「トリスタンとイゾルデ」は、ワーグナーが「楽劇」という新しいスタイルを確立した作品。独立したアリアはなく、音楽が休みなくつづく「無限旋律」で出来ているのが特徴です。もともと面識のあったトリスタンとイゾルデが「媚薬」によって恋人になり、二人の世界に入り込み、死に向かう話です。「トリスタンとイゾルデ」の見どころは「イゾルデの愛の死」Mild und leise wie er lächelt、「愛の二重唱」O sink hernieder, Nacht der Liebe です。
トリスタンとイゾルデ、オペラ:人物相関図
トリスタンとイゾルデ、オペラ:登場人物
トリスタン | マルケ王の甥、騎士 | テノール |
イゾルデ | アイルランドの王女 | ソプラノ |
マルケ王 | コーンウォール王 | バス |
ブランゲーネ | イゾルデの侍女 | メゾソプラノ |
クルヴェナール | トリスタンの従者 | バリトン |
メロート | マルケ王の家臣 | テノール |
- 原題:Tristan und Isolde
- 言語:ドイツ語
- 作曲:リヒャルト・ワーグナー
- 台本:リヒャルト・ワーグナー
- 原作:ゴットフリート・フォン・シュトラウスブルクの同名の叙事詩
- 初演:1865年6月10日 ミュンヘン バイエルン宮廷歌劇場
- 上演時間:3時間50分(第1幕80分 第2幕75分 第3幕75分)
トリスタンとイゾルデ、オペラ:簡単なあらすじ
イゾルデはマルケ王との結婚を望んでいない。彼女はトリスタンを毒殺し、自殺を図ろうとする。それに気づいたイゾルデの侍女は、毒を媚薬にすり替える。二人はその媚薬を飲む。二人は恋に落ちるが、政略結婚は避けられない。
トリスタンとイゾルデは不倫の仲になってしまう。不倫を知ったメロートはマルケ王に告げ口する。メロートは剣を抜き、トリスタンは応戦する。
重傷を負ったトリスタンは自分の城に戻る。そこにイゾルデが船でやって来る。二人は会えるが、トリスタンは死んでしまう。マルケ王が二人を許しにやってくる。イゾルデは悲しみのあまり死んでしまう。
トリスタンとイゾルデ、オペラ:解説
第1幕 アイルランドからコーンウォールへ向かう、船での出来事
第2幕 コーンウォールのマルケ王の城の中
第3幕 ブルターニュ、トリスタンの城での出来事
トリスタンとイゾルデ、オペラ:第1幕のあらすじ
前奏曲
船上
アイルランドからコーンウォールに向かう船の上。天幕が張られた簡易の船室。アイルランドの王女イゾルデは、コーンウォールのマルケ王と政略結婚をするため、船旅をしている。
ここはどこかしら?
侍女(ブランゲーネ)
もうすぐコーンウォールにつきます。
我が家の名門は衰えてしまったんだわ。ご先祖様は役に立たない。母の力は衰えてしまったのね。魔法の香油を作るしかできないなんて。私に力があれば、嵐を起こして船を打ち砕いてしまいたい。
侍女(ブランゲーネ)
どうしましょう。こんなことになるのではと心配していました。何を気に病んでいるのですか?私を信用してお話しください。
空気を。息が苦しい。そこを大きく開けて。
侍女は船室のカーテンを開ける。
私のために選ばれながら、私から失われた人。あの方をどう思う?
侍女(ブランゲーネ)
どなたのことですか?
あの人よ。私の視線を避けて下を向いている人よ。どう思う?
