ヴェルディの「運命の力」は、過酷な運命に翻弄される公爵の娘レオノーラと複雑な出自を持つアルヴァーロ、復讐心に燃えるレオノーラの兄カルロという、3人の運命が悲劇的に描かれているオペラです。初演版では絶望のあまりアルヴァーロが自殺して幕を閉じましたが、改訂版では、初演の結末のままだとあまりに暗い内容になってしまうため、結末を変えてオペラが作られました。運命の力の見どころは、序曲「天使の中の聖母」La Vergine degli Angeli「平和を神よ」Pace, pace, mio Dio!「天使に抱かれた君よ」O tu che seno agli angeliなどがあります。
運命の力、オペラ:人物相関図
運命の力、オペラ:登場人物
ドンナ・レオノーラ | 侯爵の娘 | ソプラノ |
ドン・アルヴァーロ | インカ帝国の末裔 | テノール |
ドン・カルロ | レオノーラの兄 | バリトン |
グァルディアーノ神父 | 修道院長 | バス |
プレツィオジッラ | ジプシー女 | メゾソプラノ |
メリトーネ | 修道士 | バリトン |
- 原題:La Forza del Destino
- 言語:イタリア語
- 作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
- 台本:初版:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ
- 改訂版:アントーニオ・ギスランツォーニ
- 原作:リヴァス侯ドン・アンヘル・デ・サーヴェドラの戯曲「ドン・アルヴァーロ、または運命の力」、フリードリヒ・フォン・シラーの戯曲「ヴァレンシュタインの陣営」
- 初演:1862年11月10日サンクトペテルブルグ マリインスキー劇場
- 改訂版:1869年2月27日 ミラノ スカラ座
- 上演時間:2時間45分(第1幕25分 第2幕50分 第3幕55分 第4幕35分)
運命の力、オペラ:簡単なあらすじ
レオノーラとアルヴァーロは愛し合っている。しかし、彼女の父親は二人の交際を反対している。駆け落ちしようとしたとき、アルヴァーロの銃が暴発し、彼女の父親は死んでしまう。逃避行の最中、ふたりは離れ離れになってしまう。
レオノーラの兄カルロはふたりを探し回る。絶望したレオノーラは修道院の洞窟に引きこもる。アルヴァーロは身分を隠して戦場へ。そこでカルロとアルヴァーロは友人になる。カルロはアルヴァーロが妹の恋人であることを知る。二人は決闘するが、仲間に止められる。
5年後、カルロは修道院でアルヴァーロを見つけ、再び決闘の申し入れをする。アルヴァーロはやむなく引き受ける。カルロは重傷を負う。アルヴァーロは助けを求めに洞窟へ行くと、そこにはレオノーラがいた。レオノーラは瀕死のカルロのもとに駆けつける。レオノーラはカルロによって刺殺される。
運命の力、オペラ:序曲
「運命の力」の序曲は、ヴェルディの最後の序曲として有名であり、単独で演奏される機会が多いです。金管が主音を3度鳴らして始まります。オペラの中で流れる複数の音楽がうまく使用され、作品全体の流れを聞くことができます。ヴェルディの「運命の力」以降のオペラ(ドン・カルロ以降)では、序曲は使用されなくなり、前奏曲もアイーダだけになります。
ナブッコ | 序曲 |
マクベス | 前奏曲 |
リゴレット | 前奏曲 |
トロヴァトーレ | なし |
椿姫 | 前奏曲 |
シモン・ボッカネグラ | 初版・前奏曲 改訂版・なし |
仮面舞踏会 | 前奏曲 |
運命の力 | 序曲 |
ドン・カルロ | なし |
アイーダ | 前奏曲 |
オテロ | なし |
ファルスタフ | なし |
運命の力、オペラ:第1幕のあらすじ
スペインのセビリア、侯爵の屋敷
夜、レオノーラの部屋。カラトラーヴァ侯爵が娘のレオノーラに挨拶に来る。部屋の奥には、女中がひとり控えている。
父(カラトラーヴァ侯爵)
おやすみ。まだ窓が開いているな。
侯爵は窓を閉じる。
(心苦しい。)お父さん。
父(カラトラーヴァ侯爵)
なぜ悲しそうにしている?田舎の澄んだ空気は、お前の心に平和を与えたのだよ。お前は自分にふさわしくない人物から逃れたのだ。私に未来を託しなさい。お前を愛している父を信じなさい。
