チェネレントラとは、イタリア語で「灰かぶり(シンデレラ)」の意味です。ロッシーニの軽やかな音楽と魅力的な登場人物によって、物語は進みます。「魔法使い」の代わりに「哲学者(王子様の家庭教師)」が登場。「ガラスの靴」の代わりに「腕輪」を王子に渡して「私を見つけ出して」と言って去ります。チェネレントラの見どころは「悲しみと涙のうちに生まれ」Nacqui all’affanno, al pianto があります。
チェネレントラ、オペラ:人物相関図
チェネレントラ、オペラ:登場人物
アンジェリーナ | 男爵の後妻の連れ子 | メゾソプラノ |
ドン・ラミロ | サレルノの王子 | テノール |
ダンディーニ | 王子の従者 | バリトン |
ドン・マニフィコ | 落ちぶれた男爵 | バス |
クロリンダ | 姉妹 | ソプラノ |
ティスベ | 姉妹 | ソプラノ |
アリドーロ | 哲学者 | バス |
- 原題:La Cenerentola
- 言語:イタリア語
- 作曲:ジョアッキーノ・ロッシーニ
- 台本:ヤコボ・フェレッティ
- 原作:シャルル・ペローの童話「サンドリヨン」
- 初演:1817年1月25日 ローマ ヴァッレ劇場
- 上演時間:2時間40分(第1幕95分 第2幕65分)
チェネレントラ、オペラ:簡単なあらすじ
アンジェリーナ(チェネレントラ)は、母を亡くしたため、義理の父ドン・マニフィコ、マニフィコの娘らから使用人として扱われている。彼女らの家に物乞いが訪ねてくる。マニフィコの娘らは彼を追い払おうとするが、アンジェリーナは彼にパンとコーヒーを与える。物乞いは、ドン・ラミロ王子の家庭教師だった。彼は王子に彼女の家を訪ねるように勧める。王子は本物の愛を見つけるため、従者のふりをしている。アンジェリーナは従者のふりをしたラミロ王子に出会う。
従者のダンディーニが王子のふりをして、アンジェリーナの家にやってくる。ドン・マニフィコ、マニフィコの娘らは、王子の城に向かう。アンジェリーナは一緒に連れていってもらおうとするが、置いていかれてしまう。アンジェリーナが家にいると、王子の家庭教師がやってきて、アンジェリーナを助けてくれる。
美しく身なりを整えたアンジェリーナが王子の城へ訪れる。誰も彼女に気づかない。王子は彼女に一目惚れする。彼女は両腕につけている腕輪をひとつ、彼に渡す。
私を探してください。私は手にブレスレットを付けています。あなたが私を嫌いにならなければ、私たちは一緒にいられるでしょう。
彼女は城を出る。王子は彼女を探しに行く。(“Sì, ritrovarla io giuro”)
王子の馬車は彼女の家の近くで故障してしまう。王子の家庭教師が馬車に細工をしたためだった。王子はアンジェリーナの家を訪れ、彼女が使用人として働いている腕にブレスレットを見つける。王子とアンジェリーナは城で結婚式を挙げる。(「悲しみと涙のうちに生まれ」”Nacqui all’affanno… Non più mesta”)
チェネレントラ、オペラ:序曲
チェネレントラの序曲は、ロッシーニのオペラ「ガゼッタ(新聞)」(La gazzetta)からの転用ですが、ロッシーニ・クレッシェンドが効果的に使われており、心が浮き立つような音楽です。
チェネレントラ、オペラ:第1幕のあらすじ
第1場
ドン・マニフィコの邸宅
ドン・マニフィコ男爵の娘ふたりが陽気に騒ぎ、男爵の亡くなった後妻の連れ子・アンジェリーナ(チェネレントラは、あだ名)は下働きをしている。
昔々あるところに、王様がいました。王様と結婚したい娘が3人。王様は自ら選びました。見た目の美しさに目もくれず、善良な娘を選びました。
「昔あるところに王様が」Una volta c’era un Re
「昔あるところに王様が」Una volta c’era un Re|チェネレントラ
姉妹
チェネレントラ、あなたがいつもの歌う、その陰気な歌をやめてくれる?
