リゴレット 第2幕
リゴレットの娘ジルダが、マントヴァ公爵の廷臣たちによって誘拐されてしまいます。そのことを知らないマントヴァ公爵はジルダの身を心配し手歌うのが「あの娘の涙が見えるようだ」です。
「あの娘の涙が見えるようだ」Parmi veder de lagrime【歌詞と対訳】
Ella mi fu rapita!
E quando, o ciel?… ne’ brevi
Istanti, prima che il mio presagio interno
Sull’orma corsa ancora mi spingesse!
Schiuso era l’uscio! e la magion deserta!
E dove ora sarà quell’angiol caro?
Colei che prima poté in questo core
Destar la fiamma di costanti affetti?
Colei sì pura, al cui modesto sguardo
Quasi spinto a virtù talor mi credo!
Ella mi fu rapita!
E chi l’ardiva?… ma ne avrò vendetta.
Lo chiede il pianto della mia diletta.
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彼女が私から奪われた!
ああ、いつだ?…一瞬のうちに、
私の中で嫌な予感でも感じれば、
追いかけられたのに!
扉は開いていた!家は閑散としていた!
愛すべき天使はどこにいるのだろう?
心の奥底に(愛情の炎を)芽生えさせた彼女は
絶え間ない愛情の炎を?
彼女は純粋で、控えめな眼差しで、
私を美徳に駆り立てるようであった!
彼女が私から奪われた!
誰がそんなことをしたのか?だが、私は復讐をするぞ。
最愛の人の涙がそれを求めている。
Parmi veder le lagrime
Scorrenti da quel ciglio,
Quando fra il dubbio e l’ansia
Del subito periglio,
Dell’amor nostro memore
Il suo Gualtier chiamò.
Ned ci potea soccorrerti,
Cara fanciulla amata;
Ei che vorria coll’anima
Farti quaggiù beata;
Ei che le sfere agli angeli
Per te non invidiò.
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涙が見えるぞ
あの眉間から流れ落ちる(涙が)
疑問と不安の中で
差し迫った危険の(疑問と不安)
私たちの心のこもった愛の
グァティエルの名前を呼んだだろう。
彼(偽名の公爵本人)はあなたを救えなかった。
愛しい最愛の娘よ、
魂を持つ者(偽名の公爵本人)は
あなたの幸せを望んだのだ。
天上の世界すら
あなたがいればこそ、彼(偽名の公爵本人)はうらやましくはなかった。
【解説】歌の途中から「偽名の彼」として、ジルダの身を心配
「あの娘の涙が見えるようだ」Parmi veder de lagrime に関わりがあるのは、下の二つの歌です。
慕わしい人の名は・・・公爵の偽名、グァティエル・マルデ
マントヴァ公爵はジルダに「グァティエル」と名乗ります。偽名と知らず、その名をいとおしく思うジルダの歌「慕わしい人の名は」です。
Quando fra il dubbio e l’ansia Del subito periglio, Dell’amor nostro memore Il suo Gualtier chiamò.
差し迫った危険の疑問と不安の中で、彼女は私たちの愛を心にとめて、グァティエルの名前を呼んだ。
誘拐されている中で、ジルダは「グァティエル」の名を呼んだだろう、ということです。不安の中で祈った名前が、偽名だなんてショックかも。
歌詞の中で、ジルダを天使のような娘だと言っていますが、そう思うのなら偽名を使ったことに少しは申し訳ないと思えばいいのに!
女心の歌・・・女遊び好き
もう一つは、この歌の誠実さとは違う、マントヴァ公爵の別の面「好色さ」を表現する歌「女心の歌」です。
公爵は、ジルダを心配する誠実さがありつつ、好色な面も併せ持つ人物。悪人というには誠実な面があるので、オペラの「リゴレット」を観たときに複雑な気持ちになります。
彼なりに、心配している
「あの娘の涙が見えるようだ」の面白いところは、歌詞の途中から「私」ではなく、グァティエルの偽名を使った「彼」としてジルダを心配しているところ。
自分に酔っているのか、他人事なのか?本気で心配していたら「彼(偽名の伯爵本人)は心配している」という言葉は出てこない、と思います。この後に登場するジルダの父リゴレットは、娘を救うために必死ですから。
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