「オテロ」は、シェイクスピアの悲劇を原作とした、ヴェルディのオペラです。前作アイーダ以降、ヴェルディは農村にて隠遁生活に入っていましたが、台本作家のアリーゴ・ボーイトの熱心な説得により、オペラの作曲を始めました。「オテロ」の見どころは「オテロの死・恐れることはない」Niun mi tema、「柳の歌・歌いながら泣く寂しい荒野で」Piangea cantando nell’erma landa、「クレド」Credo in un Dio crudel です。
オテロ(オテッロ)、オペラ:人物相関図
オテロ(オテッロ)、オペラ:登場人物
オテロ | キプロス島の総督・ムーア人 | テノール |
イアーゴ | 旗手 | バリトン |
デズデーモナ | オテロの妻 | ソプラノ |
エミーリア | イアーゴの妻・デズデーモナの侍女 | メゾソプラノ |
カッシオ | 副官 | テノール |
ロドヴィーコ | ヴェネツィアの大使 | バス |
モンターノ | オテロの前任者・キプロス島の前総督 | バス |
ロデリーゴ | ヴェネツィアの貴族 | テノール |
- 原題:Otello
- 言語:イタリア語
- 作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
- 台本:アリーゴ・ボーイト
- 原作:ウィリアム・シェイクスピアの悲劇「オセロ」
- 初演:1887年2月5日 ミラノ スカラ座
- 上演時間:2時間20分(第1幕35分 第2幕35分 第3幕40分 第4幕30分)
オテロ(オテッロ)、オペラ:簡単なあらすじ
オペラ前の出来事
キプロス島の将軍であるオテロは、カッシオを隊長に任命した。イアーゴはオテロに恨みを持ち、カッシオに嫉妬している。
オペラ
オテロが敵に勝利した夜、民衆は宴会を開いている。イアーゴはカッシオを酔わせ、彼に悪さをさせる。オテロは激怒し、カッシオを隊長から解任します。
オテロを慕うふりをしながらも、あのムーア人が憎い。
イアーゴはオテロに妻の浮気を疑わせる。
俺を見ろ。お前は誰だ?
私はオテロの忠実な妻です。
オテロは嫉妬のあまりにデズデーモナを殺してしまう。イアーゴの策略が暴かれる。オテロは自ら死を選ぶ。
オテロ(オテッロ)、オペラ:第1幕のあらすじ
キプロス島の海辺にある砦
夕暮れ、嵐の中、オテロが率いるヴェネツィアの艦隊とトルコの艦隊が沖合で戦っている。その様子を海辺から見守るキプロスの人たち。
オテロの前任者・前総督(モンターノ)
翼をもつ獅子の旗だ!
あれがオテロ総督の船だ!
落雷と大砲の音が響く。
オテロの前任者・前総督(モンターノ)
沈んだのか…いや、浮かび上がった!
全員
稲妻が光り、雷がとどろく。神よ、嵐の中の光よ。神よ、砂丘に恵みをもたらす者よ。ヴェネツィアの運命を握る船と旗を守りたまえ。
ヴェネツィアの貴族(ロデリーゴ)
(稲妻)帆が破れたぞ!
(荒れる海が、オテロの墓になればいい…)
全員
助かったぞ!小舟を出せ!
