ヴェルディのオペラ「マクベス」は、シェイクスピアの戯曲「マクベス」をオペラ化した作品。魔女、亡霊、幻影など不気味な世界を音楽で表現しています。もともとヴェルディはシェイクスピアの戯曲を好み、オペラの題材として「マクベス」「オテロ」「ファルスタッフ」を手掛けました。また、「リア王」のオペラ化を目指していましたが、断念しています。マクベスの見どころは、マクベス夫人の「急いでいらっしゃい」Nel dì della vittoria… Vieni t’affretta!「夢遊の場」、マクベスの「慈悲、尊敬、愛」Pietà, rispetto, amore です。
マクベス、オペラ:人物相関図
マクベス、オペラ:登場人物
マクベス | スコットランドの貴族・将軍 | バリトン |
レディー・マクベス(マクベス夫人) | マクベスの妻 | ソプラノ |
バンクォー | スコットランドの将軍 | バス |
マクダフ | スコットランドの領主 | テノール |
マルコム | ダンカン王の息子 | テノール |
- 原題:Macbeth
- 言語:イタリア語
- 作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
- 台本:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ、アンドレア・マッフェイ
- 原作:シェイクスピアの悲劇「マクベス」
- 初演:1847年3月14日 フィレンツェ ペルゴラ劇場
- 改訂版 1865年4月21日 パリ リリック劇場
- 上演時間:2時間20分(第1幕50分 第2幕30分 第3幕25分 第4幕35分)
マクベス、オペラ:簡単なあらすじ
マクベスとバンクォーは共に魔女から予言を聞く。それは「マクベスは王になる」と「バンクォーは王の父になる」というものだった。
マクベスとマクベス夫人はスコットランドの王を殺害する。マクベスは王となる。しかし、彼は「バンクォーが王の父になる」を気にし始める。彼はバンクォーとその子供を殺そうとするが、バンクォーだけが殺される。
再び、マクベスは魔女に予言を聞きに行く。予言は3つある。
マクダフに用心せよ。
お前が血まみれで凶暴になれるなら、女から生まれた男はお前に危害を加えないだろう。
バーナムの森がお前に向かって動き出さない限り、無敵である。
マクベスはこの予言を聞くや否や、バンクォーの子孫が現れ、未来の王となる幻影を見た。マクベス夫人は夢遊病になり、罪の意識から死んでしまった。マクベスはマクダフとの戦いに敗れ、死んでしまう。
マクベス、オペラ:第1幕のあらすじ
「マクベス」前奏曲
悲劇的なメロディ。マクベス夫人による「夢遊の場」からの音楽が使われている。
第1場
スコットランド・森の中
稲妻と雷鳴の中、魔女が次々と現れる。
魔女たち
「何をしている?話してみろ。」
「イノシシの喉を切ったところさ。」
「船乗りの妻が私を追い払ったから、船を沈没させてやる。」
マクベスが来る。さすらいの姉妹よ、空中や海の上をさまようのだ。我らは輪になり、陸や海へ行く。
森にマクベスとバンクォー(スコットランドの将軍)が現れる。
こんなに誇らしく美しい日はない。
これほど栄光であった日もない。
ふたりが魔女を見つける。
誰なんだ?さあ、話せ。
魔女たち
「マクベス万歳、グラーミスの領主。」
「マクベス万歳、コーダーの領主。」
「マクベス万歳、スコットランドの王。」
「マクベス万歳」Salve, o Macbetto
マクベスは震える。
(マクベスに小声で)喜びに震えているのか?
(魔女に)私にも未来を言ってくれ。
魔女たち
「マクベスよりさらに偉大になる人よ。」
「マクベスほどではないが、彼より幸せだ。」
「王ではなく、国王の親になる。」
魔女たちが去る。
あなたの息子は王になる。
あなたは息子の前に王になる。
ふたりのもとに伝令が来る。
伝令
マクベス様。国王があなたをコーダーの領主に選びました。
しかし、領主はまだ王を支えているはずだ。
伝令
いいえ、法により処刑台で息絶えました。
(地獄が事実を言ったのか!)
