モーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」とは、女遊びが好きな騎士、ドン・ジョヴァンニが地獄に落ちるオペラです。初演はモーツァルト自身が指揮をして、大いに盛り上がりました。幕が開いて早々に決闘の末、ジョヴァンニは人を殺し、反省せずに遊びまくります。自分が殺めた騎士団長の石像に「悔い改めよ」と警告されますが、反省するのを断り、地獄行きになります。
ドン・ジョヴァンニ、オペラ:人物相関図
ドン・ジョヴァンニ、オペラ:登場人物
ドン・ジョヴァンニ | 若い騎士 | バリトン |
レポレッロ | ジョヴァンニの従者 | バス |
ドンナ・アンナ | 騎士団長の娘 | ソプラノ |
ドンナ・エルヴィーラ | ジョヴァンニの昔の女 | ソプラノ |
ツェルリーナ | 農民の娘 | ソプラノ |
騎士団長 | アンナの父 | バス |
ドン・オッターヴィオ | アンナの婚約者 | テノール |
マゼット | ツェルリーナの新郎 | バリトン |
- 原題:Il dissoluto punito, ossia il Don Giovanni
- 言語:イタリア語
- 作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
- 台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ
- 原作:ティルソ・デ・モリーナ「セビリアの女たらしと石の客」(1630年)モリエール「ドン・ジュアン」(1665年)ジョヴァンニ・ベルターティ「石の客」(1787年)
- 初演:1787年10月29日 プラハ国立劇場
- 上演時間:2時間50分(第1幕90分 第2幕80分)
ドン・ジョヴァンニ、オペラ:簡単なあらすじ
遊び人貴族のドン・ジョヴァンニが、アンナの家に夜這いに行く。彼女が大騒ぎする。ジョヴァンニはアンナの父親である騎士団長と決闘になり、彼を殺してしまう。しかし、彼は気にしない。同じ夜、彼は別の女をナンパするが、それは昔の恋人エルヴィーラであった。
彼は村娘ツェルリーナを誘惑する。誘惑の途中、エルヴィーラに邪魔をされる。周囲の人々はジョヴァンニの女遊びに気づく。さらに彼はエルヴィーラの侍女を誘惑する。周囲の人々はジョヴァンニの行動に憤慨する。
真夜中、ジョヴァンニとレポレッロが墓地で休んでいると、騎士団長の像が動き出す。ジョヴァンニは彼を食事に誘う。騎士団長の像がジョヴァンニの家にやってくる。騎士団長は彼に自分の行いを悔い改めるよう求めるが、ジョヴァンニはそれを拒否する。ジョヴァンニは炎に包まれ、地獄に落ちる。
ドン・ジョヴァンニ、オペラ:序曲
緊張感のあるスリリングな序曲です。ドン・ジョヴァンニの序曲は、初演の直前、一夜漬けで書かれたと言われています。モーツァルトは眠くならないように、妻コンスタンツェに「千夜一夜物語」のアラジンの話を読んでもらいながら作曲しました。
ドン・ジョヴァンニ、オペラ:第1幕のあらすじ・騎士団長殺し
第1場
騎士団長の邸宅・中庭
夜。従者レポレッロが、騎士団長の邸宅の前で行ったり来たり。
昼も夜も働くのさ。貴族になりたいものだ。召使いは嫌だ。ご主人様は、恋人と密会で、私は、見張り番。おや、誰かやってきたぞ。
「昼も夜も苦労して」Notte e giorno faticar
「昼も夜も苦労して」Notte e giorno faticar|ドン・ジョヴァンニ
家来だけど、ドン・ジョヴァンニを敬う気持ちは全くない、レポレッロ。
レポレッロは隠れる。ジョヴァンニは逃げようとし、ドンナ・アンナが腕を掴んで離さない。
裏切り者!私から逃げられると思わないで。召使いたち出てきなさい。
(身を隠しながら)馬鹿な。君は私が誰かわからないのに。静かにしろ!
