リヒャルト・シュトラウスのオペラ「エレクトラ」は、ギリシャ神話をもとにしたオペラです。父を母と愛人に殺され復讐心を持つエレクトラと、その母クリテムネストラの対立が描かれています。エレクトラは、モーツァルトのオペラ「イドメネオ」に「エレットラ」としても登場しています。イダマンテとイリアの恋仲に嫉妬する脇役です。
エレクトラ、オペラ:人物相関図
エレクトラ、オペラ:登場人物
エレクトラ | クリテムネストラの娘 | ソプラノ |
クリテムネストラ | エレクトラの母 | アルト |
クリソテミス | エレクトラの妹 | ソプラノ |
オレスト | エレクトラの弟 | バリトン |
エギスト | クリテムネストラの愛人 | テノール |
- 原題:Elektra
- 言語:ドイツ語
- 作曲:リヒャルト・シュトラウス
- 台本:フーゴ・フォン・ホーフマンスタールの戯曲「エレクトラ」
- 原作:ソポクレスのギリシャ悲劇「エレクトラ」
- 初演:1909年1月25日 ドレスデン宮廷歌劇場
- 上演時間:1時間50分
エレクトラ、オペラ:簡単なあらすじ
オペラ前の出来事
ミケーネの王アガメムノンは、娘イーピゲネイアを女神アルテミスに捧げる生贄として捧げる。妻のクリテムネストラは、夫に不信感を抱いている。トロイア戦争から帰還したアガメムノンは、クリテムネストラとその愛人エギストによって殺害される。彼らはエレクトラとクリソテミスを宮殿に残し、オレストを追放する。
エレクトラ
クリテムネストラは、自分の子供たちに復讐されることを恐れている。彼女は罪悪感で眠れない。エレクトラは復讐を決意するが、妹のクリソテミスは復讐に協力することを拒む。
オレストの死の知らせが入るが、彼は生きて帰ってくる。オレストはクリテムネストラに復讐する。彼女の愛人エギストもオレストとその協力者たちによって殺される。復讐が成功したことを知ったエレクトラは踊る。エレクトラは死ぬ。
エレクトラ、オペラ:全1幕のあらすじ
ミケーネ宮殿の中庭
トロイア戦争後のギリシャ。宮殿の裏側と使用人の住む低い建物に囲まれた中庭。侍女たちが井戸に集まっている。5人の侍女に、侍女頭がいる。
侍女
エレクトラはどこにいる?
侍女
彼女の時間になったのでは?父を求めて泣き叫ぶ時間よ。
すでに暗くなった廊下から、エレクトラが走り出てくる。みんなが彼女に目を向ける。エレクトラは、片腕を顔の前に出して、動物のように飛び退いて立ち去る。
侍女
先日彼女が横になってうめき声をあげているのを見たよ。
侍女
彼女は太陽が低くなると、いつもそうしている。
侍女
そう、私たちは彼女に近づきすぎた。彼女は猫のようにヒステリックになった。
侍女
私は彼女にモップで殴られたわ。
侍女
「お前たちは、苦悩からの甘さをむさぼってはいけない。去れ。太るほど食べて男と楽しめばいい。」彼女は叫んだ。
侍女
私は言い返してやったわ。「お腹が空けば、食べるものですよ。」すると、彼女は飛び起きて、恐ろしい顔で叫んだ。「私は体にハゲワシを飼っているんだ。」
侍女
あなたはなんて言ったの?
侍女
「だからあなたは腐肉の臭いがするところで、古い死体をつついているのですね。」と言い返してやったわ。彼女はうなっただけで、寝転んだ。
侍女
なんで、女王は彼女をやりたいようにさせているの?
侍女
彼らは彼女に十分に厳しいわよ。主人が彼女を殴っているのを見たことがないの?
