れて下さい。
ベルモンテが隠れる。ペドリロはマンドリンを持って歌いだす。
黒人の国に囚われた、黒い髪、白い肌のお嬢さん。昼も夜も泣いて救われたいと願っていた。
「黒人の国に囚われた」In Mohrenland gefangen war
コンスタンツェが窓を開ける。
コンスタンツェ!私はここだ。
ペドリロが梯子を持って来て、コンスタンツェが降りてくる。
あなたたちは海辺に向かって下さい。僕はブロンデを迎えに行きます。
ベルモンテとコンスタンツェが海辺に向かう。ペドリロはブロンデのいるオスミン宅に窓から入り込む。オスミンが騒ぎに気が付いて起きる。オスミンとペドリロ、ブロンデが鉢合わせになる。ペドリロとブロンデは逃げる。
兵士よ!来てくれ。
ペドリロとブロンデが兵士たちに捕まる。続いて、ベルモンテとコンスタンツェも兵士たちに連れられてくる。
彼らをセリムのもとに連れて行け!勝利だ。あいつらが処刑されれば、俺は大喜びだ!
「勝利だ」Ha! wie will ich triumphiren!
第2場
太守セリムの部屋
セリムが兵士長に起こされる。オスミンが駆けつける。
裏切りがありました。コンスタンツェが男と逃げ出したのです。
セリム
彼らを捕まえろ。
ベルモンテとコンスタンツェが兵士に連行されてくる。
あなたの慈悲を裏切りました。ですが、彼は私の愛する人です。私は死んでも構いません。彼を救って下さい。
私はスペイン貴族です。私とコンスタンツェのために大金を支払います。私の名前はロスタドスです。
セリム
お前はオラン司令官を知っているのか?
私の父です。
セリム
お前の父?私は最も憎い敵を手に入れたのか!私はお前の父のせいで故郷を捨てた。愛する女を奪われたのだ。お前の父が私にしたことを返そう。(兵士に)彼らを見張れ。
セリムとオスミンが去る。
なんという運命だろう!私のせいでお前が死んでしまう。
「二重唱」Welch ein Geschick!
苦しまないで。あなたの側で死ねるのなら、幸せの始まりです。
ペドリロとブロンデが兵士に連れてこられる。続いて、セリムとオスミンが戻る。
あなたの復讐をは私で晴らして下さい。私の父があなたにしたことを償います。
セリム
お前は勘違いしている。お前の父を憎んでいた。お前は祖国に帰り、お前の父に言うがいい。お前の父がした悪行に悪行を返すよりも、私が善行で報いる方が私には満足であると。
セリム!どうしたらいいのかわかりません。
セリム
これを覚えておきなさい。お前の父よりも良い人間になるように。
あなたの気高い心は存じていました。驚きで何も言えません。
セリムが去ろうとする。
私たちも放免でいいですか?
こいつはとんでもない悪人です。
セリム
4人とも去るがいい。彼らを船まで送れ。
私のブロンデまで連れて行くのか!
ご恩は決して忘れません。
コンスタンツェ、ベルモンテ、ペドリロ、ブロンデ、オスミン
これほどの慈悲を忘れる者がいたら、軽蔑しましょう。
オスミンは怒って走り去る。兵士たちがセリムを褒めたたえる。