(後悔しそう。)お父さん。
レオノーラは泣いて父の胸に飛び込む。おやすみの挨拶をして、侯爵が部屋を出ていく。泣いているレオノーラのもとに、女中が近づく。
女中(クルラ)
侯爵様が明日までここにいるのでは、と心配しました。(窓を開ける。)準備を整えて出発しましょう。
愛しいお父さん。お父さんは私の望みを嫌がるのでしょうね。ここを去ると決めたのに、決心がつかない。
先ほどのお父さんの言葉は私の心に短剣のように刺さった。あのままお父さんがここに残っていたら、真実を言ったかもしれない。
女中(クルラ)
(働くのをやめて)そうすれば、明日には、アルヴァーロ様は血の中にいるでしょう。セビリアの囚人になり、その後は絞首台へ。
それもこれも、彼が愛してはくれない人を愛したからです。
私が彼を愛していないですって?私がどれだけ彼を愛しているのかをあなたは知っているでしょう。彼のために、故郷、家族、父を捨てるのよ。
私は自分の生まれ育った場所を離れて、巡礼者であり孤児になる。どうしようもない運命が私を見知らぬ岸辺へと運んでいく。
「私を放浪の孤児にしようと」Me, pellegrina ed orfana
女中(クルラ)
手伝ってください。急いで準備をしましょう。
もし彼が来なかったら?遅いわね。もう真夜中よ。
女中(クルラ)
馬の踏みつける音です。
彼だわ!
レオノーラがバルコニーへ駆けよる。アルヴァーロが、窓を開けていたバルコニーから部屋に入る。
永遠に、私の天使よ。天が私たちを結び付け、宇宙が私たちの抱擁を喜んでいる。
「二重唱」Ah, per sempre, o mio bell’angiol
アルヴァーロ。
何があなたを動揺させているのか?
長い間、あなたの屋敷には千の障害があり、私が入ることを妨げていた。だが、純粋で神聖な愛の魔法には、何も逆らえないのだ。
(女中クルラに)バルコニーから彼女の服を投げてくれ。
(女中クルラに)やめて。
このような牢獄は出ていこう。
どうしたらいいのかわからない。
用意した馬はすでに待ち、祭壇には司祭が待っている。太陽、インディオの神、私の王家の血筋の主が、世界を輝きで満たすとき、新郎新婦になるのだ。
明日に…。明日に出発します。もう一度私の父に会いたいのです。あなたは私を愛していて、私の決断に反対しませんよね。私もあなたを愛しています。愛しています!
全てを理解しました。私が苦しみましょう。無理な結婚は、私たちに死をもたらします。
私はあなたのもの。最後まであなたについていきます。あなたに従います。私たちの運命を分けることはできません。
二人がバルコニーから外に出ようとすると、部屋の外から物音が響く。
女中(クルラ)
階段を上がる音です。
(アルヴァーロに)あなたは身を隠してください。
(銃を抜き)いいえ、あなたを守ります。
武器をしまってください。私の父に向けるのですか?
いいえ、自分に向けるのです。
恐ろしい。
カラトラーヴァ侯爵が剣を持ち、ふたりの従者を連れて入る。
父(カラトラーヴァ侯爵)
誘惑者よ!悪名高い娘よ!
お父さん。
父(カラトラーヴァ侯爵)
父という者は、ここにいない。
私ひとりの罪です。私に復讐してください。
父(カラトラーヴァ侯爵)
お前の行動は、忌まわしい出自がやったことだとわかっている。
(怒って)侯爵!(銃を抜いて)動く者がいれば、災いになる。
(アルヴァーロに駆け寄り)何をするの?
あなたの娘は天使のように純粋だ。私が罪深いのです。私の人生を終わらせてください。
父(カラトラーヴァ侯爵)
私の手で死ぬだと。死刑執行人の手で命を消してやろう。
私は無力です。
アルヴァーロが銃を投げ捨てると暴発して、侯爵に致命傷を与えた。
(絶望して)不吉な武器よ。
(侯爵に駆け寄り)お父さん。
父(カラトラーヴァ侯爵)
私から離れろ。お前の姿は私の死を汚す。お前たちを呪う。
二人の従者が、侯爵の遺体を運ぶ。アルヴァーロは嘆くレオノーラを連れて出ていく。
この後、レオノーラとアルヴァーロは逃亡の際に離れ離れになる。
運命の力、オペラ:第2幕のあらすじ
第1場
スペインの村、宿屋にある食堂
夕方、食堂の人々は夕食の準備をしている。学生に扮装したドン・カルロや農民がテーブルにつき、酒を飲んでいる。農民たちが躍っている。
農民たち
夕食だ!夕食だ!