ずっと黙っていた5人目の若い侍女が、震えるような興奮した声で話す。
若い侍女
私は彼女の前にひれ伏し、彼女の足にキスをするわ。王族のお子様なのに、こんな恥ずかしめを許していいのか?私は彼女の足に香油を注ぎ、私の髪でそれを乾かそう。
侍女頭
部屋に入りなさい。
若い侍女
あなた方は、彼女が吸う空気を吸う資格がない。首を吊って、暗闇の納屋に吊るされてしまえばいい。エレクトラにしたことの報いだ。
侍女頭が、若い侍女を扉に押し入れる。
侍女頭
聞いたかい?私たちが何をしたというの?彼女は私たちと一緒に食事をするように命じられたときに、テーブルから食器を投げ捨てた。私たちの前で唾を吐きかけ、私たちを売女と罵ったのに。
侍女
彼女はいつだって、暴言を吐き騒ぎ立てる。
侍女たちは水瓶を抱えて建物に向かう。
侍女頭
私たちが子供を連れているのを見ると、彼女は叫んだ。「なんて呪わしいことだ。この家で産まれた子供たちは、血まみれの階段で犬のように滑るだろう。」彼女はそう言ったか、言わなかったか?
4人の侍女
言った、言った。
侍女たちは建物に入っていく。エレクトラが現れる。
一人だ。まったく一人だ。父はいない。アガメムノン!アガメムノン!父よ、あなたはどこにいるの?
今はあの時間ですよ。あなたを殺害した時、あなたの妻と彼は、王の寝床で一つになった。彼らはあなたを風呂場で殺害した。臆病者のあいつは、あなたの頭を上に、足を下に家を引きずった。
あなたには、息子のオレストと娘たちがいます。私たち3人がすべてを終わらせたとき、太陽が引き寄せた血の蒸気で、真紅の天幕が張るでしょう。あなたの血縁が、あなたの墓の周りで踊ります。人々は私の影が踊るさまを遠くから見て、こう言うに違いない。「偉大な王の宴が、血縁によって行われている。気高い墓の周りで王の勝利を踊る子供を持つ者は幸せだ。」 アガメムノン! アガメムノン!
「一人だ、まったく一人きりだ」Allein! Weh, ganz allein
エレクトラの妹、クリソテミスが玄関に現れる。
エレクトラ!
エレクトラは夢から覚めたように、クリソテミスを見つめる。
何の用だ?話せ、話すがいい。用が済めば、私の元を去れ。
クリソテミスは、防御するように両手を挙げる。
なぜ手を挙げるのか?そうやって父親は両手を挙げた。すると、斧が降りてきて彼の肉を裂いたのだ。何がしたいのか。母の娘よ。
彼女らは何か恐ろしいことを企んでいる。
2人の女性?一人の女は、私の母だ。もう一人の女は、エギストだ。臆病者の殺人者。彼はベッドの中でだけ勇敢になる。それで、彼女たちは何をしようとしているのか?
あなたは塔に放り込まれ、太陽や月の光を見ることができなくなるかもしれません。
エレクトラは笑う。
彼らはそうするだろうし、私はそれを知っている。私はそれを聞いたのよ。
どうやって聞いたの?
扉越しによ。エレクトラ。
この家では扉を開けてはいけない!絞りあげられる息、ああ。首を絞められた人の喘ぎ声が聞こえてくる。扉を開けるな。徘徊するな。私のように地面に座り、彼と彼女に裁きを下す死を願え。
あなたのように闇を見つめて座ることはできません。家の中のどの部屋にいても、私は悩まされています。すでに私の心は石になり、涙すら出ないのです。姉よ、憐れみを。
誰に?