水夫や兵士たちとともに、キプロス島の総督オテロが陸に上がる。
喜べ!高慢なイスラム教徒は海に沈んだ。我らと神に栄光あれ。戦いの後、彼らは嵐にやられたのだ。
全員
万歳、オテロ。勝利だ。
祝いの外で、イアーゴとロドリーゴが陰で話している。
(小声で)ロドリーゴ、何を考えている。
ヴェネツィアの貴族(ロデリーゴ)
海に身を投げようかと…
愚かなことをするな。あなたに誓いましょう。デズデーモナがあなたのものになることを。実は、私はオテロを慕うふりをしているが、あのムーア人が大嫌いだ。
カッシオが兵士たちを連れて祝宴に現れる。
私の怒りの理由は、あのカッシオだ。オテロは副官を彼にした。多くの戦功を立てた私こそ、その地位にふさわしいのに。
夜。祝宴のために、焚火がたかれて人々が集まる。嵐がおさまる。イアーゴ、カッシオ、ロデリーゴが酒を飲んでいる。
飲みましょう。キプロス中が祝っている。副官殿。
いや、もう飲まない。
飲みましょう。オテロとデズデーモナの結婚を祝って。
それなら飲もう。あの方は浜辺の花だな。
カッシオの言葉はお世辞。カッシオにはビアンカという恋人がいて、イアーゴもそのことを知っている。
(ロデリーゴに小声で)カッシオの言動を聞くのだ。
彼女の美しさは皆が褒めたたえるだろう。
ヴェネツィアの貴族(ロデリーゴ)
それでいて、慎ましやかだ。
(ロデリーゴに小声で)カッシオはあなたの恋の邪魔になるでしょう。あいつを酔いつぶすのだ。(店員に)さあ、こっちに酒を持ってこい。
店員が酒をたくさん持ってくる。
喉をうるおせ。乾杯だ。
(飲みながら)ブドウでできた本物の飲み物は、思考を曇らせる。
(ロデリーゴに小声で)見ろ。カッシオは酔っぱらった。彼にけんかをふっかけろ。オテロの初夜を邪魔してやれ。
ヴェネツィアの貴族(ロデリーゴ)
(決心して)やってやるぞ。
城からモンターノがやってくる。
オテロの前任者・前総督(モンターノ)
カッシオ副官。砦で兵があなたを待っているぞ。
(酔っぱらってフラフラで)行きます。
オテロの前任者・前総督(モンターノ)
(イアーゴに小声で)なんという醜態。オテロに伝えなければ。
(小声で)彼はいつもこの調子ですよ。
ロデリーゴと人々が、酔っぱらって千鳥足のカッシオを笑う。
誰が私を笑った?
ヴェネツィアの貴族(ロデリーゴ)
酔っ払いを笑っているのさ。
カッシオとロデリーゴがけんかになる。
オテロの前任者・前総督(モンターノ)
やめなさい。カッシオ副官。
邪魔をすると、頭を打ち割るぞ。
オテロの前任者・前総督(モンターノ)
酔っ払いのたわごと…
酔っ払いだと!
カッシオが剣を抜き、モンターノも武器を手にする。
(ロデリーゴに小声で)港に行き、暴動だと叫ぶのだ。騒ぎを広めろ。半鐘も鳴らせ。
(カッシオとモンターノに)ふたりとも、おやめください。
ロドリーゴは走って出ていく。その場から女性たちが逃げ出し、男性たちはふたりを止めようとしている。鐘の音が響く。
松明を持つ人達を引き連れて、オテロがやってくる。
剣をおろしなさい。
カッシオとモンターノが争いをやめる。
一体何事だ。忠実なイアーゴよ、状況を説明してくれ。
わかりません。皆が礼儀正しく楽しんでいたのですが、急に何かが彼らの心を惑わし、武器を手に取り争わせたのです。
カッシオ。どうしてそれほどに自分の役職を忘れてしまったのか?