(私は妹と誘惑者を無駄に探すのか。)
村長
(カルロに)こちらの学生さんに、食事の祈りをお願いしよう。
男装したレオノーラが二階の宿屋から食堂に入り、兄カルロを見つける。レオノーラと同時に、ラバ曳きの親方(トラブーコ)が食堂に入る。
(私の兄!)
慌ててレオノーラは引き返す。食事が始まり、カルロはラバ曳きの親方に質問する。
(ラバ曳きの親方に)先ほど一緒に入ってきた小柄な人は?
質問途中で、騒々しくジプシー女プレツィオジッラが食堂に入る。
全員
運命を占える女だ。
ジプシー女(プレツィオジッラ)
儲けたい人はいない?兵士になるんだ。ドイツと戦うイタリアへ。
全員
死を。ドイツ人に。
ジプシー女(プレツィオジッラ)
太鼓の響きに、馬の活気、ざわめく戦場、士気は高揚する。戦争万歳。臆病者は忘れられ、勇気ある兵士には名誉と栄光が褒美になる。
(手を出して)私のような学生に、何が予想できる?
ジプシー女(プレツィオジッラ)
あんたはみじめな出来事を起こすだろう。(小声で)私はあんたを信用しない。学生ではないね。何も言わないよ。でも私をだまそうだなんて無理よ。トララララ!
食堂の外から、巡礼者の歌が聞こえる。
巡礼者らの声
永遠の父なる主よ。私たちに憐れみを。
「合唱」Padre Eterno Signor
全員
彼らは何者?
村長
巡礼者だ。
陰から様子を伺う、レオノーラ。
(逃げることができれば。)
全員
巡礼者とともに祈ろう。
(私の血を求める兄から私をお救い下さい。誰も私を救ってくれない。神よ、憐れみを。)
カルロは再びラバ曳きの親方に質問する。
トラブーコ親方に聞きたい。先ほど見かけた小柄な人も巡礼なのか?女性なのか男性なのか?
ラバ曳きの親方(トラブーコ)
私は客が金さえ払えば、ラバに乗せる旅人の素性など気にしないよ。あんたしつこいな。今日は馬屋で寝よう。
トラブーコは食堂を出ていく。
小柄な奴にはひげがないから、口ひげを二本つけてやろう。
全員
いいぞ、いいぞ。
村長
私は旅人を守る立場なので、それには反対だ。それよりも、君は何者だ?
私はペレーダ。学生でもうすぐ博士になるところだ。1年前、友人ヴァルガスが訪ねてきてしばらく休学していた。
これは友人ヴァルガスの話だ。彼の妹は異国の者と恋に落ち、父親を殺した。友人は妹と異国の者に復讐を誓った。私は友人のために心を痛めた。しばらくして、彼は犯人を追ってアメリカに渡った。そして、私ペレーダは学生に戻ったのだ。
「私はペレーダ」Son Pereda
村長
きちんとした人だ。
ジプシー女(プレツィオジッラ)
侯爵は殺された?殺人者は妹を誘拐した?でも私をだまそうだなんて無理よ。トララララ!
夕食が終わり、人々が食堂から出ていく。
第2場
スペイン、山中にある修道院
夜、月明かりの中、男装したレオノーラが修道院にたどり着く。
到着しました。神様、ありがとう。ここが私の終の棲家になるでしょう。私の兄が語っていた恐ろしい話。アルヴァーロは大西洋に向かったと。彼は生きていたのね。あの夜に離れ離れになった。私を置いていくなんて。憐れみの聖母よ。私の罪を許してください。
「憐れみの聖母」Madre, pietosa Vergine
レオノーラは、修道院の呼び鈴を鳴らす。扉の小窓が開き、修道士と会話する。
修道院長をお願いします。
修道士(メリトーネ)
教会は五時に開きます。
クレト神父の紹介です。緊急なのです。
修道士(メリトーネ)
クレト神父が!扉を開けましょう。入りなさい。
できません。
修道士は不審がりながらも、修道院長を呼びにいく。修道院長グァルディアーノ神父が来る。
誰が私を求めるのか?