私を鉄の工具で床に打ち付けるのはあなたです。あなたがいなければ、彼女らは私を放っておいてくれたでしょう。あなたの手に負えない憎しみによって、彼女らが震えていなければ、私たちはここから解放されていたのです。私はここから出たい。農民の男でいいから子供を授かりたい。聞いてますか。答えて下さい。
あなたはかわいそうな生き物ね。
あなたと私を憐れんでください。そんな苦悩を誰が気にするの?父は死んだ。弟は帰ってこない。か細い女が祝福により身重になるのを見てきた。そして子は育っていく。私は女です。女の運命を知りたい。
クリソテミスは泣き出す。
お前は何のために泣いているの?私から離れて、中に入れ。お前の居場所がある。
大勢がやってくる足音が聞こえてくる。
あなたは去って下さい。彼女に会わないで。
私は母と話したくなった。
私は聞きたくない。
クリソテミスは中庭から出ていく。
クリテムネストラが窓辺に現れる。松明に照らされた彼女の青白い顔は、緋色の衣によってさらに青白く見える。彼女は、宝石をあしらった象牙の杖をもち、濃い紫の服を着た侍女に寄りかかっている。エレクトラは窓を見つめて、立ち上がる。クリテムネストラは怒りに震えながら、杖をエレクトラに向けます。
お前は何をしたいのか?(侍女に)あれを見なさい。彼女の歪んだ首がどのように反り返るのかを。彼女は舌打ちしたぞ。
神々よ、なぜ私をこのようなひどい目に合わせるのですか?永遠の神々よ、なぜ私にこんなことが起こるのですか。
神々!お前は女神だよ。
(侍女に)聞いたか?
侍女
あなたが神々の一族ということでは?
裾持ちの侍女
(小さい声で)なにか思惑があるのでは?
懐かしい響きだ。彼女は私をよく知っている。だが、彼女が何を企んでいるかはわからない。
エレクトラはクリテムネストラにゆっくりと近づく。
あなたはもう自分自身ではない。虫はいつもあなたの周りをうろついている。耳元で囁かれる言葉は、あなたの思考を二つに分けてしまうので、あなたはぼんやりと歩き、いつも夢の中にいるかのようになる。
窓辺から降りてみよう。今日の彼女は嫌ではない。まるで医者のような口ぶりだ。
侍女
彼女は本気で話すことはありません。
裾持ちの侍女
彼女のすべての言葉は虚言ですよ。
私は何も聞きたくない。お前たちの言うことは、エギストの息のようだ。夜に私がお前たちを起こすとき、お前たちは別々のことを言う。瞼が腫れている。肝臓が病気だとか。
真実とは何か。誰にもわからない。もし彼女が、私が聞いて喜ぶことを話してくれたら。彼女が話すことに耳を傾けよう。
何より私は救いを求めている。彼女と二人きりにしてくれ。
侍女たちは去り、クリテムネストラは中庭に降りてくる。
私は穏やかな夜を過ごすことができない。夢の解毒薬をお前は知っているか?
母よ、あなたは夢を見ているの?
年を取った人は誰でも夢を見る。何事にも儀式があるものだ。だから、私は宝石を身に着けている。力を持った宝石を。だが、私はその力を使いこなすことができない。お前さえよければ、お前は私のためになることを言うことができるのだよ。
私が?
そう、お前だ。お前は賢い。私にとって有益なことを言えるだろう。
昼夜を問わず目を開けて寝ると、何かが忍び寄ってくる。それは痛みもなく、圧迫感もない。悪夢ですらない。それなのに、こんなにひどいことになっている。
私の魂は首を吊ってほしいと思っている。体の隅々まで死を求めて叫んでいる。しかし、私は生きているし、病気でもない。
お前は私を見ている。私は病人に見えるか?
この夢は終わりにしなければならない。すべての悪魔は、正しい血が流れるとすぐに人々を解放するものだ。私はもはや夢を見たくない。
正しい血の犠牲が斧の下に落ちた時に、夢を見ることはなくなる。
どの神聖な動物か知っているのか?
神聖ではない。
犠牲となる動物を言え。
女だ。
私の召使のひとりか?子供か、処女か、男を知った女か。
ええ、男を知った女だ。
それでは、私は何をすれば?
お前は何もしない。男がする。
エギストか?
エレクトラは笑う。
私は言いましたよ。男とね。
誰だ?家の者か?よそ者か?
よそ者であり、家の者だ。
謎かけはやめなさい。
母よ、弟を家に入れてくれないか?
私は、お前に彼のことを話すことを禁じているぞ。
では、彼を恐れているのか?