昔々あるところに、王様がいました…
屋敷に乞食がやって来る。姉妹が追い払おうとするが、アンジェリーナは食べ物を施す。
乞食(アリドーロ)
(アンジェリーナに)もうすぐあなたに幸運が来ますよ。
また訪問者が。騎士たちが、ドン・ラミロ王子の花嫁選びの舞踏会に招待すると伝える。
騎士ら
王子が花嫁選びのためにあなた方を城に招待します。
姉妹
チェネレントラ、こっちに来て。私の靴を出して。私のネックレスどこよ!着飾って王子を捕まえよう。
「四重唱」Cenerentola vien qua
「チェネレントラ、こっちよ」「チェネレントラ、あっちよ」あちこちに呼ばれて大変だわ。私は留守番になるのに。
乞食(アリドーロ)
姉妹は、浮かれているな。だが、すぐに笑いものになるさ
騎士ら、アリドーロが屋敷から去る。寝間着姿のドン・マニフィコが居間に姿を現す。
娘たち!うるさいぞ。いい夢を見ていたのに、台無しだ!
姉妹
ドン・ラミロ王子が花嫁選びをするんですって。
なんだって!お前たちは王子に選ばれなくては!目を覚まさないと。チェネレントラ。コーヒーを持ってこい!
居間から人が去り、屋敷にドン・ラミロ王子(従者の服を着た)が入ってくる。
誰かいませんか?アリドーロ(さきほどの乞食)がここに来れば、花嫁を見つけられると言ったのだが。
アンジェリーナがコーヒーを持って居間を通りかかる。見知らぬ人に驚いて、コーヒーを落とす。
(彼女に気品を感じるな。)
(なぜか、胸のときめきを感じるわ。)
男爵のお嬢さんを探しているのですが。あなたは何者なのです?
あちらの部屋にいます。もうすぐ来ますわ。私の素性はよくわからないのです。母が再婚し、私は連れ子として家に入りました。私は男爵と血のつながりはなく、男爵の娘(姉妹)とは母が同じです。
(なぜか、この娘に惹かれてしまうな。)
姉妹が、チェネレントラ(アンジェリーナ)を呼ぶ声が聞こえる。
呼ばれているので。さようなら、旦那様。
アンジェリーナが去り、ドン・ラミロは彼女の美しさに驚いている。
(彼女は美しい顔をしているのに、どうして粗末な服を着ているのか?よいアイデアだったな。従者に変装したことで、女性の本当の姿が見える。ダンディーニが王子のふりをしている間に、本心を見抜こう。)
お待たせして申し訳ない。娘たちは何をしているんだ!
王子はもうすぐ到着します。(変な人だな。)
騎士たちを引き連れて、王子に変装したダンディーニがやってきた。
四月に飛ぶ蜜蜂のように、様々な花(女性)を愛でてきました。ですが、まだ見つけていないのです。本当に美しい女性を。
「四月に飛ぶ蜜蜂のように」Come un’ape ne’ giorni d’aprile
「四月の日々に飛ぶ蜜蜂のように」Come un’ape ne’ giorni d’aprile|チェネレントラ
アンジェリーナが、人々が集まる居間に入ってくる。
私を見ている人がひとりいるわ。
(アンジェリーナを見て)胸がときめく。
それでは、お嬢さん方。城に向かいましょう。
居間から人が去り、アンジェリーナとドン・マニフィコの会話。影から、ドン・ラミロとダンディーニが見ている。
旦那様、お願いです。王子様の城に少しだけ連れて行って下さい。
下品な申し出をするな。杖でぶちのめすぞ。
王子とダンディーニ
おやめなさい。
いえいえ、無礼な召使いですから。
アリドーロ(序盤で乞食のふりをした男・今回は正装)が居間に入ってくる。
アリドーロ(哲学者)
ここに戸籍がある。マニフィコには、3人の娘がいるはずだ。
3番目の娘は死にました!!
救いを求めるアンジェリーナ、怒るドン・ラミロ、ダンディーニ、脅すドン・マニフィコ、落ち着けと言うアリドーロがそれぞれ主張。
こんなことやってられない!私は王子だ。城に帰るぞ。
ダンディーニがマニフィコを連れて立ち去り、皆が続く。ひとり残ったアンジェリーナも部屋を去る。
アリドーロとアンジェリーナ。
アリドーロ(哲学者)
娘よ、娘よ。
あなたは私を娘と呼んでくれるのね。男爵は私を娘ではないと言うのに。
アリドーロ(哲学者)
王子の舞踏会に行くのだ。望みを強く持ちなさい。
深い神秘に支配された天の玉座から、神はご覧になっている。運命は変化し、純真さが勝利するのだ。
「深い神秘に支配された天の」Là del ciel nell’arcano profondo
ドン・マニフィコの屋敷に、アンジェリーナのための馬車が到着する。
第2場
王子の城の一室
ダンディーニ(王子のふり)が姉妹を引き連れ登場。ドン・ラミロ(王子)、ドン・マニフィコ(男爵)も一緒だ。
ドン・マニフィコよ。お前はワインに詳しく、酒豪でもある。ワインの管理人に任命しよう。今すぐに酒蔵に行ってくれ。
ありがたきお言葉!(娘たちに)お前たちが王子の心を掴んでいるから、素晴らしい職を任命されたのだ。
ドン・マニフィコは酒蔵に行く。
(ダンディーニに)あの娘たちの心根を探ってくれ。
(王子に)あの姉妹は、頭が空っぽですよ。
ドン・ラミロが去る。その場に残った、ダンディーニと姉妹。
それでは、あなた方のお相手をしましょうか。
姉妹は「私の方が若い」「小娘なんて相手にしないで」とお互いをけなし合う。
(少し怒って)私を引き裂くつもりですか!
