マスネのオペラ「ウェルテル」は、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」を原作としています。原作のもつ、叙情的な面と、マスネが作るフランス音楽の繊細な旋律が合わさったオペラです。オペラ「ウェルテル」の見どころは「手紙の歌」Werther! Qui m’aurait dit…Ces lettres!「オシアンの歌・春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか」Pourquoi me réveiller, ô souffle du printemps?です。
ウェルテル、オペラの人物相関図
ウェルテル、オペラの登場人物
ウェルテル | 詩人 | テノール |
シャルロット | 大法官の娘 | メゾソプラノ |
アルベール | シャルロットの許婚 | バリトン |
ソフィー | シャルロットの妹 | ソプラノ |
大法官 | シャルロットの父 | バス |
シュミット | 大法官の友人 | テノール |
ヨハン | 大法官の友人 | バス |
- 原題 Werther
- 言語 フランス語
- 作曲 ジュール・マスネ
- 台本 エドゥアール・ブロー、ポール・ミリエ、ジョルジュ・アルトマン
- 原作 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ「若きウェルテルの悩み」
- 初演 1892年2月16日 ウィーン宮廷歌劇場
- 上演時間 2時間10分(第1幕45分 第2幕35分 第3幕30分 第4幕20分)
ウェルテル、オペラの簡単なあらすじ
詩人のウェルテルは、シャルロットに一目惚れした。彼女は亡き母に代わり、家族の面倒をみている。彼女には亡き母が決めた婚約者がいる。彼女はウェルテルの愛の告白を断り、婚約者と結婚する。悲観的な性格のウェルテルは、死を選択する。
ウェルテル、オペラの第1幕のあらすじ
前奏曲
フランクフルト近郊、大法官の家の庭
自然豊かな、のどかな家の庭。父である大法官と6人の子供たちが庭に集まっている。クリスマスの歌を歌う、子供たち。
大法官(父親)
もういい、もういい。今度はちゃんと歌いなさい。
子供たち
クリスマス、イエスが生まれ、ここに私たちの神が…
「合唱」Noël! Noël!
大法官(父親)
シャルロット姉さんが聞いているぞ。
子供たちが真面目に歌い始める。大法官を訪ねて、友人二人が訪問。
大法官の友人ら
上手に歌えているね。7月なのにクリスマスの歌を歌うなんて、大法官は準備がいいね。
大法官(父親)
きちんと歌えるようになるのは簡単ではないよ。
大法官の友人ら
シャルロットはどこにいる?
ソフィー(妹)
姉は舞踏会に行く準備中よ。
大法官(父親)
友人や親せきが集まる舞踏会がウェッツラーで行われるのだ。
大法官の友人ら
そういうことか。どうりで、コッフェルはフロックコートを着ているし、スタイナーは、醸造家の馬を確保したり、ホフマンは馬車を用意していたんだな。だが、ウェルテルは楽しそうにしていなかったな。
大法官(父親)
いい若者だよ。
大法官の友人ら
社交の場では感じが良くないだろうね。彼は陽気ではないから。
大法官(父親)
ウェルテルは大使館の仕事が約束されていると言われているよ。
大法官の友人ら
外交官だって?彼は社交には向かないだろう。それじゃ、あとで酒場で会おう。ところで、アルベールはいつ戻ってくるの?