(騒ぎに叫び声。ご主人様がまた問題を起こしたな。)
押し問答の末に、アンナはジョバンニの腕を放して、家に戻る。アンナの父・騎士団長が騒ぎを聞きつけて現れる。
騎士団長
私と決闘しろ。
消えてくれ。私にはふさわしくないのだ。決闘など。
(ここから逃げ出したい。)
騎士団長が引き下がらずに、決闘する羽目に。ジョヴァンニが騎士団長を殺してしまう。ジョヴァンニは、隠れて見ていたレポレッロを呼び出す。レポレッロが嫌みを言い、ジョヴァンニが「ぶつぞ」と言い返し、二人は去って行く。
明かりを持って人々が集まってくる。アンナ、アンナの婚約者、召使いたち。騎士団長の遺体を発見する。
(遺体を見て)なんという痛ましい光景。私の父、愛する父が。あの殺人者が、父を殺したのか。
アンナの婚約者(オッターヴィオ)
助けてくれ。香油を持ってきてくれ。
お父様!
アンナの婚約者(オッターヴィオ)
遺体を運び出してくれ。君には夫であり、父である私がいるよ。
復讐を誓ってちょうだい。
第2場
路上
同じ夜。ジョヴァンニとレポレッロが言い争っている。
怒らないと誓ってくださいよ。一言言わせてください。あなた様の生活は、ならずものの生活ですよ!
黙れ!そんな話より、なぜここにいるかわかるか?私は、これから美人の貴婦人と別荘で会うつもりなんだ。ちょっと待て。遠くから、女の香りだ。それに美人だぞ。どんな女か、離れたところで様子を見てみよう。
(なんという嗅覚と視力なんだ。)
二人が後ろに下がったところに、ドンナ・エルヴィーラが現れる。
誰か教えて。あの野蛮人がどこにいるかを。不実な男を愛してしまった。私のもとに戻らないなら、苦しめてやる。
レポレッロ!聞いたか。男に振られたらしい。私が慰めよう。
ジョヴァンニが近づいて声を掛けると、以前関係をもった女だった。
ジョヴァンニ!!あれだけ熱烈に口説いて、寝た途端にいなくなったわね。私と結婚すると言ったのに、たった3日でブルゴスからいなくなるなんて。こうやって会えたのも、復讐するためだわ。
これには理由があるんだ。なあ、レポレッロ。(この女は、危なっかしいな。)私では信用ならないだろうから、レポレッロの話を聞いてくれ。
ジョヴァンニは、ふたりが話している隙に逃げ出す。エルヴィーラは追いかけようとするが、レポレッロが止める。
まあ、落ち着いてください。あなたは最初の女でも最後の女でもないし、なかったし、なることもないのです。
この本をご覧ください。ジョヴァンニ様の愛した女たちの目録です。私が作ったんですよ。年齢や身分、国籍、容姿問わず、女たちを褒めて寝るのです。
「カタログの歌」Madamina, il catalogo è questo
「カタログの歌」Madamina, il catalogo è questo|ドン・ジョヴァンニ
ドン・ジョヴァンニは、季節で女を選ぶ、とんでもない遊び人。それを記録するレポレッロ。
第3場
村の広場
今夜結婚する、村娘のツェルリーナと花婿を祝って、村人たちが踊っている。ジョヴァンニとレポレッロが通りかかる。
結婚式でもあるのかね?
そうです。花嫁は私、花婿は彼です。
二人とも素晴らしい。ぜひ君たちと仲良くしたいな。(レポレッロ、彼らをうちの屋敷に連れて行き、ハムやワインを出して楽しませろ。特に、花婿を楽しませるんだぞ。)
レポレッロが村人たちを屋敷に連れて行く。レポレッロを振り払い、花婿がその場に残ろうとする。
花婿(マゼット)
ツェルリーナは僕がいないとダメなんです!
うちのご主人様がついているから心配ない。
騎士の手にまかせろ。すぐに二人で向かうから。
私は大丈夫よ。騎士様がついていてくれるもの。
それでも残ろうとするので、ジョヴァンニが剣を見せて牽制する。
花婿(マゼット)
わかりましたよ、お殿様。あなたを疑うなんて出来ませんよ。
(ツェルリーナにこっそり)悪い女!君はいつも僕を酷い目にあわせてきたんだ。いいさ、ここにいろ!騎士様がおまえを女騎士にしてくれるといいな!
