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【初心者向け】スペードの女王|簡単なあらすじと相関図

オペラ「スペードの女王」の相関図

「スペードの女王」は、チャイコフスキーの円熟期に書かれたオペラです。オペラの原作となる、プーシキンの「スペードの女王」はロシア文学の重要作品のひとつと言われています。ドストエフスキーにも影響を与えました。

目次

スペードの女王、オペラ:人物相関図

オペラ「スペードの女王」の相関図
スペードの女王、オペラ:人物相関図

スペードの女王、オペラ:登場人物

ゲルマン士官テノール
リーザ伯爵夫人の孫娘ソプラノ
伯爵夫人カードの秘密を知る、老伯爵夫人メゾソプラノ
エレツキー公爵リーザの婚約者バリトン
トムスキー伯爵ゲルマンの友人バリトン
ポリーナリーザの友人ソプラノ
チェカリンスキーゲルマンの同僚テノール
スーリンゲルマンの同僚バス
スペードの女王、オペラ:登場人物
  • 原題:Пиковая дама(Pikovaya dama)Pique Dame, The Queen of Spades
  • 言語:ロシア語
  • 作曲:ピョートル・チャイコフスキー
  • 台本:モデスト・チャイコフスキー(弟)
  • 原作:プーシキン「スペードの女王」小説
  • 初演:1890年3月29日 サンクトペテルブルク マリインスキー劇場
  • 上演時間:2時間40分(第1幕60分 第2幕60分 第3幕40分)

スペードの女王、オペラ:簡単なあらすじ

青年士官のゲルマンは、リーザに一目惚れする。しかし彼女には婚約者がいる。ゲルマンは仲間の間で、伯爵夫人がカードゲームで必ず勝てる3枚のカードを知っているという噂を耳にする。

リーザは婚約者を選ばず、ゲルマンを愛してしまう。彼女は彼を伯爵夫人の近くの自分の部屋に呼び出す。ゲルマンは彼女にカードの秘密を聞こうとし、彼女を殺してしまう。

幽霊の伯爵夫人はゲルマンに3枚のカードの秘密を教える。3、7、エース。リーザはカードの魔力に取り付かれ、錯乱しているゲルマンを見る。彼女は絶望して死んでしまう。

ゲルマンは賭博場へ行く。彼は3、7、エースに賭けるが、エースと思われたカードはスペードの女王だった。全てを失ったゲルマンは銃で自分の胸を撃ち抜く。

スペードの女王、オペラ:解説

スペードの女王 地図

18世紀、ロシア帝国、エカチェリーナ2世の時代の話です。(日本は江戸時代)

エカチェリーナ2世と聞いて、オペラ好きの人はピンと来る人もいるかもしれません。

イタリアの作曲家「パイジェッロ」が、エカチェリーナ2世にサンクトペテルブルグに招待され、その8年間の間に、パイジェッロの「セヴィリアの理髪師 Il Barbiere di Siviglia」を完成させています。

エカチェリーナ2世が治めた時代は、ヨーロッパと肩を並べるべく、領土を拡大し、自国の文化の発展に力を注いだ、ロシア帝国の全盛期です。

オペラ「スペードの女王」の中で、舞踏会に女帝が現れる場面があり、エカチェリーナ2世を称える合唱が歌われます。

プーシキンの原作小説とオペラの違い

エレツキー公爵リーザゲルマン、賭けの後
原作なし別の男性と結婚精神病院へ
オペラリーザと婚約運河に身投げ自殺

オペラと原作は、細かい部分が結構違うのですが、一番の注目点はゲルマンがリーザを騙すつもりがあったのかどうかです。

原作
カードの秘密の話 → ゲルマン、伯爵夫人の家をうろつく → リーザをたぶらかす

オペラ
ゲルマンがリーザに一目惚れ → カードの秘密の話 → リーザと恋仲に

オペラと比べると原作の方は、ゲルマンがかなりの野心家に描かれています。そして、リーザ(原作ではリザヴェータ)は、伯爵夫人(性格悪い)にいびられて惨めな境遇の女性です。原作は全体的にどんよりと暗め。

