「シモン・ボッカネグラ」は初演が失敗に終わった作品ですが、ヴェルディが気に入っていた題材なので、初演から24年後に台本をアリゴ・ボーイトによって改訂し、新たに世に出されました。ちなみにボーイトは「オテロ」「ファルスタッフ」の台本を手がけています。シモン・ボッカネグラの物語の軸は「貴族と平民の対立」です。
シモン・ボッカネグラ、オペラ:人物相関図
- オペラの中で、25年の時間経過
- フィエスコが、アンドレーアと偽名を使う
- 妻の名前が「マリア」で、娘の名前も「マリア」
- 行方不明の娘「マリア」は、アンドレーア(フィエスコ)の養女となり「アメーリア」と名乗る
海の男だったシモン。
結婚を認めてもらうために、総督になる決意をします。
25年後の総督シモン。
毒を盛られ、体の異変を感じたときに「海が恋しい。なぜ、海で死ぬことができなかったのか?」とつぶやきます。
シモン・ボッカネグラ、オペラ:登場人物
シモン・ボッカネグラ | 総督、平民 | バリトン |
マリア・ボッカネグラ(アメーリア・グリマルディ) | シモンの行方不明の娘 | ソプラノ |
ガブリエーレ・アドルノ | 貴族 | テノール |
ヤーコポ・フィエスコ | 貴族 | バス |
パオロ | シモンの側近、平民 | バリトン |
- 原題:Simon Boccanegra
- 言語:イタリア語
- 作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
- 台本:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ(改訂版アリゴ・ボーイト)
- 原作:アントニオ・ガルシア・グティエレスの戯曲「シモン・ボッカネグラ」
- 初演:1857年3月12日 ヴェネツィア フェニーチェ歌劇場
- 上演時間:2時間10分(プロローグ25分 第1幕50分 第2幕30分 第3幕25分)
シモン・ボッカネグラ、オペラ:簡単なあらすじ
シモンとフィエスコの娘マリアは、父フィエスコが結婚に反対したものの、すでに娘を手にしていた。二人が隠して育てた娘は姿を消してしまった。マリアは父に軟禁されたまま死んでしまう。悲しみの中、シモンは選挙で、ジェノヴァの総督に選ばれた。
25年後、フィエスコ(アンドレア)はアメリア(シモンの行方不明の娘)を自分の孫とは知らずに養女として育てていた。シモンとアメリアは再会し、自分たちが父娘であることを知る。ジェノバでは、平民と貴族の対立が起きていた。シモンはパオロに毒を盛られ、死んでしまう。
シモン・ボッカネグラ、オペラ:解説
- ジェノヴァ:オペラの舞台
- ピサ:アメーリアが孤児として過ごした場所
シモン・ボッカネグラ、オペラ:プロローグのあらすじ
ジェノヴァの広場
夜、薄暗い広場。広場から教会や屋敷が見渡せる。
どの男を選挙にだそうか?高利貸しの男がいいのでは?
いいや、民衆に人気があって、選挙に勝てる男を出そう。海賊(シモン)がいい。
シモンでもいいが、こちらに見返りは?
金、権力、名誉だ。
ふたりは握手して、男が去って行く。広場に急いでやってくるシモン。パオロと会う。
急に呼び出すとはなんだね?
選挙に出て、総督になるつもりはないか?お前の妻、気の毒なマリアのことを考えろ。君が総督になって命じれば、父親に幽閉されたマリアを助けることができるだろう。選挙で勝てるように準備は整えた。君への頼みは、俺に権力を分けてくれることだ。
マリアのために!よし、選挙に出よう。
シモン、立ち去る。パオロのもとに人々(平民)が集まってくる。
選挙はどうする?誰に投票するべきか?
シモン・ボッカネグラだ。
俺たちと敵対する、貴族のフィエスコ側はどう出るだろうか?