お慈悲を。どう話してよいかわかりません。
モンターノ…
オテロの前任者・前総督(モンターノ)
(兵士に支えられ)私は傷を負いました。
傷を受けただと。私の血が燃える。怒りのために私の守護天使が逃げていくようだ。
オテロの妻、デズデーモナが現れる。
愛しいデズデーモナの眠りまで妨げるとは!カッシオ、お前はもはや副官ではない。
カッシオは剣を落とし、イアーゴが拾う。カッシオの剣を兵士に渡す。
(私の勝利だ。)
イアーゴ。兵を率いて町に平和を取り戻すように。モンターノ、手当てを受けてください。皆、家に戻るように。私はここに残る。
人々が去り、オテロとデズデーモナ。
暗い夜にすでに喧騒は消えていく。すでに私の怒りは抱擁されることで柔らかくなり、正気に戻った。巨大な怒りの後には、大きな愛がある。
「二重唱」Già nella notte densa
「二重唱」Già nella notte densa|オテロ
私の誇り高き戦士。どれほどの苦しみ、悲しいため息、そして希望が、私たちを甘い抱擁まで導いてくれたのか。
覚えていますか。あなたが身の上話、勇ましい出来事、長くつらい悲しみを話してくれたことを。
戦の震え、突破口を目指しての突撃、つたをよじ登った襲撃。
砂漠、灼熱の大地、あなたの故郷へ私を導き、鎖と奴隷の苦しみを聞きました。
あなたの美しい顔と涙とため息によって、私の話は高められた。
私はあなたの暗いこめかみの間に本物の輝きを見出しました。
あなたは私の不幸を愛し、私はあなたの哀れみを愛した。
私はあなたの不幸を愛し、あなたは私の哀れみを愛した。
死よ来い。幸福の中、私を捕まえてくれ。抱擁の最高の瞬間に。この魂の喜びを、恐れている。未知の未来では、この神聖な瞬間が二度と私に認められないのではと恐れている。
神は苦悩を散らすでしょう。愛は年月を経ても変わりません。
ふたりは抱き合って、砦に戻る。
オテロ(オテッロ)、オペラ:第2幕のあらすじ
庭園に面する城内の一室
ガラスの扉が、庭園と広間をわけている。バルコニーがある。
(バルコニーからカッシオに)ご安心を。私を信じてくれるなら、ビアンカ夫人との狂おしいほどの愛に戻ることができる。自慢の副官として。
おだてないで。
私の言うことを注意して聞いてくれ。デズデーモナ様は我らの将軍のさらに将軍だ。オテロは彼女のために生きている。彼女にお願いするといい。親切な心の持ち主は、あなたのためにとりなしてくれるでしょう。
しかし、どうやって彼女と話せばいい?
あの方には習慣があり、私の妻と木陰で休みます。ここで彼女を待つのです。今こそ救いの道が開かれているのです。さあ、行きなさい。
カッシオが庭園に向かう。
(カッシオを目で追って)行くがいい。お前の目的は見えている。
(木々の間に消えるカッシオ。イアーゴはバルコニーから離れる。)私を創った残酷な神を信じる。怒れるとき、私は神を呼ぶ。人間は不運な運命のおもちゃであると信じる。死は無だ。天国は昔ながらのおとぎ話だ。
(庭にデズデーモナと侍女エミーリアが現れる。カッシオが様子を伺う。)しっかりしろ、カッシオ。絶好の機会だ。
(デズデーモナとカッシオが会話)今ここにオテロが来れば。悪魔よ、私の企てを助けよ。彼女は美しい顔で微笑んでいる。あの微笑みがあれば、オテロを破滅させるには十分だ。
(イアーゴは出ていこうとするが、立ち止まる。)いや、待て。運が私にやってきた。オテロが来た。持ち場につこう。
「クレド」Credo in un Dio crudel
「クレド」Credo in un Dio crudel|オテロ
イアーゴはバルコニーから動かず庭園を見ている。庭園には、デズデーモナとカッシオ。
(オテロに気が付かないふりをして、独り言)困ったな。
(イアーゴに近づく)何を言っているんだ?(庭を見て)私の妻から離れていくのは、カッシオか?
カッシオ?まるであたなに会うことに罪悪感を感じているようでしたが。
あれは確かにカッシオに見えたが。
あなた方のなれそめの頃から、カッシオと知り合いなのですよね。あなたはカッシオを信用していますか?
私の贈り物や手紙を彼女に届けてくれたよ。カッシオは誠実だ。
誠実ですと?
お前は心に何を隠している?
心に何を隠しているですって?
