パルジファルは、ワーグナーによる最後の作品です。バイロイト祝祭劇場のために書かれた作品だったため、長い間バイロイト以外での上演が禁じられていました。
パルジファル、オペラ:人物相関図
パルジファル、オペラ:登場人物
パルジファル | 若者 | テノール |
グルネマンツ | 老騎士 | バス |
クンドリ | 呪われた女 | ソプラノ |
アンフォルタス | 聖杯を守る王、傷に苦しむ | バリトン |
クリングゾル | 魔法使い | バリトン |
ティトゥレル | アンフォルタスの父、先代の王 | バス |
聖杯守護の騎士 | 2人 | |
小姓 | 4人 | |
花の乙女たち | 6人 |
- 原題:Bühnenweihfestspiel “Parsifal”
- 言語:ドイツ語
- 作曲:リヒャルト・ワーグナー
- 台本:リヒャルト・ワーグナー
- 原作:ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハ「パルツィヴァール」
- 初演:1882年7月26日 バイロイト祝祭劇場
- 上演時間:4時間25分(第1幕110分 第2幕75分 第3幕80分)
パルジファル、オペラ:簡単なあらすじ
オペラ前の出来事
信心深いティトゥレル王は、天使から聖遺物を預かった。それは聖杯であり、聖槍であった。それを守るため、騎士たちが集まり、騎士団を結成した。クリングゾルは騎士団に入ることができなかった。クリングゾルは魔法の城を作り、騎士団に入る者の邪魔をした。
ティトゥレル王の息子、アンフォルタスは、クリングゾルを倒すために聖槍を持って魔法の城に向かう。クンドリは彼を誘惑する。彼は聖槍を手放し、クリングゾルはその槍でアンフォルタスの脇腹を刺す。その傷はふさがることなく、痛み続ける。痛みに耐えながら祈るアンフォルタス。彼は予言を聞く。「慈悲をもって知る純粋な愚か者を待て。彼こそ私が選んだ者だ。」
オペラ
アムフォルタの傷が癒えないことを憂い、純粋な愚者の出現を願うグルネマンツ。騎士団の森に、弓矢で白鳥を射る愚かな青年が現れる。彼は自分の名前すら知らない。グルネマンツは彼を純粋な愚か者と考えた。しかし、その若者は怯えるだけで何もできないので、役に立たない。グルネマンツは若者をただの愚か者と思い、彼を追い返した。
クリングゾルは愚かな若者から純粋さを奪おうと、彼をクンドリに誘惑させる。クンドリはかつてキリストを嘲ったために呪われ、クリングゾルに操られている。クンドリは青年をパルジファルと呼び、口づけをする。パルジファルは愚か者でなくなる。クリングゾルは彼に槍を投げつけ、殺そうとする。槍はパルジファルの頭上で止まった。彼は槍を手にする。
グルネマンツ、クンドリ、パルジファルは再会する。彼らは聖杯の城に向かう。傷の痛みに耐え、死にたがっているアムフォルタスを発見する。パルジファルは聖槍で彼の傷を癒す。パルジファルは聖杯と聖槍を守る新しい王となる。
パルジファル、オペラ:第1幕のあらすじ
第1場
前奏曲
森
中世。スペインのモンサルヴァートの森。舞台の中央は空き地、左は聖杯城に続く道、舞台背景には、中央に森の奥に泉がある。老騎士グルネマンツと小姓二人が木の下で眠っている。聖杯城から、朝を知らせる厳かなトロンボーンの音が聞こえてくる。
森の番人が、眠りの番人までするのか。せめて朝は起きなさい。さあ、水浴び場の準備をしよう。そこで王を待つ時間だ。
城から二人の騎士がやってくる。
アンフォルタス王の今日の様子はいかがですか?水浴びが早まったのですね。ガーウィンが手に入れた薬草のおかげで、体が楽になったのでしょうか?
騎士
全てをご存じのあなたがそのようなことを言うのですか?王は強い痛みで眠れずに、水浴びの準備を私たちに命じました。
馬に乗ってクンドリが、危なっかしい様子でやってくる。彼女はグルネマンツに急いで駆けつけると、小さな水晶の器を突きつける。
受け取れ、この香油を。
どこから持ってきたんだ?
お前が考えるよりもっと遠くから。このアラビアの香油が効かなければ、王が救われることはない。疲れた。
クンドリは地面に身を投げる。アンフォルタスが横たわる輿を担いで、小姓や騎士たちがやってくる。
男盛りで最も勇敢な一族の主が、病のしもべとなっている。慎重に!王がうめいている。
小姓たちが立ち止まり、輿を下ろす。
ありがとう。少し休もう。激しい苦痛の夜が去り、森の朝が輝いている。ガーヴァンよ。
騎士
ガーヴァンは留まっておりません。彼は薬草を求めて、新たな探索に乗り出しました。
私の許可なくか。彼がクリングゾルの罠に掛かったら大変だ。私は私に定められた者を待とう。「慈しみをもって知る」であったか?