彼らは沈黙するしかないさ。不気味なフィエスコの屋敷を見てみろ!彼の娘マリアが閉じ込められ、嘆き声を上げている。屋敷から聞こえる、唯一の声だ。十字を切って立ち去ろう。そうすれば悪魔を追い払える。
人々が立ち去る。自宅の外で貴族フィエスコが嘆いている。
娘は死んでしまった。娘を誘惑した、シモンが全て悪いのだ。引き裂かれた父の胸は、苦悩の中にある。私の大切なマリアは天国に行ってしまった。
「引き裂かれた父の心は」Il lacerato spirito
「引き裂かれた父の心は」Il lacerato spirito|シモン・ボッカネグラ
オペラの時代背景には、ゲルフ・教皇派とギベリン・皇帝派の対立があります。そして、シモンは実在の人物です。
屋敷から悲しむ使用人らが出てきて、広場を通り過ぎていく。広場に喜んだ様子のシモンが来る。
民衆が私の名前を呼んでいる。選挙に勝てるぞ。勝てば、結婚を許してもらえるだろう。
シモン。どのような運命がお前をここに連れてきたのか。私を怒らせるためなのか。
彼女のために、私は栄光を掴もうとしています。どうか、私たちの結婚を認めて下さい。和解しましょう。
たとえお前が王になろうとも、娘はやらない。和解したいだと?!それなら、娘の子供を渡せ。子供を渡せば、私が育ててやる。そして、お前を許してやろう。
私は海岸で密かに、乳母に預けて娘を育てていました。ある日乳母が死に、娘は行方不明になっています。今、探し続けているところなのです。
娘の子を渡さないなら、許すことはできない。
フィエスコは立ち去るふりをして、シモンの様子を伺う。
なんて無慈悲なフィエスコ。マリアのような純真な娘が生まれたのが、信じられない。彼女に会いたい。勇気を出そう。
シモンはフィエスコの屋敷の扉を叩き、中に入る。
フィエスコの屋敷の鍵が開いている。なぜ?わからないが、マリアを探そう。
屋敷の中で、シモンはマリアの遺体を見つける。広場からは、選挙で総督に選ばれたシモンを讃える民衆の声が響く。
シモン・ボッカネグラ、オペラ:第1幕のあらすじ
第1場
海辺にある、グリマルディ家の庭
夜明け、海が見える庭園。グリマルディ家の養女、アメーリアはひとりで、恋人が来るのを待っている。
薄暗い朝でも、星と海は微笑みかけてくれる。今は誇り高い家の娘になったけれど、かつて暮らした粗末な家が忘れられない。愛しい恋人はまだ来ないのかな。彼は涙を拭いてくれる。
「暁に星と海は微笑み」Come in quest’ora bruna
「暁に星と海は微笑み」Come in quest’ora bruna|シモン・ボッカネグラ
遠くからガブリエーレが庭にやって来る。
愛しい人。すまない。君と僕のために、大切な準備をしていたので、遅くなったよ。
準備って何?!恐ろしいわ。私の養父とあなたは、何かをしているでしょう。
声を落としてくれ。他の人に聞かれたら大変だ。
海の青さを見てください。ジェノヴァの町は、あなたの敵に支配されているのですよ。愛を考えてください。
天国から来た天使のような君。僕の憎しみのもとを探らないでおくれ。愛を考えてください。
庭から、屋敷に向かう使者が見える。
あ!総督の使者だわ。総督が私に縁談を持ってくるようなの。彼の部下が私を好きらしいわ。恐ろしいことになる前に、私を婚礼の祭壇に連れて行って。
もちろんだとも。
アメーリアが立ち去り、ガブリエーレとアンドレア(フィエスコ)が立ち話。
フィエスコ → アンドレーア(偽名)
フィエスコ(シモンの亡くなった妻の父親)は、シモンと敵対したために、アンドレーアと名前を変えています。
君はアメーリアに結婚を申し込むのか。だが、娘には秘密がある。娘が養子であることは知っているだろうが、アメーリアは、我が家とは血のつながりのない、卑しい身分(平民)の娘なのだ。
それならなぜ、彼女はグリマルディの名前を継いでいるのですか?