なぜ私の言葉を繰り返す?先ほど「これは困った」とつぶやいたな。何を恐れていたのか?カッシオの名前を出すと顔をしかめる。私を慕っているなら、話してくれ。
(オテロの近くでささやく)嫉妬にご注意を。
なんと惨めな。疑っても無駄だ。疑う前には調査、疑った後には証明。証明された後には…(オテロは自らの最高の掟を持っているのだ。)愛と嫉妬は一緒に散ってしまえ。
遠くから歌声。デズデーモナとキプロス島の女たち、子供たち、水夫たちが庭園にいる。島民らはデズデーモナに結婚祝いの花や贈り物を渡し、演奏し歌っている。
全員
あなたのまなざしの輝くところ、心は火のように燃え上がる。あなたが歩むと、花が舞い散る。ユリとバラの花々の間にある聖なる祭壇に、父も子も妻も歌いに来るのです。
女たち
(花や葉をまきながら)花を地面に、空に巻きましょう。四月の金髪の花嫁を包むように。
空が輝き、風が舞い、花の香りが漂う。
(バルコニーから)その歌は私を陶酔させる。もし彼女が私を騙すなら、神は自らを軽蔑するだろう。
(美しさと愛が一体となった甘美な賛美歌だ。だが、私がお前たちの甘い調べを壊してやる。)
島民たちにお礼の挨拶して、デズデーモナと侍女エミーリア(イアーゴの妻)は広間に入ってくる。
(オテロに)あなたの蔑みを受けて苦しんでいる人の嘆願があります。
誰のことだ?
カッシオです。
あいつだったのか。あの木の下で話していたのは。
そうです。あの方の苦しみに心が動かされました。あなたに許されるのにふさわしい人ですよ。
今はダメだ。こめかみが燃えるようだ。
デズデーモナが、オセロの額を縛るようにハンカチを広げる。
厄介な熱は消えますよ。柔らかい布で私の手があなたを包むなら。
オテロがハンカチを投げ捨てる。
私には必要ない。
侍女エミーリアが床からハンカチを拾い上げる。
なぜ怒るの?もし私が無意識にあなたに罪を犯したなら、優しい言葉で私に許しをください。私は慎ましく穏やかな妻です。ですが、あなたはため息をつき、地面を見ている。私の顔を見てください。愛がいかに語るのかを。
(彼女は私をだましており、私は偽りの愛の企てがわからない。私が年をとったからか、顔に闇を持つからか、巧妙な愛の駆け引きがわからない。彼女は失われ、私は嘲笑される。)
イアーゴが、自分の妻で侍女のエミーリアに近づく。
(小声で)その布をよこせ。
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
(小声で)何を企んでいるの?あなたの邪悪さは知っている。
(小声で)お前はイアーゴの汚れた奴隷だ。
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
恐ろしいことが起こる予感がする。
イアーゴがエミーリアを叩いて、布を奪い取る。
優しい言葉で私に許しをください。
出ていってくれ。一人になりたい。
デズデーモナとエミーリアが広間を去る。イアーゴは去ると見せかけて戻る。オテロは椅子に座り、ひとり苦悩している。
デズデーモナは罪を犯したのか。
部屋の奥にいるイアーゴ。ハンカチを見つめ、自分の上着に入れる。
(この布を、愛の罪の証拠としよう。カッシオの家に隠すのだ。)
恐ろしい考え。私に対して不実を?
