マノン・レスコーは、アベ・プレヴォーの小説をオペラ化したプッチーニの作品です。主人公のマノンは、ファム・ファタルの元祖と言われています。男をとりこにする美女マノンと、マノンに運命を翻弄されるデ・グリューの愛の物語です。マノン・レスコーの見どころは「何という美人」Donna non vidi mai、「柔らかなレースに包まれても」In quelle trine morbide、「一人で迷い見捨てられ」Sola, perduta, abbandonataです。
マノン・レスコー、オペラ:人物相関図
マノン・レスコー、オペラ:登場人物
マノン・レスコー, Manon Lescaut | ソプラノ | |
レナート・デ・グリュー, Chevalier Renato des Grieux | 学生 | テノール |
レスコー, Lescaut | マノンの兄 | バリトン |
ジェロンテ, Geronte di Ravoir | 財務大臣 | バス |
エドモンド, Edmondo | 学生 | テノール |
- 原題:Manon Lescaut
- 言語:イタリア語
- 作曲:ジャコモ・プッチーニ
- 台本:ルッジェーロ・レオンカヴァッロ、マルコ・プラーガ、ドメーニコ・オリーヴァ、ルイージ・イリッカ、ジュゼッペ・ジャコーザ
- 原作:アベ・プレヴォー「シュヴァリエ・デ・テグリューとマノン・レスコーの物語」
- 初演:1893年2月1日、レージョ劇場、トリノ
- 上演時間:2時間5分(第1幕35分 第2幕40分 間奏曲5分 第3幕20分 第4幕25分)
マノン・レスコー、オペラ:簡単なあらすじ
デ・グリューはマノンに一目惚れする。ジェロンテもまた彼女に惹かれる。
僕は今まで彼女のような女性を見たことがない。僕は彼女に、あなたを愛していると伝えたい。
ジェロンテはマノンの誘拐を企む。デ・グリューとマノンは先に逃げ出す。
マノンはデ・グリューとの貧しい生活に耐えられず、ジェロンテと愛人契約を結ぶ。彼女は恵まれた生活を送るが、満たされない。マノンとデ・グリューが再会する。ジェロンテが現れ、彼女を責める。ジェロンテはマノンを訴える。彼女への刑罰は、フランスからアメリカへの国外追放である。マノンとデ・グリューはアメリカの荒野を共にさまよう。
孤独で迷子で見捨てられた私は荒野にいる。すべてが終わった。
マノンはデ・グリューの腕の中で死ぬ。
同じ原作のオペラ・マスネの「マノン」
プッチーニのマノン・レスコーには、同じ原作を使用したオペラがあります。マスネが作曲したオペラ「マノン」です。登場人物や内容が微妙に違います。
マノン・レスコー、オペラ:第1幕のあらすじ
パリ門近くの大きな広場
人々が行き交う。
エドモンド
穏やかな夜はそよ風と星々を連れてくる。親愛なる夜は詩人や恋人のためのものだ。
「穏やかな夜よ」Ave, sera gentile
学生たち
泥棒や酔っ払いのための夜でもある。
エドモンド
女の子たちが来るぞ。彼女たちを口説こうぜ。
デ・グリューが現れる。
エドモンド
お前もナンパに加われよ。それとも、すでに惚れた女がいるのか?
恋愛?そんなもの知らないよ。でも、お前たちを喜ばせることならできる。
彼は女の子たちに近づく。
あなたたちの中に金髪の女の子はいませんか?僕が恋に落ちるように、僕が君を崇拝できるように、君の美しい顔を見せてください。
「あなた方の中に」Tra voi, belle
学生たちが笑う。女の子たちは怒って去る。馬車が宿屋の前に止まる。マノン、レスコー、ジェロンテが馬車から降りる。
彼女は本当に美しい。
レスコーとジェロンテは宿屋に入る。
あなたの名前を教えてくれますか?
私の名前はマノン・レスコーです。
あなたに惹かれています。いつ出発する予定ですか?
明日の明け方に修道院へ向かいます。
あなたのような美しい人が修道院に行くなんて!あなたには違う運命があるのです。どうかまたあなたに会う機会を与えてください。
暗くなったら、ここで会いましょう。
彼女は宿屋に入る。
これまでに彼女のような女性を見たことがない。彼女にあなたを愛していますと伝えたい。彼女はこう言った。私の名前は、マノン・レスコーです。彼女の薫り高い言葉が、僕の魂の中で漂っている。
「何という美人」Donna non vidi mai
「何という美人」Donna non vidi mai|マノン・レスコー
学生たちが彼をからかう。彼は怒って去る。レスコーとジェロンテが宿から出てくる。
ジェロンテ
マノンは本当に修道院に行くのか?