「わかりましたよ、お殿様」Ho capito, signor sì!
マゼットは去っていく。
ついに解放されたな、あのバカから。
彼は私の夫です。
君には農夫の妻になるよりも、別の運命が訪れたのだ。
最後には騙されることを知っています。
貴族の目には誠実さが現れているのですよ。私はあなたと結婚したい。お手をどうぞ。「はい」と言うのだよ。
「二重唱・お手をどうぞ」Là ci darem la mano
遊ばれたらどうしよう。でも、あなたについて行くわ。
「お手をどうぞ」Là ci darem la mano|ドン・ジョヴァンニ
ふたりはジョヴァンニの別荘に向かう。
待ちなさい。彼女をどこに連れて行こうというの?
なんてこと。
(ツェルリーナに)この女は私につきまとっているんだ。気にしないでくれ。
あなたの唇は嘘つきで、そのまなざしは偽りよ。
エルヴィーラがツェルリーナを連れて行く。
どうも悪魔が楽しみの邪魔をするな。
アンナと婚約者がやって来る。
アンナの婚約者(オッターヴィオ)
騎士長の復讐のため、友人のあなたに協力して欲しいのです。
エルヴィーラが戻ってくる。
信じてはいけません。不実な男ですよ。この男は、皆さんを裏切っているのです。
ドンナ・アンナと婚約者
威厳があり、青ざめた顔、彼女の涙。哀れみを誘う。
彼女は気がふれているのです。心配しないでください。
アンナと婚約者はどちらを信じて良いのか、困惑。エルヴィーラが去る。
不幸な女を放っておけません。
ジョヴァンニが、彼女の後を追いかける。
ドン・オッターヴィオ。私死んでしまいそう。ああ、なんてこと!彼が、昨夜の男よ。先ほど最後の言葉を言った時に、私の心に思い浮かんだの。自分の部屋で彼の声が聞こえたの。
「ドン・オッターヴィオ、死にそうだわ」Don Ottavio, son morta!
アンナの婚約者(オッターヴィオ)
彼女の安らぎは私の心の安らぎでもある。彼女が悲しめば、私も苦しむ。彼女の涙、苦しみは、私のものでもある
「彼女の安らぎこそ」Dalla sua pace la mia dipende
レポレッロはひとりでぼやいている。
どんな犠牲を払っても、出ていこう。こんな酔狂には付き合いきれない。
私のレポレッロ!万事、うまくいっているぞ。
私のジョヴァンニ様!万事、まずい調子ですよ!
屋敷で村人たちをもてなしていた所に、ツェルリーナとエルヴィーラ様が来たんですよ。エルヴィーラ様はあなたの悪口を言いまくって、落ち着いたところで、家から出てもらい、鍵を掛けました。
お見事じゃないか。
踊ってみんなで盛り上がろう!酒といろんなダンスで!その隙に、私はこの女とあの女と恋をするのだ。
「シャンパンの歌」Fin ch’han dal vino
「シャンパンの歌」Fin ch’han dal vino|ドン・ジョヴァンニ
シャンパンの歌に出てくる、3つの踊り「メヌエット」「フォリア」「アルマンド」の動画を紹介。
第4場
ジョバンニの邸宅・庭先
村人たちが庭でくつろいでいる中、ツェルリーナと花婿がいる。
花婿(マゼット)
結婚式の日に僕を裏切るなんて!