総督(シモン)が決めたことのせいだ。アメーリアがグリマルディ家の名前を継ぐことで、我が家の財産を守ることができている。
わかりました。彼女を愛しているので、結婚を望みます。
こちらに来なさい。君を祝福しよう。
あなたの声は、古代の敬虔な響きがします。あなたの言葉をこれからも忠実に覚えているでしょう。
総督の来訪を知らせる、トランペットの合図。
君を総督に見られてはまずい。さあ、立ち去りなさい。
ふたりとも庭を立ち去る。総督シモンとパオロが庭に現れる。
従者たちよ、用事があるので、君たちは立ち去りたまえ。
パオロや従者らが去る。アメーリアがやってきて、パオロが去り際に彼女を見つめる。
(アメーリア、綺麗な人。)
シモンとアメーリアが話す。
君がアメーリアか。亡命中の君たちの家族は大丈夫か?君のために、家族の恩赦の手紙を書こう。あなたのような美しい人は、ここにいては退屈では?世界を見てみようと思わないのですか?
いいえ、退屈ではありません。私はある男性と恋をしており、幸せに暮らしています。ですが、私の家の財産を狙って、結婚を求める者がいるのです。
パオロだな。
あなたは私の運命に同情してくれました。私の秘密を話しましょう。実は、グリマルディ家の者ではないのです。
海辺の粗末な家の孤児でした。老女に育てられていたのですが、亡くなりました。亡くなる間際に、「これがあなたの母だ」と絵姿を渡してくれたのです。
二重唱「粗末な家の孤児として」Orfanella il tetto umile
二重唱「粗末な家の孤児として」Orfanella il tetto umile|シモン・ボッカネグラ
シモンとアメーリアの再会。孤児として、ジェノヴァから離れたピサで過ごしたことがわかります。
(娘かもしれない。)それで、家には他の者は訪ねてこなかったのですか?
度々、船乗りの男が訪ねてきていました。
老女の名前は、ジョヴァンナでは?絵姿は、この人では?
同じものだわ。
私の娘よ!!
お父さん、あなたは孝行な娘を見るでしょう。
シモンとアメーリアは抱き合って再会を喜ぶ。アメーリアはその場を離れる。パオロが返事を聞きにやって来る。
彼女の返事を教えて下さい。
アメーリアとの結婚は諦めろ。命令だ!
シモンは足早に立ち去る。パオロがひとりでいると、部下が近づいてくる、
命令だと!誰のおかげで総督になれたと思っているんだ。アメーリアを誘拐してやる。おい、報酬をはずむから手伝え。
わかった。手伝おう。
第2場
総督の宮殿、大会議室
中央に総督のシモンが座り、片側に貴族の議員ら、もう片側に平民の議員らが向かい合うように座っている。
ヴェネツィア共和国と和平を考えてみないか。イタリアの中で、血を流し戦っても仕方がない。
議員ら
和平はありえない。戦争だ。我らは、ジェノヴァ共和国の人間だ。
会議室の外から、騒ぎ声が聞こえる。
広場で騒動が起こっているぞ。あの男は、ガブリエーレか?
誘拐を手伝った男
パオロ、お前はここを去った方がいい。
(そうだな。)
パオロが会議室から出て行こうとするのを見て、シモンは命令を出す。
会議室から、誰も出すな!!
会議室には、広場からの声が響いてくる。平民と貴族が争い、それぞれ罵り会う。
伝令よ、民衆に伝えろ。「貴族であろうと、平民であろうと、私は恐れない。剣を置いて、ここに来るがいい」と。
民衆が会議室になだれ込んでくる。ガブリエーレとアンドレーア(フィエスコ)が平民たちによって捕らえられている。
確かに私は男を殺した。その男が、グリマルディ家の令嬢(アメーリア)を誘拐したからだ。
(なんてこと!私の娘が!)
誘拐犯は黒幕を言わずに死んだ。アメーリアはいまだ見つからない!!犯人はお前(シモン)だろう!
愚か者が。
ガブリエーレが剣を取り出し、総督に襲いかかる。アメーリアが会議室に飛び込み、ふたりの間に割って入る。
止めて。総督、お許し下さい。ガブリエーレにお許しを。
ガブリエーレは衛兵に捕らえられる。
その男を傷つけないように。アメーリア。あなたは誘拐されたというのに、どうやって逃げたのですか?