侍女(ブランゲーネ)
トリスタンのことですか?すべてにおいて奇跡であり、人々に称えられ、比類なき英雄です。
(嘲笑して)私を恐れて逃げ回っているのよ。主人のために死体になった花嫁を手に入れたのですから。私に気を遣うどころか、挨拶すらしていないわ。誇り高い方に伝えて「イゾルデを恐れよ」と。
侍女(ブランゲーネ)
挨拶に来るように、伝えるのですね。
イゾルデはブランゲーネをじっと見て見送る。
従者(クルヴェナール)
トリスタン、イゾルデの侍女がこちらに向かってくるぞ。
何?イゾルデだと。
ブランゲーネが来る。
侍女(ブランゲーネ)
トリスタン様。あなたに会うことをイゾルデ様は望んでいます。
長時間の移動でご迷惑をおかけしました。ですが、旅は終わろうとしています。太陽が沈む前に、私たちは国に着きます。彼女が命じることなら、何でも実行しますよ。
侍女(ブランゲーネ)
来て頂けるのでしょうか?
どこにいようと忠実に役目を果たしています。今、私が舵を離れてしまったら、どうやってマルケ王のもとにたどり着くというのでしょう?
侍女(ブランゲーネ)
イゾルデ様からの伝言です。「イゾルデを恐れよ。」とのことです。
従者(クルヴェナール)
一言いいですか?
何を言うのか?
従者(クルヴェナール)
トリスタン様は英雄なんだぞ。いくらイゾルデ様が怒ろうとも。
侍女が怒って立ち去り、その後ろ姿にクルヴェナールが歌を歌う。
従者(クルヴェナール)
「コーンウォールへの年貢のために、海に乗り出したモロルト殿。今や、アイルランドでさらし首。彼の首は、イングランドから年貢として払われた。」
「モロルトの歌」Herr Morold zog zu Meere her
モロルトは、イゾルデの婚約者の名前。死亡した。
トリスタンは従者をとがめる。侍女はイゾルデの元に戻る。
侍女(ブランゲーネ)
ひどい。これを受け入れないといけないの!
何があったか教えてちょうだい。
侍女(ブランゲーネ)
トリスタン様は、どこにいようともお役目を果たします。持ち場を離れることはできない。とのことでした。従者にひどいことを言われました。
あの歌は私にも聞こえたわ。
「アイルランドの海岸に、瀕死の男が乗った小舟がたどり着いた。私は男を助けた。しばらくして私は、男が名乗ったタントリスは偽名であり、コーンウォールの騎士トリスタンである、と見破った。彼が私の婚約者モロルトの仇であることにも気が付いた。私は復讐を遂げようとしたが出来ずに、彼は国へ帰ってしまった。」
「タントリスの歌」Von einem Kahn, der klein und arm
タントリス…トリスタンがとっさに使った偽名。
私に必要なのは、毒薬よ。トリスタンを呼びなさい。飲み物に毒を入れておきなさい。
従者クルヴェナールが部屋に入ってくる。
従者(クルヴェナール)
ご婦人方!もうすぐ到着します。準備をしてください。
トリスタン様にご挨拶をしたいと伝えてください。
トリスタンが来る。
何をお望みですか?
イゾルデは恨み辛みを言い、最後に和解の杯を交わそうと渡す。トリスタンが飲み、イゾルデも杯を奪い飲む。
裏切者、あなたのために飲むのよ。
毒薬のはずが、二人は恋に落ちる。
(侍女に)なぜ、生きているの?この薬は、いったい何?
侍女(ブランゲーネ)
毒薬の代わりに媚薬を入れました。
なんてこと。生きなければならないの?
イゾルデはトリスタンの腕の中で失神する。
トリスタンとイゾルデ、オペラ:第2幕のあらすじ
前奏曲
マルケ王の城、中庭
イゾルデとブランゲーネは様子を伺っている。
まだ聞こえるの?私には遠くに行ったように聞こえるけど。
侍女(ブランゲーネ)
まだ近くにいます。まだホルンの音が聞こえます。イゾルデ様、あなたが待っている方を密告者が狙っています。メロートを警戒してください。
メロートのこと?彼はトリスタンの友達よ。
愛の女神はこのように望んでいるのよ。「夜よ、来い。松明よ、消えてしまえ」あなたは見張りをしなさい。この松明が私の命だとしても、笑って消してしまえるわ。
イゾルデは、気にせずにトリスタンと会う。
昼が私たちの愛の邪魔をする。
私たちには、夜こそぴったりなのだ。昼の偽りや嘘が、ふたりを引き離すことなど出来はしない!