(私の毒が効いている。もっと苦しめ。)
(オテロに近づいて)それ以上は考えないでください。
(飛び上がって)去れ。お前は私を十字架に結びつけた。
さらば神聖な思い出よ。さらば、魅惑の心の喜びよ、輝かしい軍隊よ、勝利の神聖な軍旗よ。これがオセロの栄光の終焉だ。
「さらば神聖な思い出よ」Ora e per sempre addio
落ち着いてください。
デズデーモナが不純であるという確かな証拠を見つけよ。目で見える確かな証拠を見つけよ。そうでなければ、お前の頭上に私の怒りの雷が落ちるだろう。
イアーゴの喉を掴んで、倒す。
(起き上がって)神よ私を守りたまえ。私はもはやあなたの旗手ではない。正直に言うことの危険さを、世界に私の証人となってもらいたい。
イアーゴは出ていこうとする。
いや、残れ。お前は正直なのだ。天地にかけて、デズデーモナが誠実であると信じる。そうでないことも信じる。お前が正直だと信じる。不誠実だとも信じる。証拠だ。確信が欲しい。
どのような証拠をお望みでしょうか。抱き合う様子を見るのでしょうか。だが、私には推測があり、それが証拠に導くでしょう。
(オテロに小声で)夜のことでした。カッシオは眠り、私は側にいました。寝言を聞いたのです。「愛しいデズデーモナ。私たちの愛は知られていない。用心しよう」「ムーア人がお前に与えた不幸な運命を呪いたい」と。
「夜のことでした」Era la notte, Cassio dormìa
恐るべき罪だ。
私は夢を話しただけです。ですが、別の手掛かりが。デズデーモナ様がお持ちの、花で縁取りされたヴェールより薄い布をご存じですか?
私が最初の愛の誓いとして、彼女にあげたものだ。
昨日、ハンカチがカッシオの手の中にありました。
神よ、カッシオに幾千の命を与えよ。私の怒りには一つの命では足りない。
(ひざまずいて)冷淡な天に誓おう。ねじれた稲妻にかけて。死と暗闇の海にかけて。怒りとすさまじい勢いにより、挙げた手は輝くだろう。
「二重唱」Si, pel ciel marmoreo giuro!
「二重唱」Si, pel ciel marmoreo giuro!|オテロ
オテロは天に向かって手を挙げる。オテロは立ち上がろうとするが、イアーゴがそれを止める。
まだ立ち上がらないでください。証人は、私が見ている太陽です。オテロ様に、心、腕、魂を捧げましょう。血塗られた行為があなたの意思であっても。
オテロとイアーゴ
冷淡な天に誓おう。ねじれた雷光にかけて。死と闇の海にかけて。怒りとすさまじい勢いで、私が掲げて伸ばしたこの手が輝くように。復讐の神よ。
オテロ(オテッロ)、オペラ:第3幕のあらすじ
城の大広間
オテロとイアーゴのもとに、伝令が来る。
伝令
港の見張り番からの知らせです。ヴェネツィアのガレー船が、大使を乗せてキプロスに向かっています。
わかった。そのまま見張りを続けるように。
伝令、去る。
ここにカッシオを連れてきて、話を聞き出しましょう。あなたは柱に隠れて、彼の様子を観察して下さい。
デズデモーナ様が来ました。あなたは普段通りに。私は去ります。…ハンカチのことをお聞きください。
行け。忘れたかったことだ。
広間にデズデーモナが入ってくる。
ご機嫌麗しく。私の愛しい人。
ありがとう。美しい象牙の手を差し出してくれ。
この手は悲しみと年月を知らないのです。
この手には邪悪さが潜んでいるのではないか。
この手と共に私の心を捧げました。でも、カッシオのことをもう一度言わなくてはなりません。
頭が痛くなってきた。ハンカチで巻いてくれ。
(ハンカチを)はい、どうぞ。
いいや、私があなたに渡したハンカチが欲しいのだ。
それは持っていません。
デズデーモナ。あのハンカチは、強力な魔術師が作った高い魔力のあるものだ。失くしたり、手放したら不幸になるぞ。
あなたは真実を言っているの?
真実だ。もしかして、失くしたのか?
いいえ。探してみます。(上品に)あなたは私を馬鹿にしています。このようにして、私のカッシオの問いかけをそらすのです。あなたの行いはずるいですよ。
ハンカチだ!