(小声で)二つの予言がもう実現した。三つ目は私に王座を約束した。だが、なぜ髪が逆立つのか。血の考えがどこから出てくるのか。運命が私に与えた王冠に、強欲に手を出すことはない。
(マクベスは王座への期待を込めて誇らしそうだ。だが、地獄の邪悪な魂は真実を言いながら、欺くものだ。そして、私たちに呪いをかけ見捨てていく。)
マクベス、バンクォー、伝令が立ち去り、再び魔女が現れる。
魔女たち
去っていった。魔女の宴をしながら、運命の成就を待とう。マクベスは笑い声をあげ、再び、私たちはお告げを彼に語るのだ。
第2場
マクベスの居城・広間
マクベス夫人が手紙を手にしている。
「勝利の日に私は魔女らに会い、話を聞いた。国王の伝令を迎えると私はコーダーの領主になり、予言が実現した。同じ預言者から、私は王冠をかぶると予言されている。この秘密は心の中に閉まっておいてくれ。」
あなたは野心的な魂を持ち、偉大さに憧れている。ですが、あなたは邪悪になれるだろうか?
急いでいらっしゃい。大胆な企てを実行するために、私が勇気をあげましょう。預言者はあなたにスコットランドの王座を約束したのよ。贈り物を受け取り、王座に就くのです。
「急いでいらっしゃい」Nel dì della vittoria… Vieni t’affretta!
「急いでいらっしゃい」Nel dì della vittoria… Vieni t’affretta!|マクベス
使用人が部屋に入る。
使用人
今夜、ダンカン王がこちらに来ます。マクベス様も同行中です。
王を迎える準備をするように。…ダンカン王がここに来るとは!夜に!地獄の使者よ、立ち上がれ。王冠を血で染めよ。身動きできない闇の中で、胸を刺す短剣を見えないように隠せ。
マクベス戻る。
妻よ、もうすぐ国王に会えるぞ。
いつお帰りになるのですか?
明日に。
太陽はそのような明日をもたらしません。
どういう意味か?…わかったぞ。失敗したらどうする。
あなたがためらわなければ失敗しません。国王が来たわ。あなたは私と一緒に王を迎えるのです。
王の到着。王は、バンクォー、マクダフ、マルコム、マクベス、マクベス夫人と従者を伴って広間を通過する。
マクベスと使用人。
私の妻に伝えてくれ。夜の杯が用意できたら、鐘を鳴らしてほしいと。
使用人が下がり、マクベスがひとり。
私の前に短剣が。幻影でなければ、私に刀を振らせてくれ。まだ何もしていないのに。血まみれの幻影。私の思いが形になり、事実になる。
(鐘の音)
決まったのだ。鐘の音が私を招く。聞くな、ダンカン。その音色は、あなたを天国か地獄へ呼ぶものだ。
「私の前に短剣が」Mi si affaccia un pugnal!
マクベスが国王のいる部屋に入る。部屋の外に、マクベス夫人。
ついに王は眠りについた。なんと嘆いているのだろう。フクロウは、悲惨な別れに応えている。
(国王の部屋からマクベスの声)誰がいるのか?
王が目覚めたらどうするの?致命的な一撃の前に。
マクベスが短剣を手にしたまま戻る。
すべてが終わった。宿命の女よ。何かのつぶやきが聞こえなかったか?
フクロウの鳴き声を聞きました。あとは、あなたの声では?
私だと?隣の部屋では誰が寝ている?