それは私たちの父親が決めたことです。あなたは旅行でここに来ているのですか?
ジェロンテ
仕事で来ている。私は政府のために税金を徴収する仕事をしている。
(彼は金づるになりそうだ。)一緒に飲みましょう。
ジェロンテ
いいとも。いや用事を思い出した。
レスコーが立ち去る。ジェロンテは宿屋の主人を探す。
ジェロンテ
(宿屋の主人に)宿の裏にこっそり馬車を用意してくれ。それは、男と少女がパリに向かうためのものだ。
エドモンドが立ち聞きする。デ・グリューが戻る。
エドモンド
お前の美しい花が、老人に奪われそうだぞ。
彼女を助けたい。協力してくれ。
マノンが現れる。
あなたが私にどうしても会いたいと言うので、私は約束を守るためにここに来ました。
「二重唱」Vedete? Io son fedele
僕はあなたを愛しています。あなたの美しさは、あなたに輝く未来をもたらすでしょう。しかし今、金持ちの老人があなたを誘拐しようとしています。
学生たちがレスコーに酒を勧める。
エドモンド
馬車が来たぞ。
あなたが私を誘拐するのですか?
愛があなたを連れ去るのです。一緒に逃げよう。
彼らは馬車に向かう。ジェロンテが酔っ払っているレスコーを見る。
ジェロンテ
(彼の妹を誘拐しよう。)マノンはどこだ?
エドモンド
彼女は学生と一緒に去りました。
ジェロンテ
君の妹が誘拐された。彼らを追いかけよう。
レスコーは学生たちを見て、しばらく考える。
今から追いかけても仕方がない。どうせ彼らの行き先はパリだろう。学生の金はすぐに尽きる。マノンは貧乏に耐えられない。そのときに彼女は、あなたの申し出を受け入れるでしょう。
マノン・レスコー、オペラ:第2幕のあらすじ
ジェロンテの屋敷、マノンの部屋
美容師がマノンの髪を整えている。レスコーが現れる。
お前が宿屋から逃げたとき、私は希望を失わなかった。お前は彼と貧しく暮らしていた。デ・グリューは立派な青年だ。だが、彼は金を持っていない。お前が彼を捨てて、この宮殿を手に入れたのも当然だ。
彼にさよならも言わずに去ってしまったので心配だわ。
柔らかいレースに包まれた黄金のベッドには沈黙がある。冷たい沈黙が私を凍りつかせる。でも、もう慣れた。情熱的な唇と腕を失う代わりに、私には別のものがある。
「柔らかなレースに包まれても」In quelle trine morbide
「柔らかなレースに包まれても」In quelle trine morbide|マノン・レスコー
彼はお前を取り戻すために、金を稼ごうとしている。私は彼に賭博のやり方を教えた。
彼が私のために賭博をするなんて!
彼は賭けにのめり込み、自分の狂気に気づかずに生きている。
彼女は思索にふけって鏡を見るが、自分の姿に夢中になる。
このドレスは私に似合っているかしら?
お前は綺麗だよ。
音楽家が現れ、歌い始める。
ジェロンテからの贈り物でしょう。この財布で彼女にお礼をして。
芸術を馬鹿にするな。
レスコーは彼女から受け取った財布を自分のものにする。音楽家が去る。
退屈だわ。
ジェロンテと男たちが部屋に入る。
(若い女が退屈しているのは危険だ。デ・グリューの家に行こう。)
レスコーは去る。マノンがダンス教師と踊る。ジェロンテや男たちが鑑賞する。
ジェロンテ
私たちの集まりに後で来ておくれ。
ジェロンテが去る。彼女は手鏡で自分の顔を見る。
ああ、私が最も美しい!
デ・グリューが現れる。
あなた、あなたね、愛しい人。私の計り知れない愛よ。
「二重唱」Tu, tù, amore
僕は暗い日々を過ごしてきた。
そんなふうに私を見ないで。この部屋を見て!私はお金持ちよ。この部屋のものは、あなたのものでもあるのよ。私はあなたに許しを求める。信じて。私はあなたのものよ。
君に負けたよ。再び君に恋をしてしまう。
ジェロンテが部屋に入る。マノンは叫び声を上げる。
ジェロンテ
お前が私を待たせた理由がわかったよ。私がお前に与えた本物の愛の証をお前は覚えているはずだ。
マノンは手鏡を手に取って、彼に向ける。
愛ですって?手鏡であなたの顔を見なさい。それから、私たちを見なさいよ!