スペードの女王、オペラ:第1幕のあらすじ

第1場

序曲

ペテルブルクの公園

18世紀ロシア、夏(5月)、皆が太陽が出ていることに喜んでいる。子供たちが乳母らに連れられて公園にやってきている。子供たちは兵隊ごっこをして遊ぶ。

子供たち
僕たちはロシアの敵を恐れさせるために集まったぞ。祖国を救うことが僕たちの任務。賢い女王は僕らの母だ。この地の女帝は、誇りと美しさを持っている。

子供たちと乳母が公園から去る。士官の男ふたりが現れて、噂話を始める。

ゲルマンの知り合いの士官(チェカリンスキー)
それで、ゲルマンはいたか?

ゲルマンの知り合いの士官(スーリン)
彼は いつものように朝の8時から8時までいたよ。賭けのテーブルに座ったまま黙々とワインを飲んでた。

ゲルマンの知り合いの士官(チェカリンスキー)
変なやつだな。

ゲルマンと、ゲルマンの友人であるトムスキー伯爵が来る。

トムスキー伯爵

朝まで賭博場に入り浸りとは君らしくないぞ。

ゲルマン

意気地がないが、どうしようもない。今はそれより、恋をしているんだ。彼女の名前は知らない。彼女の名前を知りたくないんだ。この世の名前で呼びたくないから。

トムスキー伯爵

勇気を出して交際を申し込めよ。

ゲルマン

いや、彼女は身分が高い。無理だ。でも諦められない!

トムスキー伯爵

堅物のゲルマンがこんな恋をしているなんて、誰も信じないだろうな。彼女は、君のことを知っているのか?彼女も君を好きかもしれないぞ。

ゲルマン

そうならいいが。もし彼女が僕のものにならないなら、僕は死ぬ。

公園に、エレツキー公爵が現れる。

ゲルマンの知り合いの士官(チェカリンスキー)
エレツキー公爵、ご結婚が決まったそうで、おめでとうございます。

エレツキー公爵

ありがとう。とても幸福な日々を過ごしているよ。

ゲルマン

(喜びは至る所にあるのに、僕は地獄の中にいる。)

トムスキー伯爵

ところでどなたと結婚をなさるのですか?

伯爵夫人とリーザが現れる。

エレツキー公爵

(リーザを指して)彼女が私の花嫁だよ。

ゲルマンは、リーザをじっと見つめる。

ゲルマン

(僕が好きな女だ。エレツキー公爵の婚約者だって!)

リーザ

(ゲルマンを見て)恐ろしい。以前にも見た男だわ。「謎めいた男」ね。

伯爵夫人

(ゲルマンを見て)恐ろしいわ。なんと「不気味な男」なの。

ゲルマン

(恐ろしい。またもや不気味な老婆が現れた。)

エレツキー公爵

(恐ろしい。リーザは混乱しているようだ。彼女は私を見ていない。)

トムスキー伯爵

(彼女が彼の話していた女性か。なんて青白い顔をしているんだ。彼女が怖い。)

伯爵夫人

(トムスキーに)この男は何者?

トムスキー伯爵

ゲルマン。私の友人です。

伯爵夫人はトムスキーに見送られる。リーザ、エレツキー公爵は手を取りあって立ち去る。残った人々は、老いた伯爵夫人の噂話を始める。

トムスキー伯爵

昔、伯爵夫人は、パリで「モスクワのビーナス」と呼ばれるほど人気だった。夫人が愛よりもはまったのは、カード賭博だった。

ある時、伯爵夫人はひどく負けた。彼女はサンジェルマン伯爵から、自分との逢引きを引き換えに、カード賭博のカードの秘密を聞き出した。

伯爵夫人は、カード賭博に必ず勝つ「3枚のカード」を知り、その場で勝った。秘密を知るのは、ふたりだ。一人目は伯爵夫人の夫、二人目は彼女を誘惑した男。彼女は二人目に秘密を明かした夜に、亡霊に「お前を熱烈に愛し、カードの秘密を知ろうとする3人目の男によって、お前は死ぬ」と告げられたそうだ。