私です。秘密の…
(修道士に)去りなさい。さあ、私たちだけだ。
私は女性です。地と天に呪われています。私を地獄から救い出してほしいのです。
私のような哀れな修道士に何ができようか。
クレト神父はあなたに手紙を送りましたか?
(驚いて)あなたがレオノーラなのか。さあ、十字架に向かってください。天の声があなたの心を励ますでしょう。
レオノーラは十字架の前にひざまずく。
この地に訪れてから心は静まっています。血を流す父の幻影が見えません。娘を呪う恐ろしい父の声が聞こえません。だから、ここを私の墓としたいのです。ある女性が住んでいたという岩の間に。
ご存じなのですか?
クレト神父がそう言ったのです。
あなたの望みは?
神に身を捧げます。
自分を欺く者に災いあれ。一瞬の気の迷いでしかないのです。若いあなたにはもっと致命的な悔い改めが訪れるでしょう。
あなたの心を不変のものにすることができますか?あなたの恋人は?
彼は、意図せずに私の父を殺しました。
あなたの兄は?
兄は、自分の手で私の死をと誓っています。
女子修道院の聖なる扉があなたには良いでしょう。
女子修道院!いいえ。悔い改めた者を追い出すなら、岩山に入ります。私は山に避難し、森で食べ物を求めます。獣でさえ同情するでしょう。
慈悲深い神よ、哀れな者のための神よ。あなたの意思は満たされるでしょう。誓いは固いですか?
固いです。
あなたが誰であるかは、私だけが知っています。崖の間には窪みがあります。7日おきに、わずかな食べ物を私自身があなたに運びます。
修道士(メリトーネ)が呼ばれる。
(修道士に)ほかの兄弟たちに、祭壇に集まるように伝えなさい。
(レオノーラに)あなたは夜明けに洞窟に入りなさい。その前に、天使の糧で魂を慰めなさい。新しい道を、神は助けてくれるでしょう。
グァルディアーノ神父と修道士たちによって、レオノーラに儀式が行われる。
祝福あれ。嘆く者が崖の間に避難所を求めている。聖なる避難所に誰も近づいてはいけない。
修道士たち
私たちはそれに従います。
(レオノーラに)さあ立つのです。生きている者を見ることはないでしょう。あなたに危険があるときは、洞窟にある鐘を鳴らしてください。
天使の中の聖母様よ、私をマントでお包みください。私を見守り下さい。
「天使の中の聖母」La Vergine degli Angeli
レオノーラは、ひとりで洞窟に入っていく。
運命の力、オペラ:第3幕のあらすじ
第1場
イタリア・ヴェッレトリの野営地
夜の森。ドン・アルヴァーロは身分を偽りスペイン軍の兵士としてイタリアに従軍している。野営地で、兵士たちは賭けをしているが、アルヴァーロは物思いに沈んでいる。
不幸な者の人生は地獄だ。レオノーラ。あの夜を思い出すとつらい。
かつて、私の父は異国からの支配を排除しようと望んだ。そのために、インカ帝国の最後の王女と結婚した。だが、それは無駄だった。私は牢で産まれ、見捨てられて育った。私が生きているのは、王家の血筋だと知られなかったからだ。
「不幸な者の人生は地獄」La vita è inferno all’infelice
天使に抱かれた君よ。あなたはあの世に旅立ってしまった。私は疲れ果て、死に出会うことを求めている。レオノーラ、私を憐れんでくれ。
「天使に抱かれた君よ」O tu che seno agli angeli
「君は天使の腕に抱かれて」O tu che seno agli angeli|運命の力
喧嘩騒ぎの声が聞こえてくる。
(カルロの声)卑怯者!
なんだろう。助けに行こう。
騒動にアルヴァーロは駆けつけ、カルロを助ける。
大丈夫か?ここは野営地なのになぜ?
実は、賭けで口論になった。
そうか。だが、あなたは高貴な方に見えるのに、なぜ賭けを?