ジェロンテ
私は自分の義務を分かっている。すぐに立ち去ろう。(脅すように)さようなら。そしてもうすぐだ。
ジェロンテは去る。
僕たちはここにいてはいけない。
こんなに素敵なものを置いて去ることはできない!
君の狂った考えが、君に僕を裏切らせるんだ。僕はあなたの奴隷で、犠牲者だ。悪名まみれで、泥まみれ。狂ったギャンブラーだ。君は僕をどうするつもりだ?
「マノン、お前の愚かさが」Ah, manon, mi tradisce il tuo folle pensiero
私は忠実で善良であるように誓います。
レスコーが部屋に駆け込んでくる。
ジェロンテがお前を訴えた!兵たちがここに来るぞ。
さあ、行こう。
私には宝石が必要よ!
何をしている?兵たちが家を取り囲んだぞ。
ジェロンテと兵士たちが現れる。怯えた彼女は隠し持った宝石をばらまく。ジェロンテが彼女を見てあざ笑う。デ・グリューが剣を抜こうとするが、レスコーに止められる。
君が捕まったら、誰がマノンを助けるのか?
オペラ「マノン・レスコー」間奏曲・Intermezzo
マノン・レスコーの間奏曲は、プッチーニが学生時代に作曲した曲を元にしています。吹奏楽でよく演奏されます。
Puccini – Crisantemi 管弦四重奏曲「菊」YouTube動画
ムーティによるマノン・レスコーの間奏曲
Puccini – Manon Lescaut – Intermezzo YouTube動画
マノン・レスコー、オペラ:第3幕のあらすじ
ル・アーブル港のそばの広場
夜明け前の港。港の近くには、マノンが囚われている牢屋がある。デ・グリューとレスコーは周囲を見渡す。
私が買収した兵に交代する時間だ。君はもうすぐマノンに会えるはずだ。彼女は私たちの計画をすでに知っている。私と友人が騒ぎを起こすから、ふたりで逃げ出せ。
デ・グリューが牢屋に近づく。
愛しい人!私を見捨てないで!
銃声が響く。レスコーが走ってくる。
作戦が失敗した!君は逃げてくれ。
ひとりで逃げるなら、ここで死んでもかわない。
私を愛しているなら、逃げて!
レスコーがデ・グリューを連れて行く。夜が明ける。女たちが牢屋から出てくる。
軍曹
出航の準備ができた。女たちを船に乗せろ。
女の名前が次々と呼ばれる。人々が女たちを嘲笑する。
そこにいるマノンという女性は、結婚式の日に貴族の男に誘拐された。彼はすぐに彼女を捨てた。あの青白い青年が彼女の新郎だ。なんと可哀想なことか。
デ・グリューは彼女の側に行く。
これが私の運命です。あなたは自分の家に戻って下さい。たぶん、私はあなたに充分に愛を与えなかったかもしれない。それが私の後悔よ。
兵士たちが女たちを船に入れる。デ・グリューは彼女を離さない。
船長
何を騒いでいるのか?
見てください。僕は狂っています。 あなたに泣きながら慈悲を求めます。私を雇ってください。どんな嫌な仕事でも喜んでやります。
「見て下さい、僕は狂っている」Guardate, pazzo son
「見て下さい、僕は狂っている」Guardate, pazzo son|マノン・レスコー
船長
お前を船に乗せる。
マノン・レスコー、オペラ:第4幕のあらすじ
ニューオーリンズの荒野
マノンとデ・グリューは荒野をさまよう。
前に進みましょう。もうすぐ夜になる。
彼女が倒れる。
私は諦めるわ。いいえ、ごめんなさい。少し休ませて欲しいだけよ。
彼女が気絶する。
ああ、彼女は熱がある!
あなたは泣いているの?のどの渇きが私を苦しめる。
何もないんだ。乾燥した土地に水はない。
私はここで待つわ。地平線の向こうに行ってきて。よい知らせを持ってきてちょうだい。
彼は何度か彼女を振り返った後、走り出す。
孤独で迷子で見捨てられた私は荒野にいる。私の致命的な美しさが、新たな火種をつけてしまった。すべてが終わる。
「一人寂しく」Sola, perduta, abbandonata
「一人寂しく」Sola, perduta, abbandonata|マノン・レスコー
彼が戻る。
私はもうすぐ死にます。もううまく話せないけれど、これだけはあなたに言えます。あなたを愛しています。
マノン!
私はすでにあなたの声が聞こえない。あなたが愛したかつてのマノンを覚えていますか?私の青春は明るかったかしら?私の罪が忘れ去れても、私の愛が消えることはないでしょう。
マノンが死ぬ。彼は彼女の体の上に気絶する。