ゲルマンの知り合いの士官(スーリン)
伯爵夫人は安心して眠れるな。熱烈な恋人を見つけるのは難しい。

ゲルマンの知り合いの士官(チェカリンスキー)
ゲルマン、お前がお金なしで遊ぶのにいい話だな。雷だ。さあ、急いで帰ろう。

雷に気が付いて、トムスキー伯爵、チェカリンスキー、スーリンは足早に立ち去る。激しい雷雨。ゲルマンは呆然としている。

ゲルマン

3枚のカードだって?そんなもの知ってどうなる。こんな嵐なんて怖くない。いいか、公爵、必ずリーザを奪ってみせる!彼女を僕のものにする!もしできなければ、死ぬだけだ。

第2場

リーザの部屋

夜、リーザの部屋に友達たちが集まり、歌や踊りを披露する。リーザは楽しめない。

リーザ

もう夕暮れね。

リーザの友人(ポリーナ)
リーザの好きな歌を歌うわ。思い出したわ。とある友達は素敵でちょっと遊び心があり、踊りを楽しんでいた。彼女は幸せに暮らしていたけれど、幸福な場所で手に入れたのは、墓だった。

なぜ私が悲しい歌を選んだかって?リーザ、あなたが悲しそうにしているからよ。私たちはロシア人、陽気に行きましょうよ。

リーザの友人(ポリーナ)とほかの友人ら
汗をかいて踊りましょう。

「合唱・ロシア民謡」Ai lyuili, lyuili

友人たちが騒いでいると、リーザの部屋に家庭教師が入る。

女の家庭教師
うるさいですよ。ロシア語の民謡で踊るなんて恥ずかしい。貴族の娘なのだから、品位を守る必要があります。

友人たちは踊るのをやめて、家庭教師が部屋を出ていく。

リーザの友人(ポリーナ)
なぜそんなにつまらなさそうなの?

リーザ

退屈なんてしていないわよ。嵐の後の素敵な夜よ。

リーザの友人(ポリーナ)
そんなに暗い顔をしていると、公爵にあなたが婚約の夜に悲しそうだったと言うわよ。

リーザ

彼に言わないで。

リーザの友人(ポリーナ)
それなら笑ってちょうだい。じゃあね。

友達は帰宅し、リーザは部屋に一人。

リーザ

なぜ涙が出るのかしら。憧れていた乙女の夢が叶うのよ。公爵は素晴らしい人なのに。なぜ、むなしさがあるの?夜よ、お前だけに秘密を打ち明けるわ。彼の情熱的な瞳が忘れられない。

「なぜ涙が」Zachem zhe eti slyozy

ゲルマンがリーザの部屋に忍び込む。驚くリーザ。

ゲルマン

お別れだけ言わせてください。すぐに立ち去ります。死のうとしている男のお願いです。 あなたが他の男性と結婚すると知りました。あなたなしでは生きていけない。死ぬ覚悟です。

リーザ

出て行ってください。

ゲルマン

女神、天使よ。許してください。僕を拒絶しないで。どうか、しばらくあなたといさせてください。

ゲルマンは熱心に口説き続け、リーザは涙を流してしまう。ゲルマンはその姿を見て驚く。

ゲルマン

どういう意味の涙なのですか?