あなたは私たちにそうおっしゃいました。
「純粋な愚か者」だ。私はその者に見覚えがある。もし、彼を死と呼ぶのなら。
グルネマンツは、クンドリの小瓶を渡す。
その前に、これをお試しください。
それを持ってきたのは誰だ?
クンドリ、来い!
クンドリは拒否して、地面に伏している。
お前か、クンドリ?もう一度礼を言わなければならない。香油を試してみよう。それは、お前の忠誠への感謝からだ。
感謝なんていらない。ハハハ!行け!水浴び場へ。
アンフォルタスが出発の合図を出す。行列は奥の湖に向かう。小姓たちが寝転がっているクンドリを邪険に扱う。
小姓
獣みたいに寝転ぶな。
やめなさい。彼女がお前に危害を加えたことがあったか?皆が途方に暮れている時、最果てで戦う兄弟たちに知らせを届けたのは誰か?
小姓
彼女は異教徒で、魔女です。
彼女は呪われた女なのかもしれない。彼女は過去の罪を償おうとしている。彼女が悔い改めるのなら、我が騎士団の救いになるのだ。
小姓
ですが、我々の苦悩の原因は、彼女なのではないですか?
そうだ。彼女がいなくなると、不幸が訪れる。私は昔から彼女を知っている。だが、ティトゥレル王は彼女をもっと昔から知っている。王が城を建てた時、彼女はこの森で死んだように眠っていたそうだ。
おい、お前、答えよ。我らの主が槍をなくした時、お前はどこをさまよっていたのか?なぜ、あの時我らを助けなかったのか?
私は一切助けない。
小姓
彼女が忠実で勇敢なら、彼女に失われた槍を探させよう。
それは、誰にでも許されることではないのだ。
勇敢なアンフォルタス王が、槍を武器に魔法使いを追い払おうとするのに、我らが止めることができようか。城の近くで勇者は我々から引き離された。恐ろしいほどの美女が彼を誘惑したのだ。彼は彼女の腕に横たわり、槍を落とした。死の叫び!私は駆けつけたが、クリングゾルは笑い声を残して消えた。彼は聖なる槍を手にした。私は王の退却を助けた。だが、彼のわき腹の傷は焼けるように痛み、決して閉じることがなかった。
湖に行っていた小姓たちが戻ってくる。
王の様子はいかがか?
小姓
水浴びで元気になられたようです。
(独り言)その傷は、決して閉じることがない。
小姓
あなたはクリングゾルを知っていたのですね?
ティトゥレル王、信仰ある勇ましい者が、彼を知っていた。野蛮な敵が信仰の領域を脅かした時、聖なる夜に祝福の使者が彼のもとに訪れた。最後の晩餐で使われた聖なる器、十字架にかけられた時に流れた神の血を受け止めた聖なる器。同時に血を流させた槍。それらを王は預かったのだ。彼は聖遺物のために聖域を作った。神のために人生を捧げた者たちは、罪人が見つけられない道を通ってやってくる。
クリングゾルはその道を見つけられなかった。彼は罪を償い、騎士団に加わるために、自分自身に手を下した(断種した)が、守護者は侮蔑的に突き放した。彼の不名誉な犠牲は、邪悪な魔法への助言になった。彼は砂漠を快楽の園に変えた。そこには悪魔のような美女が現れた。彼はそこで聖杯の騎士を待った。彼は多くの者を堕落させたのだ。
ティトゥレル王が老いたために、子息にこの地を支配させた。アンフォルタスは魔法の災いに歯止めをかけるために向かった。何が起こったのかは、皆が知っているだろう。槍は今、クリングゾルの手にある。
クンドリが激しく転げまわる。
聖杯の前で、アンフォルタス王は祈った。聖杯から祝福が輝き、聖なす姿が語り掛けた。はっきりと見える文字を残して。「慈しみをもって知る純粋な愚か者を待て。私が選んだ者だ。」
湖から小姓や騎士たちの叫び声が聞こえてくる。
騎士ら、小姓ら
なんてひどい。白鳥が傷ついている。
白鳥は無理に飛んだ後、地面に落ちてきた。騎士が白鳥から矢を引き抜く。パルジファルが連れられてくる。
白鳥を殺したのはお前か?
そうだ。
神聖な森で、殺生するとは。白鳥がお前になにをしたというのか?教えてくれ、少年よ、お前は自分の大きな罪を自覚しているか?
知らなかったんだ。
名前は?
