ベッリーニによるオペラ「ノルマ」は、19世紀前半にオペラの主流となった「ベル・カント・オペラ」を代表する作品です。ドルイド教徒の巫女長「ノルマ」、ドルイド教徒のいるガリア地方(今のフランス)を占領するローマの将軍「ポリオーネ」、若い巫女「アダルジーザ」の三角関係がもたらした、悲劇のオペラ。ノルマの見どころは、「清らかな女神」Casta Diva、女の友情の二重唱「ご覧なさい、ノルマ・二重唱」Mira, o Normaがあります。
ノルマ、オペラ:人物相関図
ノルマ、オペラ:登場人物
ノルマ | ドルイド教の巫女長 | ソプラノ |
アダルジーザ | 若い巫女 | メゾソプラノ |
ポリオーネ | ローマの将軍 | テノール |
オロヴェーゾ | ドルイド教の長、ノルマの父 | バス |
クロティルデ | ノルマの友人 | ソプラノ |
フラーヴィオ | ポリオーネの友人 | テノール |
- 原題:Norma
- 言語:イタリア語
- 作曲:ヴィンチェンツォ・ベッリーニ
- 台本:フェリーチェ・ロマーニ
- 原作:アレクサンドル・スメ、ルイ・ベルモンテ「ノルマ」
- 初演:1831年12月26日 ミラノ・スカラ座
- 上演時間:2時間40分(第1幕90分 第2幕70分)
ノルマ、オペラ:簡単なあらすじ
ドルイド教の祭司長であるノルマは、敵であるローマの将軍ポリオーネと関係を持ち、二人の子供を密かに育てていた。しかし、ポリオーネは心変わりして、アダルジーザという若い巫女と恋仲になる。
ノルマとアダルジーザはポリオーネの裏切りを知る。アダルジーザは手を引こうとするが、ポリオーネはアダルジーザをあきらめず、神殿に侵入してくる。ノルマはアダルジーザに諦めて立ち去るように言うが、彼はそうしない。ノルマはドルイド教団に自分の罪を告白する。ノルマとポリオーネは罰として火で焼かれる。
ノルマ、オペラ:第1幕のあらすじ
第1場
ガリア地方・ドルイド教徒の森
夜の森、ドルイド教徒の一団が現れる。
ドルイド教徒の長(オロヴェーゾ)
ドルイドの人々よ、あの丘に行くのだ。月が姿を現せば、ノルマは祈りを捧げる。神よ、ノルマに告げよ。ローマの侵略に打ち勝ち、我々が解放されると。
ドルイド教徒の人々
月よ、昇るのだ。ノルマが祭壇に現れるぞ。
ドルイドの一団が去ると、ローマの将軍ポリオーネとその友人が姿を現す。
やっといなくなったな。不気味な森だ。
フラーヴィオ
ノルマがこの森には死があると言っていたな。
やめてくれよ。ノルマの名前を出すな。
フラーヴィオ
ノルマはあなたの愛する人であり、あなたの子供の母親だろ。
いや、私を責めないでくれ。もう違うんだ。神が炎を消したからな。別の女を愛している。今好きなのは、アダルジーザだよ。若い巫女で、純真なんだ。
フラーヴィオ
ノルマの怒りを恐れないのか?
恐ろしいよ。私は恐ろしい夢を見たんだ。今でも震える。
(夢の中で)アダルジーザと私は、ローマでヴィーナスの祭壇の前にいた。幸せに浸っていると、不気味な影が私たちの間を遮った。
アダルジーザはドルイドのマントに包まれ、消え去ってしまった。どこからともなく、不気味な声が!そうやって、ノルマは私に復讐するんだ。
「彼女とともにヴィーナスの祭壇へ」Meco all’altar di Venere
夜の森に鐘が鳴り響く。
ドルイド教徒の人々(の声)
月が昇った。ノルマが現れる。ローマ人を追い払ってくれ。
フラーヴィオ
ドルイド教徒に見つかる前に、逃げよう。
いいや、私は残るぞ。野蛮な者たちめ。自分の力を越えた何かが、私を守ってくれる。その何かは、愛である。愛する彼女(アダルジーザ)のために、ここに残るぞ。この森を焼き、祭壇を壊してやる!