国王の息子よ。
恐ろしい。なんて光景だ。
目をそらすのよ。
私の胸に声が聞こえた。「お前は眠りを永遠に殺した。眠れぬ夜だけがある。」
別の声は聞こえませんか?「うぬぼれているが勇気に欠ける。たじろいで、このままやめるのか。」
復讐だ。怒りの天使が私に雷を落とすだろう。ダンカン王の聖なる美徳が聞こえる。
(彼の魂は震えておののいている。誰が彼を不屈の者というのだろう。)短剣を部屋に戻してちょうだい。衛兵に罪を着せましょう。
部屋には入れない。
短剣をください。
夫人はマクベスの手から短剣を奪い、部屋に入る。城の扉を叩く音。
全ての音が私を怯えさせる。(自分の手を見て)この手は!海でさえ、この手を洗い流すことはできない。
マクベス夫人が戻る。
私の手も汚れてしまった。少し水を振りかければ、きれいになるわ。
(扉を叩く音)聞こえるか?音が倍になった。
ここを出ましょう。この殺人のすべての疑惑を拭い去らなければならない。正気に戻って。マクベス。くだらない恐怖に負けないように。
夫人がマクベスを引きずるように部屋を出ていく。
国王を起こしに来た、マクダフ(スコットランドの領主)とバンクォー(スコットランドの将軍)。
恐ろしい。部屋を見てくれ。犯罪だ。裏切りだ!
騒ぎを聞きつけ人々が集まる。
何の騒ぎですか?
ダンカン王が殺害された。
全員
偉大な神よ。すべての心を見通す神よ。闇のヴェールを引き裂くために、助言を求めます。あなたが最初の殺人者にしたように、罪人の顔に刻印をつけてください。
「六重唱」O gran Dio, che ne’ cuori penetri
カインの刻印…キリスト教の最初の殺人である、兄カインが弟アベルを殺害した後、カインは僻地に送られる。追放された土地の者に殺されないかと恐れたカインに対し、ヤハウェはカインの額に刻印して「カインを殺した者には、7倍の復讐がある」と土地の者に伝えた。
マクベス、オペラ:第2幕のあらすじ
第1場
マクベスの居城の一室
物思いにふけるマクベス、夫の様子を見ているマクベス夫人。
なぜ私から逃げるの?取り返しはつきません。ダンカンの息子は突然イギリスに渡り、親殺しと呼ばれています。王座は空になり、あなたに託されました。
だが、精霊の女たちはバンクォーが王の父になると予言した。彼の息子が君臨するのか?ダンカンはそのために死んだのか?
バンクォーと彼の息子が生きているのは事実ですが…
血が流されなければいけない。それは今夜だ。バンクォー。お前は来世で王国を開け。
マクベスは部屋を出ていく。
空を永遠に駆け巡る日の光が薄らいで、光は消えていく。待ち望む夜が、傷つける罪の手をヴェールで隠しておくれ。
「日の光が薄らいで」La luce langue, il faro spegnesi
「日の光が薄らいで」La luce langue!|マクベス
第2場
公園、遠くにマクベスの城
刺客たちが、バンクォーと息子を待ち伏せしている。
刺客たち
「誰がここに集まれと?」
「マクベスだ」
「バンクォーを殺すために」
「彼は息子と一緒にここを通る」
太陽が消えた。夜は悪意と流血を支配する。沈黙の中で彼らを待とう。震えよ、バンクォー。お前の側にはナイフの先端があるだろう。
「合唱」Sparve il sol… la notte or regni
刺客たちが隠れる。バンクォーと息子のフリーアンスが公園に近づく。
気をつけろ、息子よ。この暗闇から出よう。悪い予感と疑惑を感じる。暗くなり続ける影が空から降ってくるようだ。同じような夜にダンカン王は殺された。
(刺客たちに襲われる。)
逃げろ、息子よ。だまし討ちだ。
「気をつけろ、息子よ」Studia il passo, o mio figlio
息子のフリーアンスは、刺客たちに追われながら逃げていく。
第3場
マクベスの居城・大広間
マクベスの国王就任を祝う宴。
人々
万歳、国王。万歳、王妃。
皆様を歓迎します。私の妻に乾杯の音頭をとってもらいましょう。
選りすぐりのワインで杯を満たしましょう。喜びが生まれ、痛みは消えるでしょう。憎しみや軽蔑は飛んでいき、ここには愛だけです。
「乾杯の歌」Si colmi il calice di vino eletto
人々
喜びが生まれ、痛みは消えるでしょう。
大広間の脇の扉から、刺客のひとりが現れる。マクベスが刺客に近づく。
お前の顔に血がついている。
刺客
バンクォーの血です。
本当か。だが、息子は?