カッシオは、あなたの最愛の友人でしょう。許してあげて下さい。
私を見ろ。あなたが何者なのか言え。
オテロ様の忠実な妻です。あなたの中に怒りがあるように見えます。理解できません。私を見て。私の顔と魂をあなたに明らかにしましょう。
デズデーモナ、去れ、去ってくれ。
なぜ泣くのですか?私の何が悪いのでしょうか。
下品な娼婦ではないのか?
神よ!その恐ろしい言葉で表現されるような人間ではありません。
オテロはデズデモーナの手を取り、広間を出ていかせようとする。
償いをしたい。オテロの妻が下品な娼婦だと信じ込んでしまった。(小声で、間違っていたら許してくれ。)
デズデモーナを広間から出して、オテロひとり。
神よ、あなたは、すべての悪を私に投げかけることができたでしょう。私の勝利の栄光は、がれきや嘘になった。そして私は残酷な十字架を背負ったのだ。
「神よ私にあらゆる不幸を与えた」Dio! mi potevi scagliar tutti i mali
証拠だ。証拠が欲しい。
「神よ私にあらゆる不幸を与えた」Dio! mi potevi scagliar tutti i mali|オテロ
オテロのもとに、イアーゴが来る。
カッシオが来ます。あなたは隠れていてください。
オテロは隠れ、カッシオが広間に。
どうぞ。広間は閑散としていますよ。副官殿。
名誉ある名前は、私にはまだ虚しく聞こえるよ。ここで、デズデモーナ様に会えると思ったのだが。取りなしてもらえたのか、彼女と話したい。
(隠れて)妻の名を!
そうだ、あなたを夢中にさせる彼女のことを少し教えてください。(小声で、ビカンカの)彼女のあいまいな眼差しに魅了されているんだろう。勝った者が笑いますからね。
笑わせないでくれ。決闘ならば、真実でしょうね。
ふたりは笑いあう。
(隠れて)邪悪な男が勝利し、その嘲笑が私を殺す!
ちょっと聞いてくれ。
イアーゴはカッシオを、オテロの近くから離れさせる。
君は私の家を知っているな。知られざる手によって、刺繍された布が私の家に…
変ですね。
(隠れて)聞こえない。どこに行けばいいのか。
お持ちですか?
(胸元からハンカチを取り出す)見てください。
なんて素敵なんだ。(オテロは盗み聞きしているな。)美しい騎士の家では、天使は後光とヴェールを忘れていくのでしょう。
イアーゴは、オテロにハンカチが見えるようにする。
(隠れて、ハンカチを見て)破滅と死だ。すべては失われた。愛と悲しみ。私の魂はもはや誰にも動かされない。
(カッシオにハンカチを返して)これは蜘蛛の巣です。あなたの心を悩ませ、焦がれさせ、絡めとり、死なすのです。
「三重唱」Questa è una ragna
(渡されたハンカチを見て)奇跡のような美しさ。白く軽やかで雪のよう。空のヴェールを織り込まれた雲のよう。
(隠れて)裏切りだ。日の下に示された証拠だ。
ヴェネツィアの船の到着を知らせるラッパの音。
ヴェネツィアからの船が到着したようです。オテロ様に会いたくなければ、去ったほうがいいですよ。
カッシオが広間を出ていく。オテロは隠れるのをやめる。
どのようにして、彼女を殺そうか。
笑っているのは見ましたか?ハンカチは?
すべてを見た。夜に、毒を飲ませたい。
窒息させたほうがいい。彼女のベッドで、彼女が罪を犯した場所で。
お前の裁きのほうが、私の心を平和にする。
(低い声で)カッシオは…私がしましょう。
イアーゴ。お前を副官に任命する。
感謝します。大使を歓迎しましょう。疑われないように、デズデモーナ様は使者に姿を見せたほうがよいでしょう。
オテロとイアーゴは広間を出ていく。
キプロス島にいる貴族や高官が広間に集まり、ヴェネツィア大使を歓迎する。
ヴェネツィア大使(ロドヴィーコ)
(オテロに命令書の羊皮紙を手にして)総督への伝令があります。
(イアーゴに)何か新しいことでも?なぜカッシオがいないのか?