でも、私に罪がなかったら?彼は私に指一本ふれていないのよ。
ぶってよ、マゼット。なんでもしていいのよ。ぶたれても、私はあなたの手にキスするわ。あら、勇気がないのね。それなら仲直りしましょう。
「ぶってよ、マゼット」Batti, batti, o bel Masetto
「ぶってよ、マゼット」Batti, batti, o bel Masetto|ドン・ジョヴァンニ
マゼットの手は「manine」赤ちゃんの手?恋愛上手なツェルリーナ。
ツェルリーナの言うことを信じない花婿は隠れて、ツェルリーナを見張ることにする。ジョヴァンニが着飾ってやって来る。ツェルリーナを口説くが、花婿が出てきてその場を取り繕う。3人でギクシャクしながら、庭を離れる。
アンナ、アンナの婚約者、エルヴィーラが仮面をつけて、ジョヴァンニの屋敷の外にいる。ジョヴァンニは窓から3人を見つけて彼らを屋敷に招くように、レポレッロに伝える。
仮面をつけた皆さん、主人が舞踏会に招待したいと申しています。(またご婦人たちに、言い寄ってみるのだろうな。)
第5場
ジョバンニの邸宅・大広間
ジョヴァンニ、レポレッロ、ツェルリーナ、花婿、村人たち。お菓子や飲み物が次々と運ばれて、皆が踊っている。ジョヴァンニがツェルリーナを口説いて、花婿がその様子を見て怒っている。
仮面をつけた、アンナ、アンナの婚約者、エルヴィーラが、現れる。
レポレッロが花婿と無理矢理一緒に踊って、その隙にジョヴァンニがツェルリーナを連れていく。ツェルリーナが叫び声をあげ、仮面をつけた3人と花婿が探して、ツェルリーナを見つけ出す。
そこに、ジョヴァンニが剣を持ち、レポレッロを引き連れて来る。でも、剣を抜いていない。
こいつがツェルリーナを襲おうとしたヤツだ。私が罰しよう。死ね!悪いやつめ。
ええ!なんでそんなことを!
アンナの婚約者(オッターヴィオ)
そのようなことをしても、無駄ですよ。
3人が仮面をはずす。
アンナ、アンナの婚約者、エルヴィーラ、ツェルリーナ、花婿
悪党よ!なにもかもわかったぞ。すぐに世間が知るだろう。復讐が近くにあり、お前の頭上に雷が落ちるだろう。
ジョヴァンニ、レポレッロ
頭がぼうっとしている。何をしているのかわからない。嵐が、私をおびやかしている。でも、勇気は失わないぞ。気落ちしないし、驚かない。たとえこの世が崩れ落ちても、恐れるものは何もない。
ドン・ジョヴァンニ、オペラ:第2幕のあらすじ・地獄落ち
第1場
路上
ジョヴァンニが、出て行こうとするレポレッロを引き止めている。
おい、困らせるんじゃないよ。私が何をしたっていうんだ。お前が出て行くようなことをしたのか。
「二重唱」Eh via, buffone, non mi seccar!
ええ、殺されそうでしたけどね。出て行かせてください。
ジョヴァンニはレポレッロに金貨を渡して機嫌を取る。
私には計画がある。お前と服を交換して、エルヴィーラの侍女を口説きに行くぞ。あの階級のものは、この服では信用してくれない。
レポレッロはしぶるが、ジョヴァンニが一喝して、二人は服を交換する。
あたりが、次第に暗くなっている夕暮れ時。エルヴィラが窓辺で憂いている。レポレッロ(ジョヴァンニの服)が路地に立ち、影からジョヴァンニ(レポレッロの服)が見ている。
落ち着け、正しくない心よ。彼は不届き者であり、裏切り者であるのよ。哀れむことは罪だわ。
「三重唱」Ah taci, ingiusto core!
エルヴィーラ、私の愛しいひとよ。私に憐れみをくれ。下に来てくれないか。君こそ私が夢中で愛している人だ。
(レポレッロ、彼女が降りてきたら、一緒に遠くに行くんだぞ)
(エルヴィーラ様はまだこの人を信じるのだろうか?)
エルヴィーラは、悩んだ後に降りてきて、レポレッロ(ジョヴァンニの服)をジョヴァンニと思い込んだまま、熱々に盛り上がる。ジョヴァンニが「うるさいぞ」と声を上げて、ふたりを追い払う。
(エルヴィーラの侍女のために歌おう。)窓辺においで。愛しい人。拒むのなら、私は死んでしまう。さあ、姿を見せてくれ。
「窓辺においで」Deh, vieni alla finestra
「窓辺においで」Deh, vieni alla finestra|ドン・ジョヴァンニ
歌詞の中に、女性を褒める言葉がたくさん。口説くにも、同じほめ方はしないぞ、というジョヴァンニ。
そこに、武装したツェルリーナの花婿と村人たちが現れる。
(あいつはツェルリーナの花婿だな。レポレッロのふりをしよう。)どうしたんですか?