刺客
逃げました。バンクォーは死にました。
マクベスが去れと合図し、刺客は去る。マクベスに夫人が声をかける。
宴の喜びから誰があなたを遠ざけるの?
バンクォーが欠けている。あの勇者こそ宴を締めくくるのにふさわしいのに。
来ると言っていたのに、来ていませんね。
彼の代わりに私が座ろう。
マクベスが席に座りに行くが、その場所にはバンクォーの亡霊が座ってる。
誰がやったのだ?
全員
何を言っているのでしょうか?
(亡霊に)言うな。私がやったと言うな。血まみれの髪を私に振り回すな。
全員
マクベスがおかしい。私たちは去りましょう。
お待ちを。束の間の病気です。(マクベスに小声で)あなたは男でしょう?
私はそうだ。もし魂を脅かすほどの恐ろしいものを見たら…そこに、見えないのか?
(亡霊に)髪を振り乱す者よ、墓は殺されたものを救うことができるのか?
亡霊が消える。
(マクベスに小声で)あなたは正気ではない。
この目は彼を見た。
(強い口調で)座りなさい。客人は悲しんでいる。喜びを目覚めさせるのです。
皆さん、お許しください。幸せな乾杯の音を再び響かせてください。バンクォーが遠くにいることを忘れてはいけない。
選りすぐりのワインで杯を満たしましょう。喜びが生まれ、痛みは消えるでしょう。憎しみや軽蔑は飛んでいき、ここには愛だけです。バンクォーのために!戦士の花であり、スコットランドの英雄に。
亡霊が再び現れる。
去れ、深淵の魂よ!大地に飲み込まれてしまえ。骨が燃えてしまえ。
全員
恐ろしい!
私は勇敢だ。お前は虎やライオンになり、私に襲いかかるがいい。マクベスの震えを見ることはないだろう。去れ、去るがいい。亡霊よ。
亡霊が消える。
(マクベスへ小声で)みっともないわよ。
亡霊は私の血を求めている。そしてそうなるだろう。未来のヴェールを魔女に破ってもらおう。
愚かな魂よ!あなたの恐れが亡霊を生み出した。犯罪は終わった。死んだ者は戻れない。
恐るべき謎よ。この土地を去ろう。今は呪われた手によって支配され、罪を犯した者だけが住むことができる。
全員
恐るべき謎。彼は亡霊と話していた。泥棒の巣窟にこの地はなってしまった。
マクベス、オペラ:第3幕のあらすじ
洞窟の中
暗い洞窟の中、中央には沸騰した大釜が置いてある。
魔女たち
「3回、猫が狂喜乱舞して鳴く。」
「3回、ヤツガシラがうめき声をあげる。」
「3回、ヤマアラシが嵐の中で鳴く。」
今がその時だ。大釜をかき混ぜろ。
「合唱」Tre volte miagola la gatta in fregola
バレエ・魔女や悪魔たちの踊り
マクベスが洞窟に入ってくる。
(洞窟の入り口で部下に)呼びかけるまで、黙って待て。
(魔女に)何をしている?不思議な女たちよ。
魔女
(厳粛に)名もない仕事だよ。
地獄のような行為を、私はあなたにお願いしたい。自分の運命を知るために、天と地が古代の戦争を再開するとしてもだ。
魔女
未知の世界から、聞くことができるだろう。誰の主人に従うのか、我々の主人か。
召喚してくれ。もしそれらが未来の暗い謎を解明してくれるなら。
魔女
彷徨える魂よ、昇天せよ、降臨せよ。
稲妻が光り、兜をかぶった者の幻影が地面から浮かび上がる。
幻影その1
マクダフ(スコットランドの領主)には気をつけろ。
疑っていたが彼に注意しよう。一言だけ…
幻影が消える。雷が鳴り、血まみれの子供の幻影が出てくる。
幻影その2
血みどろで、獰猛でいられるなら、女から生まれた者がお前を傷つけることはない。
ふたりめの幻影が消える。
マクダフよ。お前の命は許そう。いいや、死んでくれ。お前の死は、二重の兜となるだろう。
稲妻と落雷。王冠をかぶった苗木を持つ子供の幻影。
稲妻、雷は何なのか?王の冠をかぶった子供だと!