大使はオテロに命令書を渡す。オテロは読み始める。
カッシオはオテロ様を怒らせたのです。
彼はすぐに戻ってくると信じています。
(命令書を読みながら)そう思っているのか?
彼は戻ってくるかもしれませんね。
イアーゴ。私もそう思います。私がカッシオに真の愛情を持っているかどうか、あなたは知っているはずです。
悪魔め、黙れ。
ヴェネツィア大使(ロドヴィーコ)
やめなさい。
カッシオを呼ぶのだ。
カッシオが広間に現れる。
私はヴェネツィアに戻ってくるようにと命令された。私の後継者は、カッシオだ。
(地獄と死だ。)
従います。
(デズデモーナに小声で)すすり泣くがいい。(人々に)すべてを新しい総督に託す。
オテロに懇願するように近づいてくるデズデモーナ。
ヴェネツィア大使(ロドヴィーコ)
(気の毒な姿を見て)オテロ、頼むから彼女を慰めてやってくれないと、彼女の心を傷つけることになるよ。
明日、出航する。(デズデモーナを掴んで)ひれ伏せ、泣くがいい。
デズデモーナが倒れる。オセロは羊皮紙を地面に投げ捨てたが、イアーゴはそれを拾い上げて密かに読む。侍女と大使はデズデモーナを助け起こす。
ひれ伏し、泥にまみれ泣いている。かつては幸福に満ちていたが、今や苦しみがある。
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
清らかな方は苦しんでいる。あの方のために涙を流さぬ者はいない。
ヴェネツィアの貴族(ロデリーゴ)
私の前から金色の天使(デズデーモナ)がいなくなってしまう。
運命は決まった。私の無力な手に委ねられた。私を天に昇らせるのは、嵐だろう。
ヴェネツィア大使(ロドヴィーコ)
オテロは怒りで手を震わせている。彼女は清らかな顔を天に向けて泣いている。彼女の涙には哀れみを抱かずにはいられない。
オテロにイアーゴが小声で話しかける。
(計画通り、復讐をするのです。私はカッシオを。)
そうだな。
次にイアーゴが、ロデリーゴ(デズデモーナに恋をしている男)に小声で話しかける。
(夜明けとともに船が出航すれば、カッシオは総督だ。だが、何かが起これば、オテロは残る。剣を取れ。私は行き先とタイミングを吟味するが、あとはあなたにお任せします。弓を引くのだ。)
ヴェネツィアの貴族(ロデリーゴ)
ああ、私はお前に名誉と力を売ってしまった。
(広間の人々に)さあ、みんなここから出て行ってくれ。
広間に残った、オテロとイアーゴ。
この血からどうやって逃れたらいいのかわからない。二人が一緒にいるところを考えると…ハンカチだ。ああ!
オテロは気絶する。外からオテロを称える人々の声。
人々の声
オテロ万歳。ヴェネツィアの獅子に栄光あれ。
(勝ち誇ったように、気絶したオテロを指差して)これが獅子だ。
オテロ(オテッロ)、オペラ:第4幕のあらすじ
デズデーモナの寝室
夜、ランプの灯る部屋に、デズデーモナと侍女のエミーリア。
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
オテロ様は落ち着いていましたか?
そう思う。彼は命じたわ。横になって彼を待つように。エミーリア。私のベッドに白い花嫁衣裳を広げて。もし私があなたより先に死んでしまったらそのヴェールで私を埋めてちょうだい。
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
そのような考えはお捨てください。
私の母に哀れな使用人がいたの。彼女はある男を愛していたけれど捨てられてしまった。彼女は「柳の歌」を歌っていたわ。
髪を梳かしてちょうだい。「歌いながら泣いていた荒野で、悲しくて泣いている。柳、柳、柳。」可愛そうに。この歌はこう終わるの。「彼は自らの栄光のために生まれ、私は愛するために生まれた。」
(エミーリアに)嘆きの声が聞こえる。静かに。誰か戸を叩いている?