私は来たばかりで不慣れなんだ。昨日、将軍の命令でここに来たのだ。君に命を救われたので、友情を結びたい。
互いに偽名を名乗り、握手をする。
アルヴァーロとカルロ
生死にかかわらず友であることを、世界は見るだろう。
「二重唱」Amici in vita e in morte
遠くから戦闘を告げるラッパが聞こえてくる。2人は武器を手に取り、戦場へ走った。
第2場
将校の宿舎
朝。戦で負傷し、意識を失ったアルヴァーロが野営地に運ばれてくる。軍医やカルロが付き添っている。
軍医
胸の傷が思わしくないな。
(意識を取り戻し)ここはどこだ?
友人のそばだ。きっと救って見せる。カラトラーヴァの褒美は君のものだ。
カラトラーヴァ!決して、決していりません。
レオノーラは、カラトラーヴァ侯爵の娘。
(なぜカラトラーヴァの名前におびえるのだ?)
友と話したい。(軍医に)ふたりにしてくれ。
軍医は出ていく。
この厳粛な時に、私に誓ってほしい。私との誓いを果たすことを。
誓おう。
私の胸に鍵がある。(自分の荷物を指差し)鍵のかかった小箱の中に封筒がある。私が死んだとき、それを燃やしてほしい。
誓ってそのようにする。
アルヴァーロは、軍医と兵士によって負傷者用のベッドに運ばれる。ひとり残ったカルロ。
死ぬ。彼のような勇敢な者でも死ぬのか。だが、彼はカストラーヴァの名前に震えていた。もしかして、彼が妹の誘惑者なのか。
(荷物の中から小箱を取り出す。)
これが封筒か。だが、私は誓った。誰も見ていないが、私がその行いを見ている。
(封筒を下に落として)
この中には、私の運命がある。不名誉を洗い流すためにここに来たのに、新たな恥をさらすことになる。誓いは名誉ある者には神聖なのだ。封筒には謎を残しておこう。ほかの証拠があるかも?
(荷物をあさる。)
肖像画がある。彼は何も言わなかった。開けてみよう。ああ、レオノーラだ。彼がアルヴァーロ。彼は生きていて、これから私の手で死ぬ!
「この中に私の運命がある」Urna fatale del mio destino
軍医
助かったぞ。
彼が助かった。私は復讐できる。悪名高い男に復讐できる。レオノーラ、どこに隠れているのか?なんて幸せなことだろうか、剣で二人を地獄に送ることができるなら。
「彼が助かった」Egli è salvo!
第3場
野営地
夜の野営地。多くの屋台が並んでいるが、辺りは静か。
兵士たち
同志たちよ、一息入れよう。野営地を見て回ろう。物音はなく、光もない。同志たちよ、進むのだ。もうすぐ起床の合図が鳴るのが聞こえるだろう。
「合唱」Compagni, sostiamo
夜明け、アルヴァーロがひとり。
平和な時間を味わうこともできない。私の魂は残酷な戦いで疲れている。私が天に平和と忘却を求めても、無駄なことだ。
「心が休まらない」Né gustare m’ è dato un’ ora di quiete
アルヴァーロのもとに、カルロが現れる。
傷は完治したのか?決闘を受けられるか?
誰との決闘?
