フィガロの結婚 第3幕
伯爵夫人の依頼で、スザンナは伯爵に好意があるふりをして、密会してもいいよとほのめかします。その時、人の気配がしてふたり(スザンナと伯爵)は別々に。通りかかったのはフィガロで、スザンナは彼にこう言います。
Taci, senza avvocato
hai già vinta la causa.
(フィガロに)黙って、弁護士なしで
あなたはすでに訴訟に勝ったのよ
スザンナの「あなたはすでに訴訟に勝ったのよ」の言葉を、伯爵は立ち聞きしてしまいました。その言葉を受けて、罠に落ちたのでは?と疑いつつ、それならばこちらも手を打とうと決意する、伯爵のアリアが「もうお前の勝ちだと言ったな…ため息をつきながら」です。
Hai già vinta la causa【歌詞と対訳】
Hai già vinta la causa! Cosa sento!
In qual laccio io cadea? Perfidi! Io voglio…
Di tal modo punirvi… A piacer mio
la sentenza sarà… Ma s’ei pagasse
la vecchia pretendente?
Pagarla! In qual maniera! E poi v’è Antonio,
che a un incognito Figaro ricusa
di dare una nipote in matrimonio.
Coltivando l’orgoglio
di questo mentecatto…
Tutto giova a un raggiro… il colpo è fatto.
あなたはすでに訴訟に勝ったのよだと!どういうことだ!
どんな罠に私は落ちたのだ?忠誠心のない奴らめ!私は…
あいつらを罰したい…私の好きなように
判決を下してやるぞ…だがフィガロが金を支払う場合はどうなる?
老いた求婚者に(金を支払う)
支払う!どうやって!それにアントニオがいるぞ
あいつは素性の知れないフィガロと
自分の姪を結婚させるのに反対してる
(アントニオの)プライドをくすぐってやるか
あのバカの…
計画にとってすべてが好都合…打撃は与えられるぞ
Vedrò mentre io sospiro,
felice un servo mio!
E un ben ch’invan desio,
ei posseder dovrà?
Vedrò per man d’amore
unita a un vile oggetto
chi in me destò un affetto
che per me poi non ha?
私はため息をついて見るのだろうか
私の召使いが幸せになるのを!
私が望んで得られなかった幸せを
あいつが手に入れると言うのか?
私に愛を見るのだろうか
詰まらぬ男と結ばれるのを
私の中に愛情を呼び起こしながら
私に愛情をもっていない彼女が
Ah no, lasciarti in pace,
non vo’ questo contento,
tu non nascesti, audace,
per dare a me tormento,
e forse ancor per ridere
di mia infelicità.
Già la speranza sola
delle vendette mie
quest’anima consola,
e giubilar mi fa.
いや、放っておいて
幸せにしたくない。
あいつらは生まれたのではない、大胆に
私に苦痛を与えるために
そして笑いものにするために
私の不幸を
すでに唯一の望みだ
私の復讐は
この魂は慰められ
私を喜ばせるのだ
Hai già vinta la causa【解説】
伯爵は、フィガロの結婚に出てくるどの登場人物よりも地位が高いにも関わらず、オペラの中では常に負け続けます。原作のボーマルシェは、伯爵の役柄について下のように言っています。
アルマヴィーヴァ伯爵…心が腐敗しても、貴族らしく優雅に礼儀正しく演技すること
上の歌詞はどう見ても心が腐敗していますが、伯爵が過剰に下品にふるまうとオペラ全体が下品になります。「フィガロの結婚」の中で、伯爵が演技面で一番難しいのかもしれませんね。