大法官(父親)
わからない。仕事はうまくいっているそうだよ。
大法官の友人ら
アルベールはいい男だ。シャルロットとアルベールの結婚式には喜んで参加するぞ。
友人らは帰って行く。大法官は子供たちに家の中に入るよう促す。
ウェルテルが大法官の家を訪ねてくる。家の中をのぞき、家族の慈愛に満ちた様子に感動する。
なんて素晴らしいんだ。ここにはすべてがある。
ウェルテルが、大法官の家に来たのは、舞踏会に行くシャルロットをエスコートするため。
大法官が家を覗いていたウェルテルに気がついて、声を掛ける。
大法官(父親)
シャルロットを迎えにきたのだね。私の娘は、妻が亡くなった後、子供たちの世話をしてくれている。
お待たせしてごめんなさい。私は子供たちの母のようなものなのです。「私の子供たち」だと思って愛しているのですよ。
大法官の家に、舞踏会に行く若いカップルも来た。ウェルテルが挨拶として、子供たちのひとりに頬にキスをすると、嫌がられる。
(嫌がった子供に向かって)このお兄さんは、あなたのいとこよ。
いとこですって?私にその価値があるのですか?
ええ、いとこよ。たくさんいるものなのよ、いとこは。ソフィー、子供たちの面倒を頼むわね。
(シャルロットは完璧だ。愛と真心の理想の姿だ。)
舞踏会に行く若者たちは出かけていく。シャルロットの婚約者、アルベールが大法官宅を訪ねてくる。
ソフィー(妹)
アルベール、戻ってきたのね。お姉さんも喜ぶわ。
アルベール(婚約者)
シャルロットはいるかい?
ソフィー(妹)
今晩はいないのよ。いつもは出かけないけれど。帰ってくるなら教えてくれればよかったのに。
アルベール(婚約者)
驚かせたかったんだ。彼女のことを聞かせて。私のことを覚えていてくれたかどうかを聞きたいよ。6か月も離れていたから。
ソフィー(妹)
みんないなくなった人を思っていたわ。あなたは姉の婚約者でしょう。それに、結婚式の準備をしていたわ。
アルベール(婚約者)
さあ、君は家に戻って。子供たちが君を探して、私が帰ってきたことがわかってしまう。夜明けに彼女に会いに来るよ。
ソフィーは部屋に戻る。アルベールはソフィーを見送って帰る。
アルベール(婚約者)
彼女は私を愛している。私のことを考えてくれている。感謝の祈りを込めて、愛は私の心から私の口へと昇っていく。
「彼女は私を愛している」Elle m’aime!
夜、月が出ている、家の庭
舞踏会から帰ってきたシャルロットとウェルテルが庭にいる。シャルロットは、別れの挨拶をして去ろうとする。
あなたの瞳をずっと見ていたい。あなた以外に興味がないのです。
でも、あなたは私のことを知らないでしょう。
私の魂は、あなたの魂を見分けました。最高の人だ!
違うわ。
あなたが「私の子供たち」と呼ぶ存在を言わないとだめかな。
「私の子供たち」…私ではなく「母」の子供たち。家族にとって、母は大切な存在でした。今でも母に会いたい。
生涯をかけて、あなたの瞳を守ろう。愛しています。
シャルロットは我に返り、家に帰ろうとする。
あなたとまた、会えますか?
家の中から、大法官の声が聞こえてくる。
大法官の声
シャルロット、アルベールが帰ってきたぞ。
私には、アルベールという婚約者がいます。決めたのは亡くなった私の母です。
シャルロットは去り、一度振り返る。
(あなたの母との誓いを守ってください。私は、そのために死ぬ。)
ウェルテル、オペラの第2幕のあらすじ
前奏曲
教会の前の広場
牧師の金婚式のために、人々が教会に集まっている。大法官の友人らが、居酒屋前のテーブルで酒を飲んでいる。シャルロットとアルベールが、菩提樹の下のベンチに座り話す。
アルベール(夫)
結婚してから3カ月が経ったね。どれだけ大切に君を思っているか、知ってほしい。でも、私は君を幸せにできているだろうか。
女性の側に、まっすぐな心と誠実な魂を持つ人がいるのに、後悔することなんてあるでしょうか。
アルベール(夫)
なんて甘い言葉。それを聞くことができて、私はどれだけ幸せか。
ふたりは教会に入っていく。ウェルテルが、ふたりの仲むつまじい様子をみて、苦悩する。
(別の男が、彼女の夫だ。彼女が愛したのは私だったかもしれないのに。)
悲しみのあまり、ベンチを動けずに座っている。アルベールが教会から出てきて、ウェルテルに声を掛ける。
アルベール(夫)
私の魂が満たされている幸せに、時には自責の念が混じることも…。
自責の念ですって?