言伝は届いていないのか?インディオのアルヴァーロ。
卑怯者。裏切ったのか。
封筒は見ていない。だが、肖像画を見た。ここを出て決闘だ。
私があなたの父親を死なせたのではない、運命だった。あの晩、私は怪我を負い、レオノーラを見失った。行方を捜したが、亡くなったとわかった。
いいや、妹は身内の修道院を頼ったのだ。私はそこに駆けつけたが、すでにいなかった。
レオノーラは生きている。ならば、一緒に探そう。
なぜお前と?お前を亡き者にした後、その次は妹だ。あいつは自らの血で償うのだ。
黙れ!私の剣で、レオノーラを狙う暗殺者を消そう。
アルヴァーロとカルロは、剣を抜いて戦う。野営地の警備隊が駆けつけて、二人を引き離す。
(引き離されながら、アルヴァーロに)我が父の死刑執行人め。
私に何が残ったのだろう?慈悲深い神よ。修道院の祭壇へ、戦士は忘却と平和を求めよう。
警備兵によって、ふたりは引き離されていく。
日が昇り、太鼓とトランペットで起床の合図。スペインやイタリアの兵士がテントから出てくる。酒、果物、パンなどの物売りが野営地を回る。ジプシー女のプレツィオジッラが現れる。
ジプシー女(プレツィオジッラ)
占い師のもとにおいで。遠くから来たんだ。謎を解き明かし、未来を見よう。
ラバ曳きだったトラブーコ親方が、兵士相手に物売りになっている。
物売り(トラブーコ)
安く買いたい人はいないかい?はさみに、ピン、石鹸。なんでも売ったり買ったりするぞ。どんな商売でもやるよ。
兵士ら
「宝石があるが、いくらで売れるか?」
「ネックレスは売れるか?」
「お金を出して買ってくれるのか?」
物売り(トラブーコ)
どれもガラクタだな。だが、サービスで買取価格に少し足そう。(取引成立)なんとお得なんだろう。さあ、安く買いたい人はいないかね。
子供を抱えて、物乞いをする農夫たちが現れる。野営地に連れられてきた、不安そうな新兵たちが来る。
ジプシー女(プレツィオジッラ)
泣くんじゃないよ、若者よ。新しい恋人ができるよ。勇気を持て。
女たちと新兵たちが躍っている。慰問に訪れた修道士(メリトーネ)が来る。
修道士(メリトーネ)
なんて騒ぎだ。皆さんの傷を癒すために、私はスペインから来たのに。聖なる日曜日を、兵士たちが冒涜している。けしからん。
イタリア兵士たち
悪名高い修道士!つかまえろ。
スペイン兵士たち
神父様。逃げてください。
修道士のメリトーネが逃げていく。
ジプシー女(プレツィオジッラ)
(修道士を追いかける兵士たちに)彼を行かせてあげなさい。神父と戦争するつもり!それなら、見事だね!太鼓であんたたちを守ってあげよう。
プレツィオジッラが太鼓をたたく真似をする。彼女に続いて、他の人も太鼓をたたく。群衆や兵士たちが彼女を取り囲む。
ジプシー女(プレツィオジッラ)
ラタプラン、ラタプラン、栄光の!兵士の中に熱情が戻ってくる。
勝利のラタプラン、ラタプラン!この音は、勝利の合図。
「ラタプラン」Rataplan
ラタプラン(Rataplan)…フランス語で太鼓の音「ドンドン」を表す
運命の力、オペラ:第4幕のあらすじ
第1場
スペイン、修道院の中庭
木々が植わる中庭。グァルディアーノ神父は、聖書を読みながら厳粛に歩いている。粗末な椀や容器、皿などを持った老若男女の物乞いの群れが入ってくる。修道士のメリトーネが大きな鍋を抱えて庭に来る。
修道士(メリトーネ)
ここは居酒屋なのか!静かにしろ!
乞食の女
もっとくれ。私には子供がたくさんいる。
修道士(メリトーネ)
なぜそのように子だくさんなのか。私のように戒律を守って夜を過ごせば、神は子をたくさん授けることはない。物乞いは繁殖力がすごいな。
慈善事業を行いなさい。
乞食たち
ラファエル神父は、たくさんの施しをしてくれた!
ラファエル神父…アルヴァーロ。名前を隠して修道院にいる。
修道士(メリトーネ)
ああ、彼は8日はこの仕事を引き受けてくれたが、今は部屋にこもっている。私に面倒な仕事を押し付けるなんて。そんな悪党にいい言葉をかけるのか。
乞食たち
天使のようだった。まるで聖人。ラファエル神父は優しかった!
修道士(メリトーネ)
なんだと、出ていけ!
修道士のメリトーネは怒って、乞食たちを中庭から追い出す。
修道士(メリトーネ)
ああ、これ以上我慢できません。
慈善活動をすることで、義務を果たすのです。謙虚になりなさい。ラファエル神父が人々に好まれても、気にしないことです。
修道士(メリトーネ)
私は彼の友人ですが、よく独り言を言っていて少し変です。それに彼はたまに鋭い目つきをしますね。
昨日、冗談で「あなたはムラート(白人と黒人の混血)みたいですね。」と言ったら、外に飛び出て叫んでいました。彼は奇妙な神父です。
世界に幻滅し、ゆるしの苦行をしているのです。徹夜と禁欲により、彼の魂が混乱しているのでしょう。
修道院の門の鐘が鳴る。グァルディアーノ神父は去り、修道士メリトーネが門を開けに行く。
ラファエル神父を。騎士が来たと伝えろ。
修道士(メリトーネ)
なんて横柄な態度。
メリトーネが、ラファエル神父であるアルヴァーロを呼びに行く。
アルヴァーロ、お前が偽善的な装いで世間から身を隠しても、無駄だったのだ。お前の血だけが、私の怒りを洗い流してくれる。
神父の格好をした、アルヴァーロがやってくる。
ドン・カルロ。あなたは生きていたのか?