心地よい夕暮れに海辺を散歩中、男らに誘拐されました。ただ、見張りの男が私の知っている男だったのです。
その男は小心者でした。私は男に「明るみになれば、大変なことになる」と言うと、逃がしてくれました。
実行犯は彼らですが、本当の悪人はこの中にいます!
会議室の人々がざわめく。
わかりました。今、顔色を変えた男を見つけました。
「アメーリアを誘拐したのは、貴族なのか、平民なのか」で会議室は混乱する。
平民よ、貴族よ。海や自然の豊かなこの国で、争うのか。平和と愛こそ、大事なのではないか。
「平民よ、貴族よ」Plebe! Patrizi!
「平民よ、貴族よ」Plebe! Patrizi!|シモン・ボッカネグラ
ジェノヴァの貴族の対立のもととなった、教皇派と皇帝派(カノッサの屈辱)について簡単に書いています。
(フィエスコに向かい)総督と和解をしてください。
(なんてことだ。この国は海賊の手の中だ。)
(アメーリアが無事でよかった。)
人々
総督の言葉は信頼できる。怒りの心も穏やかになる。
シモンの言葉を聞き、民衆は静かになる。
総督。剣を渡します。
真相を明らかにするために、今夜だけ囚人でいてくれないか。剣は君が持っていなさい。
わかりました。
パオロ!お前は民衆に信頼されている。だから、私に協力しなさい。私は悪人が誰かわかった。私の怒りがその人物に向かうように、私の言葉を繰り返してくれ。呪われよ!
(顔は青ざめて)呪われよ!
人々
呪われよ!
シモン・ボッカネグラ、オペラ:第2幕のあらすじ
宮殿内、総督の部屋
夜、テーブルには水差しとコップが置いてある。総督シモンの部屋に忍び込んだ、パオロは水差しに毒を入れる。
俺は自分を呪ってしまった。シモンよ、お前の水差しに毒を入れたぞ。そして、暗殺者を用意してやろう。毒か、剣か、死を選ぶといい。
パオロのもとに、フィエスコとガブリエーレが連れられてくる。
パオロ、お前は残忍な顔をしているな。
俺は、お前が総督に恨みを抱いていることを知っている。ここは総督の部屋だ。隠れて待っていれば、シモンが寝た隙に殺すことができるぞ。
私に悪事をさせようとしているのか?考えるまでもなく、断る!!
断るのか、それならば牢に戻れ。
フィエスコは牢に戻っていく。ガブリエーレも戻ろうとするが、パオロに引き止められる。
卑劣な計画には乗らない。
いいのか?シモンは、アメーリアに目をつけているぞ。彼女はこの宮殿にいる。さあ、あいつを刺すといい。
パオロは、総督の部屋を出て行く。部屋に残った、ガブリエーレ。
怒りを静めることができない。アメーリアが清らかなままでいますように。もしアメーリアが汚れれば、彼女に会うことは二度とないだろう。
「我が心に炎が燃える」Sento avvampar nell’anima
「我が心に炎が燃える」Sento avvampar nell’anima|シモン・ボッカネグラ
シモンとアメーリアが親子だと知らないので、苦悩しています。
総督の部屋にアメーリアが入ってくる。
ガブリエーレ、なぜここに?
君こそ、なぜここに?