アルベール(夫)
結婚前にシャルロットと君の間に、感情が近づいたことを知っている。君の恋が叶わなかったことを気の毒に思うよ。妻との間にあったことは、すべて許そう。
ふたりに、妹のソフィーが花束をもち、駆け寄ってくる。
ソフィー(妹)
(アルベールに)義兄さん。牧師さんのために作った花束を見て。踊りましょうよ。
(ウェルテルには)あなたもあとで一緒に踊りましょう。なんてあなたは暗い顔をしているの。今日はみんな幸せになる日なのよ。
アルベール(夫)
ウェルテル、君は近くの幸福を見逃している。笑みを浮かべ、花束を持って、近くにいるのに。
アルベールとソフィーは、牧師の館に入っていく。
(私は真実を言っただろうか。私のシャルロットへの愛は、神聖なもの…そうだろうか。罪深い欲求はなかったのか。私は嘘をついていた。恥ずかしい。立ち去りたい。)
ウェルテルが遠くにいるシャルロットを見かける。
(立ち去る?それはできない。彼女に近づきたい。)
シャルロットに声をかける、ウェルテル。
初めて出会ったときの親密さに満ちた日は、遠くなったね。
アルベールを愛しています。あなたは他の女性を愛するべきよ。
愛しています。
遠くに去ってください。
遠くに行こう。だが、永遠に会えないのは、つらすぎる。
私はそこまで厳しくないわ。またクリスマスに会いましょう。
二人が出会ったのが、7月。シャルロットの結婚から3ヶ月過ぎ、次に会うのは、クリスマス
シャルロットは去る。ウェルテルは彼女を追いかけるが、諦めて戻ってくる。
(そうだ。彼女が命じるなら、遠くに行かなくては。彼女の心の平安のためだ。永遠に休息したい。父は子が予定より早く旅から帰ってきても、最初は怒っても、迎え入れるものだ。神もそうだろう。)
「そうだ。彼女が命じるなら」Oui! ce qu’elle m’ordonne
ウェルテルが去ろうとした所に、妹のソフィーが通りかかる。
この町から去るんだ。私は永遠に戻らないだろう。
ウェルテルはソフィーに別れを言い、立ち去る。ソフィーは突然のことに驚き、泣く。妹の様子にシャルロットが気がつき、アルベールも声を掛ける。
どうしたの?
ソフィー(妹)
ウェルテルがここから永遠に去ると言って、どこかに行ったわ。
シャルロットとアルベールは驚く。
ウェルテル、オペラの第3幕のあらすじ
前奏曲
アルベールの家の一室
クリスマスイブの夕方。シャルロットは、ひとり物思いにふける。
ウェルテル。私の心は、彼で占められている。彼から届いた手紙…捨てられない。破り捨てるべきなのに。
(ウェルテルからの手紙を読む)
「12月の暗い空、私はひとりです。あなたは「クリスマスに」と言い、私は「二度と」と言った。どちらが本当のことを言ったのか、わかるだろう。約束の日に私が現れなくても、私を責めずに、私のために泣いて欲しい。あなたは手紙を読み、涙を流し、身震いするだろう。」
身震いするだろう!身震いするだろう!!
「手紙の歌」Werther! Qui m’aurait dit…Ces lettres!