伯爵夫人がリーザの部屋の外にやってくる。

伯爵夫人

(伯爵夫人の声)リーザ。扉を開けなさい。

リーザ

(ゲルマンにカーテンを指差し)あそこに隠れて。

ゲルマン、カーテンの陰に隠れる。伯爵夫人が部屋の中に入る。

伯爵夫人

こんな時間に眠らずに何の騒ぎ?早く寝なさい。

リーザ

眠れずに歩き回ってしまいました。従います。

リーザは伯爵夫人を夫人の部屋に戻らせるために一緒に出て行く。

ゲルマン

(伯爵夫人だ。カードの秘密を聞き出そうとする男。3枚のカード!もしカードの秘密を知り、大金を手に入れればリーザと結婚できるかも。)

リーザが部屋に戻ってくる。

ゲルマン

許してください。数分前までは、死が私の望みだった。今は違う。あなたと共に生きて死にたいのです。

リーザ

私を破滅させないで。命令です。出て行って。

ゲルマン

それなら、私に死ねと言ってください。さようなら。

リーザ

やめて!!死なないで。私はあなたのものよ。

スペードの女王、オペラ:第2幕のあらすじ

第1場

仮面舞踏会

花火や劇の催しがある華やかな舞踏会。リーザやエレツキー公爵、士官たちが参加している。士官たちと伯爵(ゲルマンの友人)が噂話をしている。

ゲルマンの知り合いの士官(チェカリンスキー)
ゲルマンがふさいだり、陽気になったり、とにかく変だ。そして、3枚のカードの秘密に夢中だ。

トムスキー伯爵

3枚のカードの話を信じるほど、ゲルマンは愚かではないさ。

ゲルマンの知り合いの士官(スーリン)
いや、本人が言っていたんだ。そうだ。ゲルマンをからかってやろう。

ゲルマンの様子がおかしいと話ながら去って行く。


リーザとエレツキー公爵。リーザは浮かない表情をしている。

エレツキー公爵

話しておきたいことがあります。あなたを愛しています。しかし、あなたにとって私は小さな存在なのですね。

「あなたを愛しています」Ya vas lyublyu

歌詞と対訳

「あなたを愛しています」Ya vas lyublyu|スペードの女王

ゲルマンが「リーザからの手紙」を持って現れる。

ゲルマン

「余興の後、広間でお待ちください、お会いしたいです。」

(彼女と会って、愚かな考えを捨てなければ。…3枚のカード。それが分かれば、金持ちだ。彼女と遠くに行ける。いや、ダメだ。)

士官のふたりがゲルマンをからかうために現れる。彼らはゲルマンに耳打ちする。

ゲルマンの知り合いの士官(チェカリンスキーとスーリン)
「君じゃないのか、伯爵夫人の3枚のカードの秘密を聞き出そうとする3人目の男は」

ゲルマン

(さっきの男たちはなんだ。これは、現実か?!変になったのか?)

余興に、牧歌劇「忠実な羊飼いの娘」が上演される。内容は「女ひとり、男ふたり。金持ち男と貧しい男。女は貧しい男を選ぶ。」というもの。劇は盛り上がる。「幕間劇」Moy milenkiy druzhok

催しの劇から離れたところで、ゲルマンひとりでいる。

ゲルマン

(情熱的に、熱く愛する人。リーザへの思いは愛じゃないのか。いや、愛に決まっている。)

ゲルマンの知り合いの士官(スーリン)
ほら、お前の恋人だ。

スーリンは伯爵夫人を指差す。

ゲルマン

(まただ、幻聴が聞こえる。なんて惨めで滑稽なんだ。)

ゲルマンのもとに、リーザが現れる。

リーザ

ゲルマン、ここにいたのね。これは我が家の庭にある秘密の扉の鍵よ。私の部屋を訪ねてきて欲しいの。あなたのものになりたいから。この鍵を使って、お祖母さま(伯爵夫人)の部屋を通り、隣の私の部屋に来て。明日にでも…

ゲルマン

今日がいい!!