総督と私の間に、あなたが心配することは何もありません。この秘密はまだ言えないのです。
話してくれ、君の清らかな心で、恋人である私に喜びを取り戻させてくれ。
疑うことなど何もないのです。嵐を取り去ってください。総督が来る!去って下さい。
ガブリエーレが去り、シモンが自室に戻ってくる。
娘よ。先ほど、お前は泣いていたね。だが、あの若者は私の敵だ。
勇敢な人で、私を愛してくれています。彼を失うくらいなら、一緒に死にます。
ああ、娘とやっと再会できたのに、敵が娘を奪っていくのか。彼が悔い改めてくれれば、和解することができるだろう。しばらく、ひとりにしてくれ。
アメーリアは部屋を出て行く。
国を統治するのはこんなにも大変なのか。ああ、のどが渇く。なぜか水が苦いな。眠くなってきた。
水差しから水を飲み、眠りにつく。隠れていた、ガブリエーレが出てくる。
眠っている。シモンは、亡くなった父親の敵なのに、何かが刺すのをためらわせる。
部屋に戻ってきたアメーリア。
眠っている老人の命を奪うのですか。総督と私の間には、清らかな愛しかありません。
シモンが目覚める。
私を刺すがいい。だが、君はすでに私に復讐している。大切な娘を奪ったのだからな。
アメーリアの父親だったのか。許してくれ、僕の嫉妬心を。総督、僕に死を与えてください。
(お母さん、天国から娘を見守ってください。お父さんが許してくださいますように。愛のためにしたことです。)
(私の政敵に手を差し伸べなければならないのか。そうだな。平和のために憎しみを静めよう。)
部屋の外から、貴族派の人々が集まり大きな声を上げている。
貴族派の人々の声
武器を持て。シモンを倒すのだ。
ガブリエーレ、君も外の仲間に加わるといい。
あなたと敵対するなんて、できません。あなたと共に戦います。
それなら、外の仲間に私の言葉を届けてくれ。君の勇気に対して、娘が最高の褒美となるだろう。
お父様!!
シモンとガブリエーレは武器を手にして、出て行く。
シモン・ボッカネグラ、オペラ:第3幕のあらすじ
総督の宮殿
夜明け、宮殿内は慌ただしく、人々が勝ちを喜んでいる。フィエスコが牢から出てくる。
人々の声
シモンが勝った。総督が勝ったぞ。
貴族派は負けた。
フィエスコが釈放されているところに、パオロが牢に連行されていく。
パオロ、お前はどこに連れて行かれるのか?
処刑台さ。俺が貴族派を手引きして、宮殿に入れたんだ。だが、俺より先にシモンが死ぬさ。彼に毒を盛ったからな!!
ああ、結婚式の賛美歌が聞こえる。…俺が誘拐した女(アメーリア)と、ガブリエーレと結婚するなんて。
お前が、アメーリアを誘拐したのか!!!汚らわしい男だ。
体調が悪い様子のシモン。宮殿から海を見て、嘆いている。
体に不穏な炎が駆け巡っているようだ。
潮風が心地いい。かつて海で過ごした日々が懐かしい。なんと海が恋しいことか。なぜ海で死ぬことができなったのか。
「海のそよ風よ」Oh refrigerio!
シモンにフィエスコが近づく。
お前には海のほうがよかったのかもな。遠い昔、私の声を聞いたことがあるはず。私が誰かわからないのか。
フィエスコか。やっと会えたぞ。私たちを天使が繋いでくれる。友情の絆でもって。アメーリア・グリマルディは、あなたの本当の孫なのですよ。…あなたは涙を?
そうだ。泣いている。このような喜びを、なぜ早く知ることができなかったのか。
あなたを抱きしめましょう。マリアの父上よ。あなたの許しは私の魂には香油になるのです。
大変だ。君は裏切り者によって、毒を盛られてしまったぞ。
死の予感は感じていました。娘が来る。彼女には知らせないで下さい。娘を祝福してやりたいのです。
シモンとフィエスコがいる場所に、アメーリアとガブリエーレがやって来る。ふたりの結婚を祝福する議員たちも一緒に。
(フィエスコに)あなたがなぜここに?
娘よ、お前を産んだ母親の父が、この方(フィエスコ)だよ。
嬉しいわ。憎しみが終わり、皆が和解できたのですね。でも、なぜあなたは悲しそうなのです?
お前に大きな悲しみが近づいている。私に最期の時が迫っている。偉大なる神よ、彼らを祝福したまえ。
そんな、死なないで下さい。
義父上、こんなにも早く幸福の時間が過ぎるなんて。
なんてむなしい。この世は。
議員たちよ。私の最後の言葉を聞いてくれ。総督を引き継ぐのは、ガブリエーレだ。フィエスコ、よろしく頼む。マリア!!
お父さん!
フィエスコが、バルコニーから民衆に話しかける。
ジェノバの人々よ。ガブリエーレが総督になった。彼を祝福してくれ。
人々
総督はシモンだ。
シモンは亡くなった。彼のために祈ってくれ。