「手紙の歌」Werther! Qui m’aurait dit…Ces lettres!|ウェルテル
妹のソフィーが家を訪ねてくる。ソフィーは、ふさぎ込む様子でいる姉のシャルロットを心配をする。
ソフィー(妹)
こんにちは。お姉さん。様子を見に来たわ。ウェルテルがいなくなってから、みんなが暗くなってしまったわ。
あなたまでウェルテルのことを言うなんて。(涙を流して、ソフィーが戸惑う)涙を流さないと魂の中にたまっていって、心がつらくなるのよ。
ソフィー(妹)
ここにいたらダメだわ。実家に帰って父や子供たちに顔を見せて。
ええ、たぶん。
ソフィーは帰って行く。シャルロットは神に祈る。
神よ、私の弱い心を支えてください。
ウェルテルがシャルロットの家に訪問。ウェルテルは顔面蒼白で、今にも気絶しそうな様子。
私だ。あなたと離れている間、会わずに死んでしまおうとした。でも、私は来てしまった。ドアの前でも、逃げてしまいたかった。そのようなことはどうでもいい。ここに今、私はいる。
死ぬなんて、どうしてそのようなことを言うの。みんなあなたを待っていたのよ。
では、あなたは?
シャルロットは答えない。ウェルテルは部屋にあった銃を見つける。
この銃は以前触ったことがある。私の憧れる永遠の休息を待ちきれないよ。
シャルロットは聞かなかったふりをして、ウェルテルが翻訳していた「オシアンの詩集」を渡す。ウェルテルが詩を朗読する。
オシアンの詩集。私の魂はこの中にある。春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか。
「オシアンの歌・春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか」Pourquoi me réveiller, ô souffle du printemps?
「オシアンの歌」Pourquoi me réveiller|ウェルテル
「オシアン」は、スコットランドの伝説的な詩人。スコットランドの詩人、マクファーソンが発見して翻訳。18世紀ヨーロッパでブームになり、多くの作家に影響を与えた。
終わらせないで。この絶望、悲しみ。私にはそう見える。
神よ、そうなのか。その震える声で、その涙に満ちた甘い瞳で言うのは告白ではないのか?
シャルロットは思わずウェルテルに抱きつく。ウェルテルは感動するが、シャルロットはすぐに我に返る。
あなたは私を愛している!
違います。私たちを隔てているものを忘れられるでしょうか。
後悔も苦しみもない。あなたは私を愛している!
違います。神よ、私をお守りください。
シャルロットは部屋から出て行く。
シャルロットが私に裁きを下した。死を選ぶしかない。
ウェルテルは立ち去る。夫のアルベールが帰宅する。
アルベール(夫)
(ウェルテルが帰ってきた。彼が帰ってきたのを見た人がいる。)誰もいないのか?シャルロット。
シャルロットが部屋の奥から出てくる。
アルベール(夫)
ここに誰かいたのか?
…。
召使いがウェルテルから預かった手紙を持ってくる。アルベールがウェルテルからの手紙を読む。
アルベール(夫)
「遠い旅に出るので、拳銃を貸してください。」だと!ふざけるな!シャルロット。ウェルテルの希望通り、拳銃を渡すように。
シャルロットは、拳銃の入った箱を召使いに渡す。召使いは箱を持って出ていく。アルベールはすべてを見届けてから、ウェルテルからの手紙を投げ捨て、出て行く。
シャルロットは家から出て、ウェルテルのもとへ向かう。
ウェルテル、オペラの第4幕のあらすじ
間奏曲
ウェルテルの部屋
シャルロットが急いで入ってくる。
ウェルテル!神よ、血が!
シャルロット。私を許してくれ。
助けを呼びに!
誰も呼ばないでくれ。私に必要なのは、あなたの助けだけ。
あなたを愛しているわ。最初に出会ったときから。死が迫っているのなら、口づけをしましょう。
墓地の外れに、二本の菩提樹がある。その間に葬ってくれ。もし無理なら、寂れた谷間に、葬ってほしい。牧師は見向きもしないだろう。でも、ある女性が来てくれる。優しい涙によって、男の魂は救われるだろう。
ウェルテルは死ぬ。外から、クリスマスを祝う子供の声。