幻影その3
バーナムの森がお前に向かって動き出さない限り、無敵である。
幻影が消える。
幸せな予言だ。魔法の力でも森が動いたことはない。(魔女に)さて、バンクォーの子孫が私の王座につくかどうかを教えてくれ。
魔女
探るな。
知りたいのだ。私の剣がお前たちを襲うことになる。
洞窟の中央に置いてあった大釜が地下に消える。不気味な音が響く。
魔女たち
現れよ、そして霧のように消えよ。
8人の国王が次々と通過していく。最後に鏡を手にしたバンクォーが現れる。
(最初の王に)消えろ、王家の亡霊。バンクォーを思い出す。(第2の王に)怖い幻影よ。まだ他にもいるのか?
3人、4人、5人。恐ろしい。最後の者の手には鏡が輝いている。その鏡の中に、新しい王が映し出されるのだな。バンクォー、ああ、恐ろしい光景だ。彼らを指差し、私を笑うのか?
死ね、運命の子孫よ!
マクベスは剣を抜き幻影に突進し、そして立ち止まる。
彼らにはまだ命がないのか。
(魔女に)彼らは生きるのだろうか?
魔女たち
彼らは生きる。
私の負けだ。
マクベス、気絶。
魔女たち
気絶した!精霊よ、気絶した王の心を取り戻せ。
気絶したマクベスの周りを精霊たちが回り、魔女が歌う。
魔女たち
オンディーヌにシルフよ、白い翼で顔に風を送れ。
「合唱」Ondine e Silfidi
精霊や魔女が消える。
洞窟で気絶したマクベス。
私はどこにいるのだ?私は何世紀にも渡って呪われるのか。
伝令
王妃です。
(洞窟に入り)やっと見つけたわ。何をしていたの?
再び魔女に質問したのだ。
それでなんと言われたの?
マクダフ(スコットランドの領主)には気をつけろ。血みどろで、獰猛でいられるなら、女から生まれた者がお前を傷つけることはない。バーナムの森がお前に向かって動き出さない限り、無敵である。
だが、バンクォーの系譜が現れた。そして君臨するのだ。
嘘よ。不当な者には死と駆除を!
そうだ。死だ。マクダフの要塞を燃やそう。妻と子供も。
バンクォーの息子を探し出し、死なせましょう。
マクベスとマクベス夫人
死と復讐の時だ。轟音が響き渡り、全世界に反響する。運命は明白に記されている。犯罪が実行されなければならない。なぜなら血でこの計画が始まったからだ。
マクベス、オペラ:第4幕のあらすじ
第1場
スコットランド国境の荒野
荒野。遠くにはバーナムの森がある。スコットランドの難民たち、その中にマクダフ(スコットランドの領主)もいる。
スコットランドの難民たち
虐げられた祖国よ。愛しい名前、母の名を持つこともできない。すべての子供は墓に入ってしまった。新しく太陽が昇るたびに叫び声が上がり天が悲しむのだ。虐げられた祖国よ、哀しみのたび、死者のために鳴る鐘の音が聞こえるだろう。
「合唱」Patria oppressa!
息子たちよ、私の息子たちよ、その暴君によって全員殺され、子供たちとと共に不幸な母親までも。
父の手は、邪悪な暗殺者からお前たちを守る盾がなかった。亡命し隠れていた私を、子供たちは虚しく呼んだのだ。あの暴君を私の目の前に連れてきてくれ。
「父の手は」Ah, la paterna mano
イギリス兵を率いた、マルコム(ダンカン国王の息子)が現れる。
マルコムは、ダンカン王の死後すぐにイギリスに亡命した。
マルコム(故ダンカン王の息子)
ここはどこだ?あの森は?