花婿(マゼット)
ジョヴァンニを懲らしめに来たんだ。
私もご主人様には、こりごりだ。君たちの半分はあっち、半分はこっちに行くんだ。そっと静かにあいつを探し出せ。ジョヴァンニは、大きな帽子にマントを着ているさ。
そして、ツェルリーナの花婿よ。君は残って。どんな武器をもっているのかい?
「君たちの半分は」Metà di voi qua vadano
花婿が武器を見せると、ジョヴァンニはその武器で花婿を痛めつけて、去って行く。花婿が倒れて痛がっていると、声を聞きつけてツェルリーナがやって来る。
あなたが馬鹿げたやきもちから困ったことにならないか心配したの。どこが痛いの?それくらいなら大丈夫。このまま家に帰りましょう。
私があなたを癒やしてあげる。薬屋にも作れない素晴らしい薬が私にはあるのよ。それがどこにあるかわかる?
「薬屋の歌」Vedrai, carino, se sei buonino
「薬屋の歌」Vedrai, carino|ドン・ジョヴァンニ
マゼットに対して、小さな男の子扱いから大人な雰囲気に!
第2場
騎士長の邸宅・中庭
夜。複雑な庭で出口がわかりにくい。村人たちに追いかけられて、レポレッロ(ジョヴァンニの服)とエルヴィーラが逃げてくる。
愛しい人。ここに隠れよう。
暗い場所でひとり、鼓動を感じています。
(どうやって彼女から逃げだそうか?今がチャンスだ。出て行こう。)
レポレッロがエルヴィーラを置いて出て行こうとしたが、庭の出口ではなかった。別の場所から、アンナとアンナの婚約者が庭に出てくる。アンナ宅の庭だと知らなかった、レポレッロとエルヴィーラがこっそり門から出て行こうとすると、ツェルリーナと花婿と鉢合わせになった。
ツェルリーナと花婿
待て、ならずもの。
ドンナ・アンナと婚約者
なぜ、うちの庭に?
ジョヴァンニは、私の夫です。許してあげてください。
アンナ、アンナの婚約者、ツェルリーナ、花婿
ドンナ・エルヴィーラ?信じられない。いや、ジョヴァンニには死んでもらう。
いや、私はジョヴァンニではないです。命だけはお助けを。
一同が驚いていると、アンナが何も言わずその場を去る。レポレッロは、残った人に責められる。
お慈悲を。皆さま。ドンナ・エルヴィーラ様には謝ります。ツェルリーナの花婿さんのことは知りません。私はやっていない。(ええと、入ってきたときは、ああでこうで。そうかわかった。)
レポレッロが出口をめがけて逃げ出す。エルヴィーラは、レポレッロを追いかけて去る。
アンナの婚約者(オッターヴィオ)
皆さん方。私は、必要な人に異議を申し立てて、復讐することを誓います。義務と信仰心、愛情でそうするのです。私の愛しい人を慰めてあげて下さい。そして彼女に伝えて。復讐のために私が立ち上がると。
「私の恋人を慰めて」Il mio tesoro intanto
「私の恋人を慰めて」Il mio tesoro intanto|ドン・ジョヴァンニ
勇ましい言葉を、人を通して恋人に伝える虚しさ。
エルヴィーラがひとり。
彼は、とんでもない悪行を犯してしまったわ。もう裁きは止められない。運命の落雷が、彼に落ちてしまう。
不実な魂は、私を裏切った。彼は私を不幸にする。復讐を求めているのよ。でも彼が裁かれることになれば、心は揺れ動いてしまう。
「不実な人は私を裏切り」Mi tradì, quell’alma ingrata
第3場
墓地
夜。騎馬像がたくさんあり、その中に、騎士団長の石像がある。ジョヴァンニが陽気にやって来る。
女を追いかけ回すのにちょうどいい、明るい夜だな。レポレッロは、うまくやっているかな。
あなたとなんか、出会わなきゃよかった。殺されそうになりましたよ。
騎士団長の石像
夜明け前には、お前の高笑いも止まるだろう。