5年間探して、ついに見つけた。お前の血によってのみ、お前の悪名と罪を洗い流せる。運命の書には、私がお前を罰すると書かれているのだ。
この庵と衣服が告げるだろう。罪を償っているのだと。私は悔い改めており、このままにしておいてほしいのです。
お前は私の名を汚した。お前が裏切り見捨てた妹を私に残すことで。
いいや、私は彼女を愛していた。そしてまだ愛している。もし彼女が私を愛しているなら、望むものはない。
私の怒りは収まらない。武器を手に取れ。
アルヴァーロはカルロにひざまずく。
後悔と涙があなたに語り掛けるでしょう。
その行為でお前の汚れた出自が明らかだな。ムラートの血で汚れている。
(これ以上抑えきれずに)武器を手に取れ。外に出ろ。いや、地獄が勝つことはない。ここを出ていけ。
臆病者め。心がないのか。お前に不名誉を与えよう。
カルロはアルヴァーロを平手打ちする。
運命は決まった。死だ。
互いに武器を手に取り、出ていく。
第2場
洞穴
薄暗くなり、月が見える。レオノーラが洞窟の外に出てくる。
平和よ。私の神よ。残酷な不幸に苦しんでいます。長い年月の間、私の苦しみは深いのです。彼を愛していました。そして今でも彼を愛しています。彼の姿が私の心から奪われることはありません。
「神よ平和を与えたまえ」Pace, pace, mio Dio!
「神よ平和を与えたまえ」Pace, pace, mio Dio!|運命の力
洞窟に戻り、鍵をかける。舞台裏から剣のぶつかり合う音が聞こえる。
(舞台裏から声だけ)私は死ぬ。最後の告解を。魂を救ってくれ。
洞窟の近くにアルヴァーロが現れる。洞窟の扉をノックする。
またもや、血が流れてしまった。ここには隠者がいたはずだ。死にゆく者を慰めてくれ。
(洞窟の中から)できません。
彼女はグァルディアーノ神父に緊急を伝える鐘を鳴らす。アルヴァーロが必死に頼むので、彼女は外に出てくる。
恐れ知らずの方よ、天の怒りから逃れなさい。
女性なのか?レオノーラ。
再び会えるなんて。
離れて。私のこの手は血が滴っている。あそこに死にかけた男が。私は戦いを避けるためにあらゆることをした。修道院で日々を過ごしていた。だが、彼は私を追いかけ、侮辱した。私が彼を殺した。
誰なのですか?
あなたの兄だ。
レオノーラは森に入っていき、舞台裏に行く。
なんと不幸な運命。私を嘲笑しているのだろうか。レオノーラは生きていて再び会えたのに、彼女の兄の血を流してしまった。
舞台裏でレオノーラの悲鳴。
叫び声!何が起こったのか!
兄によって負傷させられたレオノーラが、グァルディアーノ神父に支えられて戻ってくる。
最期の時になっても、兄は私を許さなかった。私の血で恥を討ったのです。
神の復讐よ、呪ってやる。
呪ってはいけない。ご覧なさい。天使が神のもとへ飛び立つのです。
泣いて祈っています。神にあなたの許しを求めます。
私は呪われた者だ。二人の間には血がある。
ひれ伏しなさい。
神にあなたの許しを求めます。
レオノーラ、私は贖われました、天から私は許されたのです!
レオノーラと神父
神を称えなさい。
幸せな今、私はあなたより先に約束の地へ行きます。そこでは、戦争が終わり、愛は聖なるものとなる。
「三重唱」Lieta or poss’io precederti
あなたは私を置いていく。罪のある私が罰せられないなんて。
殉教なのです。彼女を主のもとへ昇天させよう。彼女の死があなたに信仰と憐れみを教えてくださいますように。
天国でお待ちしています。
死んだ。
彼女は神に向かって昇った。