誰が馬鹿な者を恐れるものか。彼は何も言えず、庭で犬と一緒に寝て、人と獣の区別がつかないそうだよ。
その子はいたって健康だった。
私は彼のために多くの金を送った。彼が王の子として扱われるように。
嘘つき。彼を絞め殺すために金を送っただろう。
誰がそんなことを言った?
お前の目を見れば、見えてくるのだ。お前の震えに、彼が生きていることが現れている。彼が戻ってくることを知っているから恐怖で心が痛むのだろう。
誰が外にいようと私にはどうでもいいことだ。私は屋敷の主人だ。私には門を守るのに十分な使用人がいる。私が望めば、私の部屋の前に3人の武装した男を昼夜問わず目を開けて座らせることができる。
お前から言葉を引き出すこともできる。お前を鎖につないででも言わせる。食べ物を与えないようにしてやるぞ。
誰が血を流すのか知れば、私は再び眠れるのだ。
エレクトラは、クリテムネストラにさらに近づく。
誰の血が流されなければならないのか?お前の首だよ。
狩人がやってくれば、お前は部屋を逃げ回る。右に行けばベッドがあり、左に言えば、風呂場に血が溜まっている。狩人に加勢するのは私、私、私だ。私は犬のようにお前を追い詰める。そこに暗闇の中から現れるのは、父上だ。彼の足元に私たちはお前を押し倒す。お前は気が抜けたように首を差し出し、鋭い一撃を感じる。だが、彼はその一撃を食い止める。
儀式はまだ十分ではない。全てが静寂に包まれ、心臓が肋骨に当たる音が聞こえてくる。お前のための時間だ。お前に死の絶望を感じさせるために与えられる。
そうして私はお前の前に立つ。お前は私の顔に書かれた恐ろしい言葉を読むだろう。斧がお前に落ちる。そうすれば、お前はもう夢は見ない。もう夢を見る必要はない。
二人は向かい合って立つ。侍女がやってきて、クリテムネストラに何かを囁く。クリテムネストラが合図を送る。松明を持った召使が出てくる。クリテムネストラは召使を引き連れて家に入る。
彼らは彼女に何を言ったのだろうか?彼女は喜んでいた。
クリソテミスが叫びながら、中庭に駆け込んでくる。
オレストが、オレストが死んだ!私たちを除いて、みんな知っていた。
…誰も知らない。それは真実ではない。
クリソテミスは絶望して地面に身を投げる。エレクトラは彼女を起こす。
そんなことはない。それは真実ではない。
見知らぬ人たちが報告するために送られてきたのよ。老人と若者の二人だった。彼は異国の地で亡くなった。
中庭に、老いた使用人と若い使用人が出てくる。
若い使用人
一刻も早く鞍替えしてくれ。馬でもラバでも牛でもいいから、とにかく早く。
老いた使用人
誰のために?
若い使用人
俺のためだよ。俺は主人を迎えに行くために野原に出なければならない。彼に喜ばしく重要なメッセージを伝えなくてはいけない。
ふたりとも庭から出ていく。
私とお前はやらなければならない。今日がその日だ。今夜だ。
(恐る恐る)何をですか?
今、私とお前は、女とその夫を斬るために行かなければならない。
母のことですか?
私たちは、彼女も彼もためらうことなくやらねばならない。話すことも考えることもない。どうやってやるかを考えろ。
私?あなたと私?両手で?
それは私に任せろ。斧だ。父を殺した斧だ。弟のためにとっておいたものだ。私たちがそれを振りかざさなければならない。
あなたが?あなたがエギストを殺すの?
最初は彼女、次に彼。最初は彼、次に彼女、同じことだ。彼女の控えの間には誰も寝ていない。
彼女の睡眠中に殺人を犯すの!?
眠っている者は縛られた犠牲者である。彼女らが一緒に寝ていなかったら、私一人でできた。だが、今はお前は私と一緒に行かなければならない。
クリソテミスが逃げ出そうとすると、エレクトラが引き留める。
お前!お前!お前は強い。処女の夜がお前を強くした。私はお前の肌の冷たさの中に暖かい血を感じ、私の頬でお前の若い腕の毛羽立ちを感じる。お前は力に満ちていて、美しく、熟した果物のようだ。
解放してください!