全員
バーナムの森です。
マルコム(故ダンカン王の息子)
一人一人が枝を持ってきて、枝の前にして隠れるのだ。
(マクダフに)復讐を慰めにしなさい。
マルコムとマクダフは、剣を手に取る。
第2場
マクベスの居城・広間
夜、医者と侍女が部屋の片隅に隠れている。
医者
もう二晩も無駄に監視したぞ。
侍女
マクベス夫人は現れます。
マクベス夫人がランプを手に現れる。
医者
なんと大きく目を開いているのか!
侍女
それでも彼女は見えていないのです。
マクベス夫人はランプを置いて、手をこすり、何かを消す動作をしている。
医者
なぜ手をこすっているのか?
侍女
洗っているつもりなのでしょう。
シミが残っている…去れと言っているのだ、呪われよ。
その時が来た。震えているの、入る勇気がないの?こんなに臆病な戦士がいるなんて。恥ずかしいわ。さあ、早く。
あの老人(ダンカン王)からこんなにたくさんの血が出ることを誰が想像できただろうか。
「夢遊の場」Una macchia è qui tuttora
(自分の手を見て)この手をどうやって洗えばいいのかわからなくなってしまうのでしょうか。
夜になったわ。さあ行って。彼らを追い払って。バンクォーは死んだ。誰も墓から起き上がれない。
やってしまったことは元通りにはならない。行きましょう。マクベス。青白い顔色に気が付かれないように。
医者と侍女
神よ、彼女を憐れんでください。
第3場
マクベスの居城・一室
マクベスがひとり。
邪悪な者め、イングランドと手を組むとは。
予言ではこう言っていた。「血みどろで、獰猛でいられるなら、女から生まれた者がお前を傷つけることはない。」
慈悲、尊敬、愛。私が白髪になる時期にそのような慰めが花開くことはないだろう。私の王家の墓石には、優しい言葉を願おうとも罵りの言葉だけ。それが弔歌となるだろう。
「慈悲、尊敬、愛」Pietà, rispetto, amore
部屋に侍女が駆け込んでくる。
侍女
王妃様(マクベス夫人)がお亡くなりに!
(無関心と軽蔑で)命か。どうでもいい。愚かな者のくだらぬことだ。
侍女が立ち去り、兵士たちからの報告が入る。
兵士たち
バーナムの森が動いています。
(驚き)失望した。地獄の予言よ。武器を手に取れ、死か栄光か!
兵士たち
武器を!死か栄光か!
ラッパの音。丘や森に囲まれた広大な平原が現れる。イギリス兵がいて、それぞれが木の枝を持ってゆっくりと前進する。
第4場
戦場
マクベスはマクダフに追われている。
私の子供を殺した者よ、お前のところに来たぞ。
去れ。女性から生まれた者は私を殺せない。
私は生まれたのではなく、引き裂かれたのだ。私は母の胎内から引きずり出された。
なんだと。
剣を振り回し、必死に戦って舞台から去る。マルコムはイギリス兵を率いて、その後ろにマクベス軍の捕虜がいる。
マルコム(故ダンカン王の息子)
どこへ逃げ去ったのか?あの簒奪者は。
そこで私によって貫かれています。
(片膝をついて)国王万歳。
国王万歳。マクベス、彼はどこにいる?簒奪者はどこにいる?勝利の神に一息で打ちのめされた。
(マクダフに)勇敢な英雄は彼だ。裏切り者を消滅させた。彼は国と国王を救った。名誉と栄光を!
「合唱・国王万歳」Salve, o re!
王に身をゆだねよう。私たちの愛は戻ってきた。夜明けがあなたに平和と栄光を与えますように。
マルコム(故ダンカン王の息子)
私を信じよ、スコットランド。抑圧者は消えた。勝利した我らの喜びを永遠のものとしよう。