ダンディーニは立ち去り、姉妹は言い争って別れる。
第3場
城の大広間
騎士たちに囲まれて、ドン・マニフィコは酒を飲んでいる。
騎士たち
この方は、30の酒樽を味わった。酒豪ぶりに感心され、王子は長官に任命した。酒蔵の指揮官となられたのだ。
長官!指揮官!なんて嬉しいのだ。さあ、私の言うことを書いてくれ。ワインに水を混ぜたら、しばり首だ!
「長官、指揮官」Intendente! Direttor!
酔っ払って、ドン・マニフィコと騎士たちが退場。
ドン・ラミロとダンディーニが会話。
静かに、静かに。姉妹の心の内は、どうだ?
あのふたりは、高慢と気まぐれと虚栄心の混合物ですよ。
姉妹が王子を探して現れる。
姉妹と同時に結婚することはできませんよ。そうですね、もうひとりは私の友人に嫁いでもらいましょう。あの男です。
姉妹
いやよ。あの者は従者でしょう。
私は愛情が深いですよ。妻を大切にします。
姉妹はドン・ラミロを拒絶し、王子とダンディーニはこっそり笑っている。その場に、客人を迎える騎士たちの合唱が聞こえてくる。
アリドーロ(哲学者)
正体不明のご婦人が到着しました。顔にヴェールを被っています。
何者なのか、皆が戸惑う中、ヴェールをつけたアンジェリーナが登場。
騎士たち
ヴェールに包まれていても、心が奪われる。
「六重唱」Ah! se velata ancor
気まぐれな運命を幸運だとは思えません。
この声を聞くと、なぜか自分が大きくなったような気がする。
ヴェールの下から、輝く瞳が見える。どうか顔を見せて欲しい。
姉妹
なんなの?この女!
アンジェリーナがヴェールを取る。全員がアンジェリーナを見つめる。
アリドーロ(哲学者)
皆が戸惑っている。私の作戦は成功だな。
その場にいなかった、ドン・マニフィコが広間に入って来る。
一体何事だ。チェネレントラにそっくりではないか!
こうやって立っていても仕方がない。皆で食卓を囲もうではないか。(王子のふりをしているから、今日は4人分食べてやるぞ。)
全員
夢を見ているようだ。ゆったりと穏やかだが、地面の下では何かが起こっている。恐れを感じる。夢が消えてしまうかもしれないと。
「夢を見ているようだ」Mi par d’essere sognando
チェネレントラ、オペラ:第2幕のあらすじ
第1場
王子の城の一室
ドン・マニフィコが娘たちを連れて部屋に入ってくる。
あの女の正体は何者だ!なぜ、チェネレントラにそっくりなのか!お前たち、分かっているな。チェネレントラの遺産を私は使い込んだのだ。明るみになったら、大変なことになる。
姉妹
私たちがついているわ。絶対に王子の心を掴んでみせる!
娘のうちどちらでもいい。妃の座を射止めるのだ。貧乏な暮らしも、贅沢な暮らしに早変わりだ。
「娘のうちどちらでも」Sia qualunque delle figlie
「娘のうちどちらでも」Sia qualunque delle figlie|チェネレントラ
ドン・マニフィコが立ち去り、姉妹は牽制しながら去る。
王子のドン・ラミロがひとり。
突然現れた女性は、今朝出会ったあの娘にそっくりだったな。どうやら、ダンディーニも見知らぬ女性に恋をしたようだ。
彼らが来る。私は隠れよう。
ドン・ラミロが隠れたところに、アンジェリーナとダンディーニが来る。
逃げないで下さい。私は愛をささやいてはいけないのですか。
私は別の方が好きなのです。お許し下さい。あなたの従者を愛しています。
(姿を現して)なんて嬉しい。
アリドーロ(哲学者)
(隠れてみていた)私の思惑通りだな。
私と一緒になってくれるのだな。
アンジェリーナは、ドン・ラミロに腕輪の片割れを渡す。
慌てないで。私を知り、私を探して下さい。右手に腕輪を身につけています。その時にあなたが嫌でなければ、一緒になりましょう。
アンジェリーナは去る。
これはどういうことか?