たくさんあったが、何一つ思い出せない。
こんな愚かな者は、クンドリしか知らない。(小姓たちに)さあ、水浴びをする王をおろそかにできない。助けに行け。
騎士や小姓たちは湖に向かう。残ったのは、グルネマンツとパルジファル、クンドリ。
お前が知っていることを言え。
母がいる。
お前は高貴で生まれも育ちもよさそうだ。お前の母は、お前にもっとよい武器を与えなかったのか?
パルジファルは答えない。
彼の母は戦死した父がいない子を産んだ。彼女は息子を戦死させないために、荒れ地で愚か者を育てた。彼女も愚か者だ。お前の母は死んだ。彼女は愚か者のお前によろしくと言っていた。
パルジファルはクンドリに掴みかかって震える。クンドリは湖の水を汲んでパルジファルに渡す。
そうだ、聖杯の恵みに従うことだ。善を行えば、悪を封じる。
クンドリはその場を離れる。
お前を神聖な食卓に招待しよう。お前は聖杯に選ばれた者であろう。聖杯に通じる道は、選ばれた者しか通ることができない。
彼らは森を抜けて門を通り、大広間に向かう。
場面転換の音楽
第2場
グラール城の大広間
聖杯の開帳の儀式が騎士や小姓たちによって行われる。グルネマンツとパルジファルは儀式を見ている。
ティトゥレル王
息子のアンフォルタスよ。務めを果たしているか?聖杯を目にして、私は生きることができるか?それとも私は死ぬのか?務めを果たして、罪を償え。
開帳するな!誰も私の痛みを理解しない。哀れみを。聖者として、死を望む。
ティトゥレル王
聖杯の覆いを取れ!
少年たちが聖杯の覆いを取り、アンフォルタスの前に聖杯を置く。食卓にワインとパンが用意され、全員が席を着く。グルネマンツも加わる。パルジファルは、立ち尽くす。
高所からの声
我が肉をとれ、我が血をとれ。我らの愛のために。
アンフォルタス王は、痛みで叫び声をあげる。パルジファルは恐れたようにずっと立っていた。
お前はただの愚か者だったのだな。去るがいい。一言だけ忠告する。白鳥には構うな。
パルジファル、オペラ:第2幕のあらすじ
前奏曲
クリングゾルの城
城の地下。魔法の道具が置かれている。
クリングゾル
時が来た。愚かな若者が私の城にやってくる。クンドリ!ここに来い!
光の中から、眠っている様子のクンドリが出てくる。
クリングゾル
また騎士たちのところにいたのか?
ああ、気が狂いそう。眠りたい。
クリングゾル
彼らはお前を助けはしない。今回は、愚かさに守られた手ごわい者に勝たなければならない。
やりたくない。
クリングゾル
お前の力は私には通用しない。
ハハ!あんたは貞節なのか?
クリングゾル
忌々しい女。かつて私が神聖さを手に入れるために行ったことを、悪魔にあざ笑われるとは。気をつけろ!私をさげすんだ者は、私の手の中に落ちた。お前がアンフォルタスに快楽を与えたのだ!
悔しい。彼は弱かった。
クリングゾル
若者が壁を登り始めた。おい!見張りよ。敵が来るぞ。
クンドリが姿を消す。
クリングゾル
若者よ。純粋さをはぎ取られ、私の思うままになれ。
クリングゾルが姿を消す。パルジファルが城壁に現れる。城から美しい少女たちが現れる。
花の乙女ら
騒がしかったのはここね。私の恋人が血を流した。私たちの敵ね。
彼らが、美しいお前たちに会うために行く道を邪魔したからだ。
花の乙女ら
私たちのところに来ようとしたの?いらっしゃい、可愛い坊や。
花の乙女たちがパルジファルを取り合う。
やめてくれ。
パルジファルはその場から逃げようとする。
ここに留まりなさい。パルジファル。
パルジファル?そういえば、母が私をそう呼んでいた。
(花の乙女たちに)彼から離れろ。傷ついた男たちのもとに行け。
花の乙女たちが去る。
純粋な愚か者、パルジファル。昔、アラビアでお前の父が死ぬ間際に、母の腹の中にいるお前にそう呼びかけたのだ。この名を教えるために、私はここで待っていた。
知らない。聞いたこともない。
私は母の胸に抱かれた子供を見た。彼女は父の愛と死を伝えるために、お前を武器から遠ざけた。お前が行方不明になったとき、彼女は嘆いた。昼も夜も嘆き、嘆きが消えた時、彼女の心は苦悩で死んだ。
私が母を殺したのか。
告白すれば、罪悪感と後悔が終わるだろう。父と母の愛を知るといいわ。お前に体と命を授けた愛には、死も愚かさも屈するだろう。
クンドリはパルジファルに長い口づけをする。パルジファルは叫ぶ。
アンフォルタス!彼の傷が私の体の中で燃えている。
Amfortas! Die Wunde!