だめだ。そうはさせない。これからは、お前の妹になりたい。私はお前の妹ではなかったから。私はお前の部屋で一緒に座り、花婿を待とう。彼のために、私はお前を香りの良い風呂に入れ、お前に香油を塗ってやろう。そうだ。今日から私はお前の妹以上の存在であり、お前の奴隷として仕えるよ。
お前にはこれ以外の道はないのだよ。お前が誓うまでは、お前を許さない。今夜、静かになったら階段の下に必ず来なさい。
できません!
クリソテミスは走り去る。
いまいましい。それなら、一人でやる。
エレクトラは家の壁近くを掘り返し始める。時折周囲を伺いながら掘る。オレストが中庭の入り口に現れる。オレストとエレクトラは視線を合わせる。
見知らぬ人、何の用?この暗い時間に何をしているのか、他の人が何をしているのかを見ているのか。私のことはほっといてくれよ。
私はここで待たなければならない。お前はここの侍女か?
ああ、私はこの家で奉仕しているよ。だが、お前はここに用はないだろう。さあ、いなくなれ。
私は呼ばれるまでここで待っていなければならないと言っただろう。
嘘を言うな。この家の主人は留守だ。もうひとりは彼女だ。彼女はお前に何の用がある?
彼女に伝えなくてはいけない。息子のオレストが目の前で亡くなったことを証言できるからこそ、私たちは彼女のもとに遣わされた。彼は自分の馬に殺されたのだ。私は彼と年齢が近く、彼の仲間であった。
私はまだお前と話していないといけないの?不幸な使者よ。お前は生きている。お前よりも優れて高貴な人が地中にいるのだ。
彼は自分の人生を楽しみすぎた。天上の神々は、明るすぎる欲望の様子に耐えられない。だから、彼は死ぬしかなかった。
この家の中の者は、食べて飲んで寝て楽しく生きている。私はこの地面の上で、孤独で恐ろしい生活をしている。
お前は誰だ?死んだアガメムノンやオレストとは血がつながっているのだろう。
私はその血だ。アガメムノン王の血だ。エレクトラは私の名前!
エレクトラ!一体何があったのか?私は本当に彼女を見ているのか?お前は飢えさせられたのか?叩かれたのか?お前の目は恐ろしい。お前の頬はこけている。
家の中に入りなさい。中に私の妹がいるよ。彼女は喜びの宴のために自分を守っているのだ。私はお前が誰なのか知りたくもない。会いたくもない。
エレクトラ!聞いてくれ。オレストは生きている。
エレクトラは倒れる。
弟はどこにいるの?絞め殺される前に、彼を救ってください。お前は誰なの?
老いた使用人と3人の使用人が中庭に静かに入ってくる。彼らはオレストの前にひれ伏し、オレストの足、手、衣服の裾にキスをする。
中庭の犬たちは私を認識しているのに、姉が気が付かないとは。
オレスト!お前の目を見せてくれ。どんな夢より美しく崇高な顔をしている。お前の前で私は恥ずかしい。私は今や姉の死体に過ぎない。お前が私を見て身震いするのもわかっている。
王の娘であった時、私は美しかったと思う。かつて灯りを消し鏡の前で月の薄い光があたる私の体の白い裸体を見て、処女の震えを感じたことがある。だが、私はすべてを捨てなければならなかった。すべての女性の周りにある銀色のかすみ、月の乳白色のかすみのような恥を私は父のために捨て去ったのだ。
私の震えは気にしないでくれ。
ひとりでやるのか?かわいそうな子だ。
神々が、私を助けてくれるだろう。
行うことができる者は幸いである。行いは、魂が休む寝床のようなものだ。それは、傷であり、火傷であり、膿であり、炎である。
中庭の入り口にオレストの使用人が立っている。
オレストの使用人
口を慎まないとは、彼は気が狂っているのか。息、音、何もかもが私たちのやるべきことを台無しにするかもしれない。
(オレストに)彼女は中で待っている。彼女の侍女たちがあなたを探している。家には男がいない。オレスト!