ふたりは会う約束をして、リーザは立ち去る。

ゲルマン

よし、これで3枚のカードの秘密が聞けるぞ。

舞踏会に女王陛下が現れる。「エカチェリーナ様に栄光あれ(合唱)」

第2場

伯爵夫人の寝室

リーザからもらった鍵を使い、伯爵夫人の寝室に忍び込んだゲルマン。

ゲルマン

決めたんだ。伯爵夫人から秘密を聞き出すと。だが、3枚のカードの話が嘘なら、俺の妄想ならどうするんだ。

(伯爵夫人の肖像画を見て)伯爵夫人と俺は見えない力でつながっている気がする。俺と夫人、どちらかのせいでどちらかが死ぬだろう。

足音だ。人が来る。

ゲルマンは伯爵夫人の部屋の中で隠れる。伯爵夫人の召使いとリーザが部屋に入ってくる。リーザと召使い(リーザと仲のよい)が話す。

召使い
様子が変ですよ?どうなさったのです。もしかして。

リーザ

そうなの。ゲルマンが私の部屋で待っているはずよ。私は彼を夫に選んだの。

伯爵夫人が部屋に入り、召使たちが準備を始める。

伯爵夫人

今の社交界ってなんてつまらないこと。時代かしら。マナーがなっていない。昔はよかった。素晴らしい方たちばかりだったわ。

夜に彼と話しをするのが怖い。私は彼の言うことを聞きすぎるの。鼓動する私の心。なぜかはわからない。(フランス語)

「夜にあの方と話をするのが怖い」Je crains de lui parler la nuit

伯爵夫人は召使いたちを部屋から追い出す。独り言を言いながら、眠りにつく。

伯爵夫人

夜に彼と話しをするのが怖い。私は彼の言うことを聞きすぎるの。鼓動する私の心。なぜかはわからない。(フランス語)

伯爵夫人が眠る。隠れていたゲルマンが、夫人に声を掛ける。夫人は突然の男の訪問に何も言えずおびえる。

ゲルマン

驚くことはありません。怖がらないで。何もしません。お情けにおすがりしたいのです3枚のカードの秘密を教えてください。

もしかしてその秘密は恐ろしい罪や悪い取引に関わったものではないですよね。あなたの罪は私が引き取ります。どうか教えて下さい。老いぼれの魔女め。

ゲルマンは銃を出す。伯爵夫人は何も言わないまま、死ぬ。

ゲルマン

子供だましはやめてくれ。死んでいる。秘密を聞けなかった。

隣の自室にいたリーザが物音を聞きつけて、伯爵夫人の部屋に入ってくる。

リーザ

何か物音がするわ?ゲルマン、ここにいたのね。

ゲルマン

死んでしまった。3枚のカードの秘密を聞けないまま。

リーザ

私に近づいたのは、3枚のカードの秘密のためなのね。出て行って。

ゲルマンは立ち去る。

スペードの女王、オペラ:第3幕のあらすじ

第1場

間奏曲

兵営内のゲルマンの部屋

ゲルマンは「リーザからの手紙」を受け取っていた。

ゲルマン

「私はあなたが伯爵夫人の死を望んだとは思っていません。今夜、運河のそばで待っています。真夜中までにあなたが来なければ、恐ろしい考えに従わなければなりません。」

気の毒な人だ。なんてことをしてしまった。

幻聴や幻覚が見えてパニックになるゲルマン。

ゲルマン

やめてくれ!怖い!

伯爵夫人の亡霊が現れる。

伯爵夫人

私は望んでここに来たのではない。あるものに「お前の望みを叶えてやれ」と命令されてきた。リーザを救いなさい。あの子と結婚しなさい。3枚のカードを順番に張れば勝ちます。3、7、エース。

伯爵夫人の亡霊が消える。

ゲルマン

3…7…エース

第2場

運河のほとり

真夜中の薄暗い運河のほとりで、一人でゲルマンを待っているリーザ。

リーザ

もうすぐ真夜中、ゲルマンは来ない。いいえ!!彼は来る。彼を信じたい。悲しみにも疲れてしまった。ああ、真夜中になったわ。彼は来ない。私は悪党に運命を捧げてしまった。人殺しに、悪魔に。

ゲルマンが訪れる。リーザは喜ぶが、ゲルマンはカードの秘密を知ったために気もそぞろ。

リーザ

ゲルマン、来てくれたのね。苦しみは終わったわ。

ゲルマン

会えて嬉しい。苦しみを乗り越えて一緒にいよう。でも、急がなければ、賭博場に。

リーザ

どうしたの、ゲルマン。あなた変よ!!