クンドリは、パルジファルを抱きしめる。
勇者よ。恵みを与える女に優しくして。
この声だ。彼に呼びかけたのはこの声だ。この眼差しだ。災いの女よ。私から去れ。
残酷な人。その胸に感じるのは、その人の苦痛だけですか?私の痛みも感じて。遥かなる昔からあなたを待っていた。
アンフォルタスへの道を教えれば、救う。
教えない。彼の元には行かせない。
クリングゾルが現れる。槍を振り回す。
クリングゾル
動くな。槍よ、愚か者を刺せ!
クリングゾルが投げた槍は、パルジファルの頭上で止まる。パルジファルが槍を掴む。
呪文でお前の魔力を追い払う。この偽りの栄華を槍で滅びよ。
城は崩れ、荒れ地になる。クンドリは悲鳴をあげる。パルジファルは去るときに、クンドリを見る。
お前は知っている。どこで再会できるかを。
パルジファル、オペラ:第3幕のあらすじ
第1場
前奏曲
森
早朝。森の中の野原。小屋と湧き水がある。グルネマンツが隠者の姿でいる。
あの辺りからうめき声が聞こえる。今日は最も神聖な朝なのに。この声には聞き覚えがある。クンドリか?
グルネマンツは、茂みからクンドリを引き上げる。
起きろ、クンドリ!
クンドリは目覚めて、叫び声をあげる。正気を取り戻して、身なりを整える。
感謝の言葉もないのか。
奉仕する。
もうお前に用事を言いつけることはない。
クンドリはあたりを見回して、小屋に入る。
歩き方がいつもと違う。聖なる日のおかげなのか。
クンドリは水瓶を手にして、湧き水の場所へ向かう。クンドリは、遠くからやってくる男をグルネマンツに知らせる。
湧き水へやってくるのは誰だ?あれは修道士ではない。
森から黒い甲冑に身を包んだパルジファルが現れる。
ようこそ、客人よ。何の挨拶もなしなのか?ここは神聖な場所だ。武器をもってうろつく場所ではない。今日は最も神聖な金曜日だ。武具を脱げ。
パルジファルなずっと黙っていた。地面に槍を突き立てて、武具を脱ぐ。祈りを捧げる。
(クンドリに)彼はあの愚か者だ。彼はどんな道をたどってここに来たのか。あの槍だ。
感謝を、再びあなたと会えるとは。
私だとわかるのだね。
あの方をお救いするために、私は選びだされたと思っています。苦難の道でした。槍の神聖さを保つために武器として使えず、あらゆる武器の傷を受けました。そうやって携えてまいりました。それがあの輝く神聖な槍です。
聖杯の騎士団があなたをお待ちしています。アンフォルタスは傷に苦しみ、死を願っています。聖杯はずっと開帳されていません。聖杯を見ると死ねなくなるので、無理に命を終わろうとしているのです。騎士団は聖杯による糧を得られず、弱っています。ティトゥレル王は、聖杯を見ることができず、亡くなりました。
私だ、それは私だ。すべての悲劇を作ってしまった。
パルジファルは気絶しそうになる。クンドリが湧き水を持って来て、パルジファルの足を洗う。
清き人よ、清めの水の祝福を受けよ。
今日の草原はなんと美しいのか。
これが聖金曜日の奇跡なのだ。
パルジファルはクンドリの額に口づけする。鐘の音が聞こえてくる。
正午、時は来た。
3人は、城へ向かう。
場面転換の音楽
第2場
聖堂
喪服を着た騎士たちの行列。ティトゥレル王の遺体を運んでいる。
わが父よ、祝福を受けた英雄よ。死を願った私が、あなた死を与えたのだ。
騎士たち
聖杯を開帳してください。
ダメだ。私はまだ生きており、傷口がある。勇者たちよ、傷を負った罪人を殺せ。そうすれば、聖杯は輝くだろう。
パルジファルが、グルネマンツとクンドリを伴って現れる。彼は聖槍をアンフォルタスの傷口に当てる。
願いを叶える武器はひとつ。傷を閉じるのは、傷を開いた槍のみ。
アンフォルタスの傷は癒される。
この聖なる槍をあなたたちに持ち帰った。もはや閉ざしてはいけない。聖杯を開帳せよ。
全員
救済の奇跡だ。救世主に救済を。
聖杯が輝く。天上から白い鳩が飛び、パルジファルの頭上に止まる。クンドリはパルジファルを見ながら死ぬ。アンフォルタスとグルネマンツは、パルジファルに跪く。