屋敷の扉に明かりがともり、オレストと使用人が中に招き入れられる。エレクトラは、扉の前を行ったり来たりしている。
彼に斧を渡すことができなかった。この世に神はいないのか。
屋敷の中から、クリテムネストラの悲鳴。
もう一度!
二度目の悲鳴。クリソテミスと侍女たちが松明を持って使用人の家から出てくる。エレクトラは扉を背中にして立っている。
何かあったのだろう。
侍女
男性の入っていく音が聞こえたわ。屋敷の中で人殺しが起こっているのかもしれない。
侍女
ああ!屋敷の扉に人がいるわ。
エレクトラだわ。
侍女
なぜ彼女は喋らないのか?私は人を呼びに行く。
(エレクトラに)なぜ扉を開けてくれないの?
侍女が慌てて戻ってくる。
侍女
エギストが戻ってきた。私たちは部屋に戻った方がいい。彼は中庭を通るだろう。
クリソテミスと侍女たちは使用人の家に戻る。エギストが中庭の入り口に現れる。
エギスト(母の愛人)
おい、灯りを持ってこい。誰もいないのか。
エレクトラは灯りを持ってエギストの前に現れる、
エギスト(母の愛人)
不気味な女。…エレクトラ、お前なのか?誰が私を迎えろと言った?
私が灯りを持ってきてはいけないのか?
エギスト(母の愛人)
オレストのことを教えてくれる者はどこだ?
屋敷の中だ。親切な女主人と一緒に過ごしている。
エギスト(母の愛人)
彼の死を本当に知らせに来たんだな。なぜお前は私と話している?なぜ灯りを持ってうろついているのか?
私は賢くなり、最も強い者に着こうと決めたのだ。あなたの前に明かりを灯そう。
エギスト(母の愛人)
(少しためらう)それでは、扉の所まで。お前はなぜ踊るのか?
エレクトラは松明を持ってエギストの周りを不気味に踊りながら前に進んでいく。
エギスト(母の愛人)
なぜここには光がないのか?そこにいるのは誰なのか?
彼らは直接あなたをお迎えしたいと思っている者たちだ。これまで皆さんをお騒がせしてきた私も、これからは退くべき時は退きますよ。
エギストは屋敷の中に入る。静寂の後、騒音が聞こえてくる。エギストは窓に現れて、カーテンを引き裂く。
エギスト(母の愛人)
人殺しだ。主人を助けろ。誰も聞いていないのか?
エギストは部屋の奥に引きずられて、もう一度窓辺に顔を出す。
アガメムノンが聞いている。
エギスト(母の愛人)
苦しい。
エギストはまた部屋の奥に引きずられる。エレクトラは息をひそめて、屋敷に向かって立っている。使用人の家から女性たちが走ってきて、その中にクリソテミスがいる。
エレクトラ。一緒に行きましょう。家の中に弟がいます。オレストがやったのですよ。喜びの歓声が聞こえる。あなたには聞こえないの?
屋敷の中から、オレストの名が何度も叫ばれる。
あの音楽が聞こえないかって?無限の足音は、地面に響いている。みんなが私を待っている。私が踊りの音頭をとるのを待っているのよ。でも、私はできない。私は体を動かすことができない。
「あの音楽が聞こえないかって?」Ob ich nicht höre?
あなたには聞こえないの?彼らが弟を担いでいる。みんなが泣いている。それが聞こえないの?
黙って踊れ。みんなこちらに来るのだ。私は幸せの重荷を背負っている。そして私はあなたの前で踊る。黙って踊れ。
「黙って踊れ」Schweig, und tanze
エレクトラは踊り始める。彼女は踊り終えると、地面に倒れる。クリソテミスが駆け寄ると、エレクトラは死んでいる。クリソテミスは屋敷の扉まで走って行き、叩く。
オレスト!オレスト!