ゲルマン

(正気でない様子でぶつぶつ言いながら)老いぼれの魔女で、強情な老女だった。今になって俺のもとに教えに来てくれたんだ。

リーザ

あなたが伯爵夫人を殺したのね。

ゲルマン

(正気ではない様子で)違う。銃を取り出しただけだ。そうしたら、魔女が倒れた。

リーザ

それが事実なのね。私は悪党に運命をゆだねてしまった。正気に戻ってゲルマン。あなたが誰でもいいわ。一緒に逃げましょう。

ゲルマン

(リーザを見て)あっちに行け。お前は誰だ?知らない女め。

ゲルマンはリーザを突き飛ばして走り去る。

リーザ

彼は破滅した。私も一緒に。

リーザは運河に身を投げる。

第3場

賭博場

陽気に遊ぶ人たち。士官たちやゲルマンの友人の伯爵がいる。そこに、リーザと婚約していた、エレツキー公爵も来ている。

トムスキー伯爵

公爵殿。賭博場で会うなんて、初めてじゃないか。

エレツキー公爵

「愛に不運な者は、勝負に強い」というからね。リーザと婚約を解消したんだ。これ以上は聞かないでくれ。ここにきたのは復讐のためさ。

ゲルマンが賭博場にやって来る。

エレツキー公爵

ゲルマンが来たな。私が思ったとおりだ。決闘になったときの介添人が必要かもしれない。

ゲルマン

俺も賭けに参加させてくれ。

これまで一度も賭け事をしたことがないゲルマンが賭けに参加すると言い、みんなが驚く。

ゲルマン

賭けさせてくれ。3だ。

ゲルマンは賭けに勝つ。

人々
ゲルマンの様子がおかしい。何か悪いことが起こりそうだ。

ゲルマン

もっと賭けよう。次は7だ。

またも、ゲルマンは賭けに勝つ。ゲルマンの狂気に満ちた喜び方に、皆が不気味がる。

人々
ゲルマンは普通じゃない。

ゲルマン

俺たちの命は、ゲームのようなものだ。仕事も名誉も幻だ。幸運の一瞬を掴むんだ。さあ、賭けを続けようじゃないか。

「人生は賭けだ」Chto nasha zhizn? Igra!

胴元
お断りだ。お前は悪魔と手を組んでいる。

ゲルマン

誰かやらないか?俺の有り金すべてを賭ける。

エレツキー公爵

私がやろう。

人々
公爵、やめなさい。これは勝負じゃない。無謀だ。

エレツキー公爵

自分がしていることはわかっている。ヤツには貸しがあるんだ。

ゲルマン

あなたがやるのか、いいだろう。次は、エースだ。やった!!勝ったぞ。今回も俺の勝ちだ。

エレツキー公爵

いや、君のカードはクイーンじゃないか。君が持っているのは「スペードの女王」だ。

ゲルマン

エースに賭けたのに、なぜクイーンが俺の手に!!!この女王は、伯爵夫人だ。あのばあさん。俺を笑ってやがる。俺の命が欲しいのか。ならくれてやる。

ゲルマンは銃で胸を撃つ。賭博場が騒然となる。

人々
憐れなヤツだ。運命にもてあそばれて、命を絶つなんて。

ゲルマン

エレツキー公爵、許してください。リーザ。君がどうしてここに?俺を許してくれるんだね。

リーザの幻覚を見ながら、ゲルマンは死ぬ。

人々
神よ、彼を許したまえ。乱れ騒ぎ、苦しみ悩んだ魂に安らぎを。

「合唱」Gospod! Prosti yemu

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