「柳の歌」Piangea cantando nell’erma landa
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
風でしょう。
「彼を愛し、死ぬために。歌いましょう。柳、柳、柳。」
まつげが燃えるよう。涙の予兆だわ。おやすみなさい。エミーリア、さようなら。
ひとりで、祈りを捧げる。
慈愛に満ちたマリア様。妻や乙女から選ばれし者。祝福されし者より生まれたイエスよ、祝福あれ。あなたを慕い、あなたにひれ伏す者ために祈りたまえ。我らのために祈りたまえ。いかなる時も、死の時も。アヴェマリア。…死の時も。
「アヴェ・マリア」Ave Maria
オテロが隠し扉から部屋に入る。寝ているデズデーモナにオテロが三度口づけして、デズデーモナが目覚める。
そこにいるのは誰かしら?オテロ様?
夜の祈りは終わったか?犯した罪を思い出したなら、祈るがいい。お前の心まで殺したくない。
私を殺すというの?
そうだ。お前の罪を考えよ。
私の罪は愛したこと。私はあなたを愛したために死ぬのですか。
お前はカッシオを愛している。
カッシオを愛していません。彼を呼んでください。話してくれます。
カッシオは永遠に何も言えない。
死んだのですか?おしまいだわ。彼は欺かれたのね。
あいつのために泣くのか?
オテロ様は…私を殺すことはない。
デズデーモナの首を絞める。
墓のように静かだ。
侍女のエミーリアが扉を叩く。
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
扉を開けて下さい!大変です。カッシオがロデリーゴを殺しました。
カッシオはどうなった?
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
生きています。
ベッドからデズデーモナがうめき声を出す。
不当にも…殺されます。罪なく死ぬのです。
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
誰がやったのですか!
誰でもないの。私自身よ。…罪なく死ぬ。さようなら。
私が殺した。カッシオの情婦だった。夫のイアーゴに聞いてみろ。
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
愚かな。イアーゴを信じたのですか!
否定するのか。
オテロがエミーリアに掴みかかる。
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
私はあなたを恐れません。誰か!来てください。オテロ様がデズデーモナ様を殺した!
人々が部屋に駆けつける。
イアーゴ、カッシオ、ロドヴィーコ
何の騒ぎだ?(デズデーモナを見て)恐ろしい!
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
(イアーゴに)この卑劣な殺人者に反証しなさい。デズデーモナ様が不実だと思っていたの?話しなさい!
そう信じていたのだ。
かつて私が彼女に与えたハンカチを、彼女はカッシオに渡した。
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
神様!
黙れ。
侍女・イアーゴの妻(エミーリア)
いいえ!この人が、デズデーモナ様のハンカチを私から力ずくで奪ったのです。
そして、私が自分の家でそのハンカチを見つけたのか。
前総督のモンターノが入る。
オテロの前任者・前総督(モンターノ)
死にゆくロデリーゴが、イアーゴの企みをすべて明らかにした。
弁明しろ!
嫌だ。
イアーゴが逃げ出し、兵士たちが追いかけて出ていく。
ヴェネツィア大使(ロドヴィーコ)
剣を捨てなさい。
何を言うのか。もし武装していたとしても、誰も私を恐れることはない。私のたどった道は終わりだ。オテロの栄光よ!
剣を落とす。ベッドに近寄り、デズデーモナを見る。
そしてあなた…あなたはなんと青白いのでしょう!疲れていて、口がきけず、そして美しい。邪悪な星の下に生まれた敬虔な生き物。デズデーモナ、死んでしまった。まだ武器はある。
「オテロの死」Niun mi tema
オテロが、懐にある短刀で自分を刺す。
おやめください。
ロドヴィーコとモンターノ
気の毒な。
あなたを殺す前に口づけをした。今は死に、闇の中で横たわる。口づけを、もう一度口づけを。…口づけを。
オテロ、息絶える。