ジョヴァンニは剣を振り回す。自分が殺した騎士団長の石像に気がつく。
レポレッロ、騎士団長の石像に晩餐に招待すると、伝えろ。
嫌です。
お前があの者を招待しないと、ここにお前を埋めることになる。
最も偉大で優しい騎士団長の石像様。…これ以上は言えない。
「二重唱」O statua gentilissima del gran Commendatore
お前の胸に剣が刺さるぞ。
私のご主人様が…いいですか、私ではないですよ。あなたと一緒に食事をしたいそうです。…ああ、うなずいた。
騎士団長の石像がうなずく。レポレッロは恐がり、ジョヴァンニは面白がり、晩餐の用意に向かう。
第4場
薄暗い部屋
アンナの婚約者が「早く結婚して君を慰めたい」と言うが、アンナは「今は悲しみの中にいるので」と断る。
アンナの婚約者(オッターヴィオ)
君は何度も結婚を引き延ばして、僕を傷つけるつもりか。むごい人だ。
むごい人ですって。私はあなたを愛していますよ。何も言わないで、私の恋人よ。苦しみで私が死んでしまうのをお望みでないのなら、今は何も言わないでください。
第5場
ジョバンニの邸宅・大広間
晩餐の用意がしてある、大広間。すでに食事の準備が整って、楽団もいる。
食事の用意はできた。自分の金で用意したのだから、食べるぞ。
ジョヴァンニは食事を始める。レポレッロがジョヴァンニに隠れて食べる。途中、楽団が「フィガロの結婚」の「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」を演奏する。
この曲は、よく知っているぞ!
ジョヴァンニが食事を楽しんでいると、エルヴィーラがやって来る。
あなたにすがりません。最後の願いです。生活を改めてください。
(あざけるように)素晴らしいね。今食事中なのだ。さあ、一緒に食事をしよう。
不誠実な。ここにいればいいわ。
エルヴィーラは立ち去るが、叫び声を上げて戻ってきて、別の方向へ逃げ去る。レポレッロが様子を見に行くと、叫び声を上げて戻ってきた。おびえて、扉を閉める。
外に、騎士団長の石像がいます。真っ白で…石の…人間。ジョヴァンニ様、外に出ないでください。ああ、ドアをノックする音が!
レポレッロ、扉を開けてやれ。…仕方がないな、私が開けよう。
(見てられない…机の下に隠れていよう。)
騎士長の像が部屋に入ってくる。
騎士団長の石像
ジョヴァンニ、晩餐に招いてくれたな。私はやってきたぞ。お前は、私の食事に招かれるか?受け入れるなら、私の手を取れ。
「地獄落ち」Don Giovanni, a cenar teco
だめだ、と言って下さい!
もちろん、いいさ。うわ!なんと冷たい手だ。
「地獄落ち」Don Giovanni, a cenar teco|ドン・ジョヴァンニ
有名な地獄落ちの場面。
騎士団長の石像
悔い改めろ、生活を変えろ。これが最後の時だ。
悔い改めるものか!
(悔い改めるのですよ!)
騎士団長の石像
もう時間がない。
炎が上がり大地が揺れて、騎士団長の石像が消えていく。ジョヴァンニは火の中にいる。
誰が私の魂を引き裂くのか!地獄だ!恐怖だ!
絶望した顔!叫び!恐ろしい。
火が燃え上がり、ジョヴァンニが地獄の炎に飲み込まれていなくなる。残されたレポレッロ。
一転して明るい音楽。レポレッロ、アンナ、アンナの婚約者、エルヴィーラ、ツェルリーナ、ツェルリーナの花婿、そして裁判官が現れる。
ジョヴァンニ様はいないですよ。遠くに去られました。
アンナの婚約者(オッターヴィオ)
天が彼に復讐してくれたので、私と結婚しましょう。
あと、一年待ってください。
私は修道院に入り、一生を過ごすことにします。
ツェルリーナ、花婿
私たちは家に戻りましょう。一緒に食事するために。
もっといい主人を見つけよう。