友人の説得で、ポリオーネは去って行く。
ドルイド教徒たちが集まり、儀式をしている。黄金の鎌を持った、ドルイドの巫女長ノルマが現れる。
戦いを求めるのか、神の祭壇の前で。
ドルイド教徒の長(オロヴェーゾ)
我々は、ローマ人によって虐げられています。
戦いを求める人々の声。
戦いの先には、我々の敗北がある。
私は、運命を知っている。いつかローマは滅びる。だが、我々の力によってではない。ローマの傲慢さによって、滅びるのだ。その時まで、我々は待てばよい。
さあ、皆に平和を与える。神聖なるヤドリギを切ろう。
ノルマがヤドリギを切り、月に向かって祈り始める。
清らかな女神(月)よ、神聖な古代の植物を銀色に照らせよ。雲も陰りもなく、あなたの美しい顔(月)を、私たちに見せておくれ。
女神よ、人々の怒れる心を抑えたまえ。この土地に平和を。
「清らかな女神」Casta Diva
儀式は終わりです。神が怒る時は、ローマ人の血を要求し、神殿から私の声が雷鳴のように響くであろう。
ドルイド教徒の長(オロヴェーゾ)と人々
誰も神の怒りから逃れられない。最初に倒されるのは、ローマの将軍だ。
打ち倒そう!私は彼を罰することができます。
(だが、私の心は、彼をどうやって罰すればいいのかわからない。私の最初の真実の愛よ、戻ってきておくれ。全世界に対して、私は彼の弁護人になりましょう。)
「私のもとに戻れ」Ah! bello a me ritorna
儀式が終わり、人々がいなくなる。アダルジーザが祭壇に近づく。
神聖な森が静かだわ。ため息をついてしまう。ここで、運命のローマ人が、私に神と神殿を裏切らせた。これで最後にしよう、いいえ、むなしい望みだわ。
抗いがたい力でここに来てしまった。彼に心を捕らわれている。神よ、私をお守り下さい。
「聖なる森は静まり」Sgombra è la sacra selva
アダルジーザのもとに、ポリオーネが現れる。
泣いているのか。
神殿に行きます。神に祈りを捧げると誓ったのですから。
行くがいい、冷たい人よ。確かに神に誓ったかも知れないが、お前の心は私にすでに委ねているではないか。
私は祭壇を汚してしまった。私は無垢であったのに、もはやそうではない。神は私の罪を見ている。
ローマでお前にもっと素晴らしい神を見せてやれるぞ。明日の夜明けに、出発する。お前も一緒に来い。
(どうしたらいいの!いつも彼の顔が忘れられない。神よ、この過ちをお許し下さい。)あなたについて行きます。
明日の同じ時間、この場所に来てくれ。
第2場
ノルマの家
ノルマ、友人、二人の子供がいる。
ポリオーネは、ローマに呼び戻されるらしいわ。
クロティルデ
あなたも一緒に出発するのですか?
彼は何も言わないわ。私をここに残して逃げるのか。自分の子供を忘れて去るのか。耐えがたいことだわ。
人が来る。子供たちを隠して。
友人と幼い子供たちが出て行く。アダルジーザがノルマの家を訪問。
アダルジーザ。入りなさい。重大な秘密があると聞いています。
本当です。あなたの目に輝く厳しさを捨ててください。私はあなたに心の内を見せます。
恋をしたのです。気持ちを抑えようとしてきたのですが、無理でした。神聖な森であの方に出会い、一目で魅了されたのです。
(ああ、思い出す。私もかつてそういうことがあったわ。)
彼はこう言いました。「お前の足元に跪かせてくれ」「お前の髪に口づけさせておくれ」
(私も同じような言葉で、彼に心を奪われたわ。)
わかりました。涙をお拭きなさい。あなたが愛する者と結ばれるように取りはからいましょう。教えて、あなたの愛する人は誰なのです?
ガリア人ではありません。ローマの人なのです。あの方です。
遠くにポリオーネがいる。
ポリオーネ!!
ノルマ様、なぜお怒りになるのです?
(アダルジーザに向かって)愚かな女め。何をした。
愚かって、私が?
(ポリオーネに向かって)あなたは震えているわね。誰のために震えているのかしら。
震えるでない、悪党め。彼女は無実で、あなたが悪人なのよ。あなたのために震えろ、私のために、子供らのために、震えなさい。
「三重唱」Oh, non tremare
ノルマ、私に怒りを向けないでくれ。彼女を苦しめないでくれ。天が判断してくれる。誰が一番罪深いかを。さあ、私たちは恋人なのだ。一緒に行こう。
私を放っておいてください。私と裏切り者の間に、海と山がありますように。
(ノルマに)あなたを苦しめるつもりはありませんでした。
神殿から、鐘の音が鳴る。ノルマとアダルジーザが、ポリオーネを見る。
死の音だわ。あなたはもうすぐ死ぬわ。
死の音です。死があなたを待っています。逃げて下さい。
なにが死の音だ。お前たちの神など、打ち倒してやる。
ノルマは出て行けと指差し、ポリオーネは走り去る。
ノルマ、オペラ:第2幕のあらすじ
第1場
ノルマの家
子供たちが寝ている。ノルマが短剣を持って、側に座る。
二人とも寝ているわ。この子らはこれから先、生きてはいけない。この地では罰を受けることになり、ローマに行けば、恥を受けることになる。
愛しい子供は、かつて私の喜びであった。彼らに罪はないのに。いいえ、子供らはポリオーネの子。これが罪なのよ。
(子供を刺そうとする)
無理よ、私の子供たちだわ!