私が王子の役を演じる必要がなくなったのです。
アリドーロ(哲学者)
心の赴くままに行動なさいませ。
(ダンディーニに)まずは、あの姉妹を城から追い出してくれ。そして、馬車の用意だ。
彼女を見つけ出すと誓うぞ。愛が私を突き動かすのだ。
「必ず彼女を見つけ出す」Sì, ritrovarla io giuro
「必ず彼女を見つけ出す」Sì, ritrovarla io giuro|チェネレントラ
ドン・ラミロが出て行く。
アリドーロ(哲学者)
暗闇で、馬車をドン・マニフィコの屋敷の前で横転させよう。そうすれば、目的は達成できる。
アリドーロが去り、ダンディーニを追いかけて、ドン・マニフィコがやって来る。
急がせて申し訳ないが、ふたりの娘のどちらになさいますか。
ああ、もう決まっていますよ。極秘なのです。あなたに教えてもいいですよ。実は、ちょっと奇妙な話でね。(もったいぶる)
(まさか、王子は私と結婚したいのか?)
重大な秘密をお教えしましょう。私が王子であるというのは、冗談ですよ。本物の王子が戻られて、私は従者の仕事に戻りました。
本物の王子に説明を求める。
ダンディーニは「早く帰れ」と言い、ドン・マニフィコは「帰らない」と粘る。
第2場
ドン・マニフィコの邸宅
アンジェリーナはいつもの服で部屋の掃除をしている。
昔々あるところに、王様がいました。王様と結婚したい娘が3人。王様は自ら選びました。見た目の美しさに目もくれず、善良な娘を選びました。
(腕輪を眺めて)あなたの片割れは、素敵な方の元にあるわ。
ドン・マニフィコと姉妹が屋敷に戻ってきた。天気が悪くなり始め、落雷が聞こえる。
言いつけた仕事はやったか。それにしても、突然現れたあの女にそっくりだな。
姉妹
あんたの背中を蹴飛ばしたくなるわ。
なんてひどい。でも、私の心には従者の方がいるのよ。
アンジェリーナは夕食の支度を言いつけられて、去る。屋敷の外から、馬車が横転した音。
申し訳ない。王子の馬車が横転して…これはどういうことだ?
お前は!それなら、王子はどこだ。従者が王子だったのか。
申し訳ない。
お気になさらず、王子様。チェネレントラ。王子様に椅子を用意しろ。
アンジェリーナがダンディーニに豪華な椅子を用意する。
愚か者。王子様はこちらの方だ。
(ドン・ラミロを見て)あなたが王子だったのね。
(アンジェリーナを見て)腕輪だ。彼女だったのか。
皆が混乱する中、ドン・ラミロはアンジェリーナを屋敷から連れ出す。ダンディーニとドン・マニフィコも追いかける。屋敷に残った姉妹のもとに、アリドーロがやってくる。
アリドーロ(哲学者)
アンジェリーナは妃になるのだ。
お前たち姉妹は、乞食に扮した私を追い払い、アンジェリーナは施しをした。お前たちの父は、負債がある。不幸の道を進むか、彼女に謝罪するかだ。
姉妹のうち、ひとりは激怒し、もうひとりは「謝罪しても死ぬわけではない」と受け入れる。
第3場
城の大広間
花で飾られた広間に、着飾った人々が集まっている。
灰にまみれた日々が、花に囲まれた玉座に変わるなんて。
お后様。
あなたの娘とは呼んでくれないのですか。
高慢な者にそのようなことを言っても…
王子様。悲しみの日々は消え去りました。玉座に上がりますが、それよりも気高い心でありたいのです。彼らを許すことが私の復讐です。
苦しみと悲しみに生まれ、耐えてきました。私の運命は変わったのです。
「悲しみと涙のうちに生まれ」Nacqui all’affanno, al pianto
「悲しみと涙のうちに生まれ」Nacqui all’affanno, al pianto|チェネレントラ
人々
あなたこそ玉座に相応しい。
父や花婿、友人。もうひとりで歌うことはないのね。
騎士たち
すべてが変わり、ため息をつくのは終わりだ。