でも、昼がトリスタンを起こさずにいられるのでしょうか?
あんな昼など、死に打ち負かされてしまえばいい!
ふたりで
ああ、沈みゆけ愛の夜よ。生きていることを忘れさせよ。この世界から私を解き放て。
「愛の二重唱」O sink hernieder (Love Duet)
「愛の二重唱」O sink hernieder (Love Duet)|トリスタンとイゾルデ
遠くから見張っているブランゲーネの歌声。
侍女(ブランゲーネ)
寂しく見張るこの夜よ。気をつけてください。やがて夜は更けていく。
「見張りの歌」Einsam wachend in der Nacht
聞こえた、愛しい人。
それならば、一緒に死のう。
ブランゲーネの叫び声が聞こえる。
従者(クルヴェナール)
お逃げください。トリスタン様。
味気ない昼だ、これで最後だ。
マルケ王が城に戻る。
王の臣下(メロート)
私の忠告は正しかったでしょう。
本当なのか?愛する甥に裏切られるなんて。なぜこのようなことになったのか理由を言ってくれ。
それにはお答えできません。
トリスタンは決心をする。
イゾルデ、一緒に「夜の国」に行こう。
あなたに従います。「夜の国」への道を示してください
二人はキスをする。メロートはトリスタンに剣を抜く。トリスタンも剣を構えるが、自ら剣を落として、家臣に斬られ負傷する。マルケ王がメロートを止めて、その場は収まる。
トリスタンとイゾルデ、オペラ:第3幕のあらすじ
前奏曲
ブルターニュにある、トリスタンの城
瀕死のトリスタン。海の見える城にいる。その場にいるのは、トリスタンと従者。
昔の調べだ。どうして私は目覚めたのか?
従者(クルヴェナール)
トリスタン様!懐かしい光にいれば、死と傷から回復されますよ。
そう思うか?私はそうは思わない。
従者(クルヴェナール)
イゾルデ様がこちらに向かっています。
イゾルデが来る。
従者(クルヴェナール)
まだ船は見えません。
クルヴェナールが、横たわるトリスタンの体を起こす。
夜の国に行ったが、昼の光が私を呼び戻した。イゾルデは、今も昼の国にいる。イゾルデ、なんという憧れ!あなたはいつになったら光を消してくれるのか?
従者(クルヴェナール)
彼女は今日のうちに到着します。
その船にイゾルデが乗っているのか。
イゾルデの船が到着する。イゾルデがトリスタンのもとに現れる。
この太陽、この昼。イゾルデ!光が消える。あの人のもとへ。
私よ!トリスタン!目覚めてください。
トリスタンの死。イゾルデはショックのあまり気を失い、遺体の上に倒れる。
続いて別の船がやってくる。船には、マルケ王、メロート、部下たち、イゾルデの侍女が乗っていた。従者とメロートが戦い、家臣メロートが死ぬ。従者はさらにマルケ王や部下に立ち向かい、従者クルヴェナールが死ぬ。
皆、死んでいく。
侍女が倒れているイゾルデを抱きかかえて、話しかける。
侍女(ブランゲーネ)
イゾルデ様!生きている。起きてください。
あの人が、穏やかに静かにほほえんでいるわ。みんなには見えないの?あの人に包まれ、私は宇宙と一体になるわ!なんという喜び。
「イゾルデの愛の死」Liebestod (Mild und leise)
イゾルデはトリスタンの遺体の上に倒れる。イゾルデの死。
「イゾルデの愛の死」Liebestod (Mild und leise)|トリスタンとイゾルデ