「愛しい子供」Teneri figli
子供が目を覚ます。ノルマは泣きながら子供を抱きしめる。ノルマは友人にアダルジーザを呼びに行かせる。
ノルマ様、お呼びですか。
私は死ぬ決意をしました。あなたに子供たちを託します。
お願いです。子供たちをローマに連れて行って。あなたが私の子供を守って、育てて下さい。私の願いは、子供らが奴隷や下層民にならないことです。
「二重唱」Deh! Con te, li prendi
ノルマ様、子供たちの母でいて下さい。私はこの土地を出て行きません。あなたのために、あの不実な男に会います。彼の心に、ノルマ様への愛が戻るでしょう。
いいえ、そのようなことはしないで。
ご覧なさい、ノルマ様。あなたの膝元にいるお子様を。この子たちのために、私に従って下さい。
「ご覧なさい、ノルマ・二重唱」Mira, o Norma
「ご覧なさい、ノルマ・二重唱」Mira, o Norma|マノン・レスコー
ノルマとアダルジーザの、女の友情の二重唱。
彼はあなたを愛しているわ。それにあなたは?
彼はきっと後悔していますよ。私はかつては彼を愛していましたが、今は違います。
あなたの勝ちよ。私を抱きしめて。私は友情を見つけたわ。
ノルマとアダルジーザ
最後の時まで仲間でいましょう。世界は広く、私たちを匿ってくれる。私たちで運命に立ち向かっていきましょう。
第2場
ドルイド教徒の森
森の外れの寂れた場所。
ドルイド教徒の兵士ら
ポリオーネはローマに戻らず、まだ陣営にいるぞ。喧噪や武器の音がするのがその証拠だ。我々は沈黙の中で、心の準備をしよう。大きな仕事をやってのけるのだ。
ドルイド教徒の長(オロヴェーゾ)
兵士たちよ。よい知らせを持ってきたかったが無理だった。ポリオーネの後任は、どうやら残忍な男のようだ。
ドルイド教徒の兵士ら
ノルマはなんと言っているのです?
ドルイド教徒の長(オロヴェーゾ)
ノルマの心はわからない。我々はローマ人に服従するふりをして、心に怒りを隠すしかない。
第3場
ドルイド教徒の神殿
ひとり神殿にいる、ノルマ。
彼が戻ってくる。幸せな日々が戻ってくるのね。
友人が入ってくる。
クロティルデ
ノルマ様、無駄なことでした。あの男はアダルジーザの言葉に耳を傾けませんでした。今、アダルジーザは神殿に戻っています。
ポリオーネは、アダルジーザを神から誘拐すると誓ったそうです。
思い込みの激しい悪党ね。ローマの血が流れるでしょう。
ノルマは、鐘を3回鳴らす。ドルイド教徒の長オロヴェーゾ、ドルイド教徒、巫女が集まる。
戦いの時が来ました。
人々の士気が高まる中、クロティルデが入ってくる。
クロティルデ
一人のローマ人が神殿に侵入しました。
捕まえられた、ポリオーネ。
(今こそ復讐しよう。)私が刺します。
私を殺せ。誰かと思えば、ノルマか。
ノルマは刺そうとするが、刺せない。
人々
なぜ躊躇するのです?ノルマ様!
私はこの男を調べないといけない。他にも罪を犯しているかもしれない。
人々が立ち去り、ノルマとポリオーネ。
とうとう私の手の中に落ちたわね。あなたの神に、あなたの子供に、誓いなさい。もう二度とアダルジーザに会わないことを。私もあなたに二度と会いません。このまま去って下さい。
いいや、私は臆病者ではない。
私はあなたの子供を殺そうとしたのよ。今ならなんでもできる気がするわ。ローマ人やアダルジーザも。
どうか彼女だけは助けてくれ。慈悲を。さもなくば、私を殺せ、短剣をくれ。
ポリオーネともみ合いになり、ノルマは人を呼ぶ。
皆さん、来て下さい。皆さんの怒りに対し、生け贄を用意しました。神聖な誓いを破り、祖国を裏切った巫女がいます。
ノルマ、お慈悲を。
それは、私です。
あなたが裏切ったこの心が、恐ろしい時間を展開するのです。あなたは無駄に私から逃げようとしました。ローマ人よ、あなたは私と一緒です。
「あなたが裏切った心が」Qual cor tradisti
気がつくのが遅かった。お前は崇高な女性だ。私たちは一緒に死ぬ。最後の言葉は愛しているになるだろう。死ぬ前に私を許してくれ。
ドルイド教徒の長(オロヴェーゾ)
お前の父が言うのだ。嘘だと言ってくれ。神が聞いているが、何も起こらない。それならば、許されたということだろう。神は罰していない。弁明しろ。ノルマ。嘘だと言ってくれ。
(小声で)お父さん、私には子供がいます。あなたの血縁です。どうか守ってやって下さい。
ドルイド教徒の長(オロヴェーゾ)
だめだ。私には無理だ。…不幸な娘よ。子供を守ると約束しよう。
ノルマとポリオーネを生け贄にする準備が始まる。
ノルマ、あなたは私のものだ。そこで永遠の愛が始まる。
さようなら、お父さん。
ドルイド教徒の長(オロヴェーゾ)
娘よ、お前は父に許されたのだ。
ノルマとポリオーネは、火あぶりの場に連れて行かれる。